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マイナポイント第2弾が伸び悩む理由


 皆さんこんにちは、先日、マイナポイントの予算が余りそうだという記事を目にしました(会員じゃないので全文は見れませんでしたけど)。


 政府は、マイナポイントがマイナンバーカード普及の切り札だ位に息巻いていましたが、実際はそうでもなかったのかもしれません。実際、7月末時点でのマイナンバーカードの普及率は45.9%と過半数割れです。


 そこで今回は、マイナポイント第2弾がなぜ伸び悩んでいるのかという、現役公務員としてはかなりヤバイ考察をしていこうと思います。現場で感じたことも参考にしていければと思います。



1.マイナポイントの源流

 現行の事業がマイナポイント「第2弾」と言われている以上、第1弾についても触れておかねばなりません。マイナポイントの源流、マイナポイント第1弾は、令和2年(2020年)9月にスタートしました。マイナンバーカードを取得した人に対し、最大5,000ポイント分のポイントを付与するというものです。

 ポイントは、手持ちのキャッシュレス決済に付与されるもので、無条件ではなく、マイナンバーカードと電子証明書(暗証番号を使ってオンラインで利用できる機能)を用いて申し込んだ後、対象のキャッシュレス決済で買い物した金額に対するポイントバックという形で付与するというものです。

 システムとしてはこのうえなくややこしいのですが、マイナンバーカードを作れば5,000円分のポイントがもらえるという触れ込みは、普及率が低かった当時はかなり効果的な触れ込みだったようで、申請件数が爆上がりしたそうな。

 ちなみに、マイナポイントが始まったころの私はまだ別の部署でしたし、マイナンバーカードなんて興味もなかったので、マイナポイントについては全く知りませんでした。てっきり、マイナンバーカードにポイントがついて、住民票とかをとったりするのに使えるんだと思っていましたよ。



2.マイナポイント「第2弾」の登場

 マイナポイントが始まってから約1年後の令和3年(2021年)10月31日、衆議院議員の総選挙が行われることになりました。そこで某政党が、マイナンバーカード取得者に対し、一律30,000円相当のポイントを付与することを公約として掲げました。これがマイナポイント第2弾の始まりでしょう。

 総選挙の結果、その政党は一定数の議席を確保し、マイナポイント第2弾は本格的に動き出すであろうという予測が立ち始めました。

 実際、この一律3万円の公約が報道されてから選挙直後までの1ヶ月間は、カードの申請件数が一時的に跳ね上がりましたし、電話での問い合わせもものすごい件数でした。



3.マイナポイントまさかの仕上がり

 そんなわけで、国民の期待を背負ったマイナポイント第2弾は、政府関係者内での調整の結果、下記の通りとなりました。

・付与ポイント額は、第1弾の5,000ポイントを含む20,000円とする

・ポイント付与は、カードの新規取得で5,000円分(いわゆる第1弾)、マイナンバーカードの保険証利用登録で7,500円分、公金受取口座の登録で7,500円分の3段階とする


 一律30,000円付与から一転して、条件を満たすことでようやく20,000円分付与というほぼ別物に仕上がりました。職場でも「全然違うやん!」というツッコミの声と「どうやって申し込むねん…」という案内方法への不安の声が上がりました。

 この衝撃は、国民にも広がったらしく、新しく仕上がったマイナポイント第2弾の報道があってからは、申請件数が従来以上に落ち込みました。



4.衝撃の「申し込み開始:未定」

 そんなわけで、当初とは全然違う制度に仕上がったマイナポイント第2弾ですが、極めつけは申し込み開始時期が「未定」だったこと。なんだったらポイント付与の条件の1つである公金受取口座登録制度に至っては登録すらまだ始まってもないという衝撃の状態。

 全国の自治体職員は、事業の全容や個別具体の手続き方法についてまったく情報が下りてこないまま、「カードを作れば20,000円がもらえる」という漠然とした触れ込みに対して市民対応することとなりました。

 ポイントについて聞かれても「わかりません」「まだ始まっていません」「未定です」としか答えようがなく、その結果、「なんでそんなことも知らないんだ!」「無責任だ!」などと理不尽にブチ切れられたりしました。

 また、「公金受取口座を登録すると政府に預金残高を見られる」「保険証利用登録をすると従来の保健証は取り上げられる」などといった誤った情報が広がり、イメージもダウンしました。

 結局、公金受取口座登録制度自体が始まったのは年明けの確定申告から(一般の申し込みは3月末から)、ポイント申し込み開始は6月末からと、マイナポイント第2弾が生まれてから実際に動き出すまでに、結構な時差が生まれました。



5.全然悪い制度じゃない

 とまぁ、マイナポイントを半分ディスったような書きぶりですが、私自身はマイナポイント非常にお得な制度だと思っています。カードを作ってから何個か手続するだけで2万円のお買物券がもらえると考えたら割とオイシイ話じゃないですか?

 実際、8月3日には全国の申込者数は1,000万人を超えたそうですし、マイナポイント第2弾の申し込みが開始した6月30日からは、うちの窓口は連日地獄になっています。やはり一定の反響はあったと評価できるでしょう。


 そもそも、ポイント云々関係なしにマイナ保険証や公金受取口座の制度は便利なものだと私は思っています。紙ベースではどうしても時間がかかってしまっていた確認作業も、オンラインなら一瞬で処理できますから。行政側としても負担が軽減されますし、使う側としても実際に使ってみたら効果を実感できると思います。上記とは違いますが、私もコンビニで住民票の写しが取れた時はかなり助かりましたし。



6.マイナスなイメージが育ちすぎた

 以上ふまえて私が思っていることは、複雑な条件と長い準備期間が原因で、国民のマイナポイント(もしくはマイナンバーカードそのもの)に対するネガティヴなイメージが育ちすぎたのかなと思います。

 一律3万円ドーン!!と打ち出してから、条件達成で2万円に変更してしまったことで、「なんか手続きが面倒くさいやつよね?」「予算ケチったんかな」というイメージを生んでしまったのは確かだと思います。私もそう思いましたし。

 また、制度や手続きの概要がすぐに公表されなかったことで、あらぬ憶測を生んでしまったのも痛かったと思います。とくに、公金受取口座登録制度については、「ポイントと引き換えに口座情報を売っているんじゃないの?」みたいなマイナスな問い合わせが多かったですから。

 それゆえに、マイナポイント第2弾は衝撃のキャンペーン!!的なものにはなれず、普及促進も爆発的に伸びることはなかったのだと思います。

 まぁ、制度に関する法整備やシステム構築、周知活動なんかのタスク量を考えれば、時間がかかるのは無理のない話なんですけども…。官僚の皆様の労働量を思うと、頭が上がりません。



7.お金ではなく機能面を

 とはいえ、マイナポイントが当初の公約通り一律3万円付与だったとしても、それがマイナンバーカードを全国民にいきわたらせる原動力にはならなかったと私は思います。

 そもそものマイナンバー制度に対する国民の理解、ネガティヴなイメージの払拭を進めねばならないでしょう。そのうえで、カードを作ることによるメリット、あるいは作らないことによるデメリットをもっとクッキリさせたほうがよいでしょう。

 お金で響かず伸びないのなら、お金以外で響かすしかありません。マイナンバーカードのもつ本人確認書類としての強さや、電子証明書機能を用いたオンラインでの確実な本人確認機能などは、社会をまったく別物にする力を秘めていると私は思い続けています。いわば眠れる獅子ですが、今はまだ爆睡したままです。



8.早めに作ったほうがいい

 ここまで色々ディスってきましたけど、私個人としてはマイナンバーカードは早めに作っておいた方がいいと思っています。マイナンバー担当の職員による、ポジショントークだと言われてしまえばそれまでですけど。

 政府が云兆円の予算を投じて普及を促進し、国民の約半数にまでいきわたらせたということは、近々、マイナンバーカードを使って社会を変革させることは予想できるわけで。そうなってくると、マイナンバーカードを持っていない人は今までにない不利益を被ってしまうと思います。

 例えるならスマートフォンの普及みたいなもんでしょうか(スマホは便利さゆえに、勝手に普及した点がカードと異なりますけど)。スマホが出始めた頃は、「ガラケーのほうが使いやすい」「そんなの持つなんて風変りだ」「時代を先取りしすぎ」みたいな評判だった気がします。ところが、今では日々の生活になくてはならない存在となっていますし、逆にスマホを持っていない人の生活がかなり不便になってしまっています。

 マイナンバーカードももしかしたらスマホのような未来をたどるかもしれません。なんせ日本政府という圧倒的なスポンサーが資金を投じていますから。今はそれほど上手に資金を投じていませんけど、いつまでもそうとは限りません。気が付いたらとんでもなく便利なカードになっているかも。

 というわけで、政治的な主義や主張が別にないという人に関しては、政府が「作ってくださいお願いします」と言っているうちに黙って作っておいたほうがいいんじゃないかなと思います。初回無料だし。ポイントももらえるし。「作らせてあげてもいいけど?」に態度が豹変する前に。


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