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「公務員にはノルマがない」の大嘘


 皆さんは、公務員の仕事にどんなイメージを持っていますか?よく「公務員にはノルマがない」と言われるのですが果たして本当にそうでしょうか?今回は、公務員とノルマの関係について現役公務員が語ります。


1.公務員とノルマ

 結論、公務員にもノルマはあると私は考えています。もちろん、民間企業でいうノルマとはちょっと違うのかもしれませんが。数字を出さないといけないという点ではノルマだと考えます。以下、どんなものかご紹介。


(1)住民の取り合い

 自治体において最も大きなノルマだと思われるのが、住民数です。日本全体の人口減少が叫ばれるなか、住民数の維持・増加は努力しないと実現できません。住民が多ければ自治体が活性化しますし、住民が多ければ多いほど後述する税収や補助金の取り合いでも有利に立ち回れますから、

 他自治体への流出防止のため、現住民に対して「住みやすい」と思ってもらうこと、また、他自治体からの流入のため、「住んでみたい」と思わせる営業努力は日々行われています。自治体が「地域活性化」とうたい、議員が「子育て応援」を公約にしているのはそのためです。


(2)人材の取り合い

 これは自治体間のやり合いであり、ノルマとはちょっと違うのかもしれませんが、優秀な人材の確保も自治体にとって重要なノルマです。

 地域の特性があるとはいえ、所詮は行政のやることですから、業務内容は自治体間でそれほど差異がありません。となると、誰がその仕事をするのかが成果の差になります。あと、これは首長クラスの話ですが、有名人や主導力のある人を据えられれば。住民を呼び込める可能性が高まります。

 実際、私の勤務する自治体でも、住んでいる自治体でも総合職国家公務員(いわゆるキャリア官僚)を重要なポストに引き入れて、国との連携を強めています。そのおかげかはわかりませんけど、両自治体とも周辺自治体より財政が安定していますし、より革新的な政策が推し進められています。


(3)税収の取り合い

 また、近年では税収の取り合いも重要なノルマになっています。ふるさと納税なんかがその最たる例で、「ふるさと」なんて可愛い名前がついていますが、その実は自治体間での壮絶な住民税の取り合いです。

 ふるさと納税とは、本来住民票住所の自治体に納める予定だった税金を、任意の自治体に納税(先払い)して返礼品を受け取る制度です。自治体からしてみれば、黙っていても入ってきていたはずの税金が他の自治体に持っていかれることと同義です。取られたら取られ返さないと…。その結果、返礼品やまちの魅力で釣って税収を奪い合う泥臭い戦いになりました。

 ふるさと納税関係を税金関係だけではなく政策関係の部署に組織している自治体が多いのはそのためです。


(4)補助金の取り合い

 最後は親方様(国)からのお小遣い(補助金)の取り合いです。自治体を運営するにあたっては、市民からの税収だけでは足りません。当然国からの補助金が必要なのですが、補助金もタダで渡してくれるわけではないです。

 補助金要綱に基づいて、対象事業の実績報告と補助金申請を経てはじめて受け取れるものです。公務員の仕事に書類作成が多いのもこのためです。

 昨年度、マイナンバーカードの交付率によって各自治体に対する地方交付税の金額を算定する方針を示したことはあまりにも有名になった話で、形は違えど、これはマイナンバーカードの交付率にノルマが与えられたと言い換えることができるでしょう。実際、私の上司たちも首長に呼び出されて直々に「マイナンバーカードの交付率を伸ばせ」と命令されたようですから。



2.民間のノルマとの違い

 そんな感じで、「公務員にはノルマがない」は大嘘で、どこからそんな話が出てきたんだろうとまで思っています。しかし、民間企業でいうノルマとは形が違うのも事実ですし、その点が「公務員にはノルマがない」と言われる理由なのかなと推測されます。以下、民間との違いを考えます。


(1)個人単位のノルマはほぼない

 上記のように、住民・人材・税収・補助金など、ノルマは色々課せられてはいますが、こうしたノルマが個人単位で課せられることはほぼないです。強いて言うなら、担当部長・課長クラスに管理責任が発生しますが。

 銀行でいえば、支店レベルでノルマはあるが、そのノルマを個別の行員に課せることはないといった感じでしょうか。

 その結果、管理職や使命感のある担当者が仕事の大部分を引き受け、やる気のない職員はほぼほぼ何もしないといった格差が生まれやすくなります。周りからすれば、そのやる気のない職員を見て、「ノルマがない」と思ってしまってもしょうがないなと思います。


(2)国の動きで流れが変わる

 いくら地方分権がうたわれているとはいえ、自治体の仕事の多くは国からの影響を強く受けます。結局、国が煽ってしまえば国民を動かすことは簡単ですし、それに伴って自治体も数字をあげることができてしまうのです。逆に、自治体が頑張っても、国が出した方針には敵わないケースがほとんど。

 私が住民課にいた2年間にも、国の影響力の強さを感じられました。配属されたのが令和3年の4月、この時期はマイナポイント第1弾のカード申請締めの月でした。当然、窓口はごった返していましたし、ピークはしばらく続いていました。

 しかし、ポイントバブルが終わってからの窓口はしけ切っており、いくら広告を打とうが回覧を回そうが住民はうんともすんともいいませんでした。ところが、マイナポイント第2弾の開始やマイナンバーカードの健康保険証利用の強化が打ち出された途端、ふたたび広告を打つ暇もないくらい忙しくなりました。閑散期の努力はなんだったんだと。

 行政の仕事は法令の規制が厳しかったり、周辺自治体との足並みの関係がありますから、なかなか独自性が出しづらかったりします。そのため、組織単位に課せられたノルマも形骸化しがちです。


(3)未達でも何とかなる

 こういう事情もあって、仮にノルマを達成できなくても、個人単位で損益を被ることがほぼないというのが「ノルマがない」と思われる最大の理由な気がします。

 実際、閑散期が長かった住民課1年目も、繫忙期が長かった2年目も私の昇給幅は変わりませんでしたし、上司は私よりも給料がよかったです。人事評価も9割以上が真ん中の評価を付けられます。

 民間企業では死活問題に発展したコロナ禍の大自粛ムードも、官公庁ではむしろ仕事が増えた始末。まぁ税収は減りましたけど。

 ノルマはあるが、達成しなくてもなんとかなる。そういう雰囲気を感じさせてしまうのでしょうな。



3.多様な働き方ができる

 そんな感じで、現役公務員からすると、「公務員にはノルマがない」というのは大嘘だと思います。しかし、ノルマがあっても民間のそれとは違うというのもまた事実かなと思います。そんな独特な「ノルマ」をもつ公務員だからこそ多様な働き方ができるのも面白味のうちです。

 使命感をもち、ノルマ達成に向けて粉骨砕身する働き方もできるし、ノルマ所詮組織単位のもの、自分には関係ないと開き直って必要最低限の仕事だけする働き方もできる。どちらも給料はほぼ同じです。

 民間、しかも総合職や営業職で働かれている方からしたら信じられないかもしれませんが、それが公務員の独特さだと思います。良くも悪くも。

 こうしてまとめてみると、やっぱり安定感はあるよな、公務員って。

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