見出し画像

鹿児島蒸溜所巡りその⑦最新技術と情熱の交差点!大きな可能性を秘めた火の神蒸溜所

皆さまこんにちは!有限会社エィコーンのカエです✌
さてさて、鹿児島蒸溜所巡りもいよいよラスト!
本坊グループ、薩摩酒造・火の神蒸溜所に訪問した様子をお届けいたします!

かっこいい蒸留棟

上の写真をご覧頂ければおわかりになるかと思いますが、この蒸溜所はできたてホヤホヤ(訪問したのは2023年5月頃)。2023年2月に蒸溜を開始したばかりです。

新興蒸溜所が乱立する中、なぜウイスキー製造を開始したのでしょうか?

昨年、2036年に迎える薩摩酒造創業100周年に向けて活動を加速させるために、改めて「挑戦心」を根幹に据えることとしました。当社は代表銘柄”さつま白波”で本格焼酎が全国区に広がるきっかけを作った焼酎蔵元と呼んでいただいていています。令和になった今、改めてこの挑戦の気持ちを思い返して未来を創造しようと考えた時に、国内外で脚光を浴びるジャパニーズウイスキーに着目することになりました。同時に当社は焼酎蔵元では唯一自社で樽のメンテナンスができるクーパーやクーパレッジ、貯蔵庫を有していることや、グループ会社である本坊酒造の活躍を見てきたことなど、様々な内外の要因が合わさり、2020年にウイスキー製造を開始することを決め、漸く本年製造を開始することができました。

火の神蒸溜所アンケート回答より

なるほどなるほど…決して現状に満足することなく、挑戦を続け、事業を拡大していく…前の記事でもご紹介しましたが、本坊グループの精神が脈々と受け継がれているんですね~。

しかもクーパー、クーパレッジがあるという!これは大きな強みですね。何せウイスキーはその生涯の大半を樽の中で過ごす訳で、自社で良質な樽を修繕、あるいは製造できるというのは、より望ましい状態での熟成を実現させやすいということ。今まで訪れた多くの蒸溜所の方々も「将来的にはクーパレッジが欲しい」ということをおっしゃっていました。しかし、そもそもなぜ火の神蒸溜所はクーパレッジを所有していたのでしょうか?

クーパレッジを有するきっかけになったのは”神の河”(かんのこ、有名な焼酎ですね!)。1980年代のいわゆる白モノ麦焼酎の台頭を受け、”ワンランク上”の本格焼酎を目指そうと考えた時に、着目したのが樽でした。自社内で様々なメンテナンスをすることができるため、今後ウイスキー貯蔵においてもレベルを高めていきたいと思っています。原則、新樽を作ることはありません。

火の神蒸溜所アンケート回答より

”神の河”は、二条大麦100%を原料に使用し単式蒸留による原酒をホワイトオーク樽に3年以上貯蔵した、琥珀色の長期貯蔵麦焼酎。ということは、神の河樽もウイスキー熟成に活用されている…⁈と、この辺りは後程クーパレッジ見学模様をご案内する際にゆっくりと。

さてさて、現地に到着した我々を温かく迎えてくださったのは、現チーフブレンダーの百田さんと製造責任者の松嵜さん。お二人とも蒸溜所同様、お若くて熱気に溢れています!!(写真無くてすみません💦)

早速先ほどのピカピカガラス張り蒸溜棟の中へご案内頂きました。


どこもかしこも
ぴかぴかです
麦芽発見!


クリスプ社製

2月からスタートしたばかりなので、まずはローリエトという現代的な品種1種類を使用(2023年5月時点)。作業効率とアルコール収量を考えてのことでしょう。
モルトはイギリスから取り寄せ、ピーテッド、ノンピートの比率は約2.5:7.5。
一回の仕込みに使うモルトは1.1t、そこから得られるニューポットは650L。一日5500Lの醪を仕込む。三番麦汁まで回収。

モルトは一度に20t入荷します。それを0.1tずつに小分けし、ミルに流し込みます。
1t粉砕には約2時間かかるそう。

こちらもキュンゼル社製のミル!
監修、指導をしたのが津貫蒸溜所の草野さんだから~
この目盛りで歯の幅を変えます。

ピーテッド麦芽とノンピート麦芽で粉砕具合を変えているそうです!

(このグリストセパレーターはモノタロウで買ったのでしょうか…)
糖化槽(上から)
右上の小窓で流れる麦汁を確認し、更にこうして定期的にグラスに注いで清澄度を確認します。
清澄な麦汁を取り、エレガントで綺麗な酒質を目指しているそうです!

一番麦汁は3200L、二番麦汁は2400L、三番麦汁は3100L。

発酵槽(上から)
発酵槽も全てステンレス!
このように配管にはわかりやすく説明がついており
メンテナンスしやすい仕様になっています。

発酵は約4日間。厳密には3.8日。
2日目のアルコール度数は2%、3日目の度数は7~8%。34℃から35.5℃に温度を上げ、強制的に発酵を終わらせるそうです。
他にも、乳酸発酵を活発にさせるために様々な試行錯誤をしている段階とのこと。

発酵中
外側から発酵槽の温度を調整できるようになっていました。

さて、いよいよ蒸留器です!

蒸溜器もぴかぴか!そして…ヘッドが長い!!
スワンネックはやや上向き(100°)!そしてラインアームは細い!!
なが~~いヘッド

初溜釜の容量は6000Lでヘッドが3.2m、再溜釜は3000Lでヘッドが2.8m。この形状から蒸溜される原酒の酒質は、津貫蒸溜所と真逆。

下から四つ目の小窓の所に、細い管が接続されているのがわかりますか?
これは蒸溜器内の泡を消すために空気を排出する管!
なんと津貫蒸溜所の草野さんが考案されたそうです✨
ミドルカットも左側の赤いレバー一つで。
わかりやすく使いやすい仕様になっています。
蒸溜器(下から)
やはり高~いですね!!

冷却器はシェル&チューブ方式。8m。
スコットランドでも主流になってきているこの方式は、冷却効率がワームタブに比べ段違いだそうです。
こちらも津貫蒸溜所とは大きく異なるポイントですね。

酵母!!


この蒸溜棟内にはラボもあり、顕微鏡で菌の活動状況を確認したり、ガスクロマトグラフィーで液体の成分分析など行っているそうです。全体的に「わかりやすく」「使いやすい」仕様の設備になっているだけでなく、感性だけにとらわれない、科学技術も活用する極めて現代的な蒸溜所である、という印象を受けました。どこを拝見しても合理的な作り。新興蒸溜所が乱立する昨今ではありますが、このように、既に様々な知見を蓄えている蒸溜所の協力が得られれば、新興だからこそ、「かゆいところに手が届く」仕様の設備を作り上げられるというアドバンテージもあるのだなと実感。

さて、ピカピカの蒸溜棟から出ようとしたところ、若が何気に手に取った靴ベラは…

火の神蒸溜所のクーパー作!!すごい!!欲しい!!

この傘立て、靴ベラ置きもクーパー作!!欲しい!!

かつてDIYにハマりダイニングテーブルを自作したこともある私はテンション爆上がりでしたよ…特にこの傘立てまじで欲しい…。

お次はウェアハウス!

一番下の段はこんな感じで…
見上げるとこんな感じ

なんと6000丁入る巨大なウェアハウス!
8段もあります。

階段を昇らせてもらいました
途中の景色
この階段

8段はなかなかの高さで、びびりの私は最上段までたどり着けませんでした…怖かった…😇若はちゃんと最上段まで昇ってましたよ!さすが若!!

こちらの他にも、神の河用、グレーン用のウェアハウスなど、施設は十分にあるそうです!
え、グレーン?!!と思ったそこの貴方!!鋭い!!

実はこの火の神蒸溜所では、グレーンウイスキーも製造するのです!
私たちが見学した2023年5月時点では、グレーンの蒸留器を、まさに設置する工事を行っているところでした。写真はお見せできません。残念ながら…。
ただ、将来的に火の神のグレーン、ブレンデッドを味わうことができる日が来ると思うと、楽しみでなりませんね!!
本坊グループなので、同じグループ内の蒸溜所とのコラボもあるかも…⁈なんて期待しちゃいますね~😊

ところで話はウェアハウスに戻ります。こちらでは、樽を格納場所に置いてから、中身を充填するという方式を取っているそうです。

そして樽は、職人が見て、使えるか使えないかを判断するのに加え、酸化臭がしないか、なんてことも確認していると伺いました。やはりきちんと状態チェックしていらっしゃるんですね。

さらに、これだけ高さのあるウェアハウスなので、上の段と下の段では温度が全然違います。当然のことながら、上の段が暑くなる。従って、上と下で熟成具合の違いを確認しつつ、管理しているそうです。

いよいよ!最後にクーパレッジ!!

味があります!!


看板もお手製?味があります

こちらでは主に樽の修理を行っておられます。しかし技術の維持向上のために、一から作る機会もあるとか。

木材によってカットの方向が違うということをご説明頂きました。
板目どりというのは、木を輪切りにした時、年輪に対して平行に木材を取る切り方。
対して柾目どりというのは、年輪に対して垂直に木材を取る切り方。

ところで皆さんはなぜ樽があのような形(中央が太く、両端が細くなる独特の形)かご存知ですか?木材は普通真っ直ぐですよね。樽に使われるものは、煮沸してからプレスして曲げられているのだそうです。わざわざ湾曲させる意味とは一体…

正解は
・簡単に転がせる
・方向転換させやすくなる
・起こしやすい
・タガで締められる
でした!
考案した人は天才ですね…('ω')ホゲー
確かに、桜尾蒸溜所さんで中身の入った樽を転がさせて頂いた時も(過去の記事参照!)、軽々と転がせました。

木材をプレスする機械!
煮沸用の桶
このように、鏡板の木材は、ステンレスの合釘で留めるそうです!

バレルからホグスヘッドに組み替えることもあるそう。
新しい木材が入ることにより、木の成分が原酒により多く染み出るとのことです。
成分が出やすくなる工夫は他にも。それは炭化です。つまり焦がすということ。
火を使うことで、木の中のリグニンという成分がバニリンに変化します。これが、バニラ様の香りを原酒につけてくれるのです。
こちらでは、リチャーとデチャーの二種類を行うことがあり、
リチャー:重ね焼きする
デチャー:木の肌が見えるよう削ってから焼く
という違いがあることも教えていただきました!

大切な工具はピカピカに磨かれています
実は樽一つにこんなにたくさんの英知が含まれているとは、
全く知りませんでした…

こちらでは神の河の熟成に使われるパンチョンの修理を主にしていたそうで、その技術、そして樽もウイスキーに転用されていました。

クーパーの志戸さん、笠原さん、ありがとうございました!

最後の最後に、その他伺ったことを質問形式で掲載いたしますね。

Q.その他、製造面でのこだわりについてお聞かせください。
A.まだまだ製造開始したてなので、これから見つけていくものも多いと考えていますが、蒸留器の形状と熟成環境が挙げられます。ネックが非常に高く、アームも上向きに設定されたランタン型の蒸留器を採用したのは「きれいでエレガント」なニューポットを作るためで、それを本土最南端の蒸溜所として南国鹿児島枕崎でダイナミックに熟成が進む事を期待しています。まだどの程度の熟成度合いを得られるかわかりませんが、期待しているところです。
きれいでエレガントなニューポットがダイナミックに熟成した時、どのようなウイスキーが出来るのか、我々自身も楽しみにしています。

Q.火の神蒸溜所の個性とは何か、お聞かせください。
A.黒瀬杜氏の技を継承し続け、昭和50年から本格焼酎を造り続けてきた蔵であること、
本土最南端のウイスキー蒸溜所であること、
将来的にはモルト、グレーン、クーパレッジ、貯蔵庫、ショップ、バーなど、
ウイスキーの魅力を多面的にお楽しみ頂ける蒸溜所であること。
など、たくさんのユニークさや個性があると考えていますが、ウイスキー造りに真摯に向き合い続け、「本質的な個性とは何か」をしっかり探っていきたいと思っています。

Q.火の神蒸溜所の目指すウイスキーについてお聞かせください。
A.ジャパニーズウイスキーの一翼を担う品質を持ったウイスキー製造を実現し、いずれは世界一を獲りたいと思っています。

Q.地域の他の蒸溜所との関わり、つながりについてお聞かせください。
A.グループ会社でもある本坊酒造には多方面にわたり指導を仰いできました。また、関連会社の山鹿蒸溜所とも技術交流を進めていきたいと思います。鹿児島だけでも10軒程の蒸溜所ができる見込みですので、地域貢献にも繋がればと思います。

Q.これから火の神蒸溜所のウイスキーを飲む皆様にお伝えしたいことはありますか?
A.まだ我々自身も数年後の原酒がどうなるか分からない状況ですが、1stとして出すシングルモルト「火の神」は我々の情熱を込めた1本となると思います。そのリリースに向けてチーム一丸となって日々製造に取り組んでおりますのでご期待ください。
また来年内には蒸溜所内にショップやバーをオープン予定です。たくさんの方に枕崎にお越し頂けるよう準備してまいりますので、是非完成したら足をお運びください。

バーもできるんですね!めちゃ楽しみ🥰
以上のように、蒸留棟、グレーンの製造棟、ラボ、ウェアハウス、クーパレッジが全て同じ敷地内にあるという、大変恵まれた環境にあり、今後目が離せない蒸溜所の一つになるであろうことを確信し、我々は帰路についたのでした…。

めちゃくちゃ勉強になりました。
と同時に仕事ではございましたが大変楽しませて頂きました。

火の神蒸溜所の皆さん、ありがとうございました!!


また、この鹿児島蒸溜所巡りでお世話になった皆様、本当にどうもありがとうございました!!!!改めて御礼申し上げます。

ここまで読んでくださった読者の皆様にも感謝です。
次の更新は…目標一か月以内😂
さて次はどこになるのか。乞うご期待✌️