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理想のキッチン探し52喜多見

 小田急線の喜多見駅は、ギリギリ23区内の町で、親友が暮らす成城からも徒歩圏内。彼女には成城は物価が高い、あまり何もない喜多見はクラフトビールの店が多くて、たぐちフーズという八百屋から始めた野菜が安くて質がいいスーパーがある、と聞いてちょっと期待しました。彼女の家が近くなったら、ちょこっと会いたいというのもできる。実際、27日に内見すると言ったら、家にいるそうでこの時期超多忙と言っていた彼女も、「終わったら成城駅前でお茶しよう」と言ってくれました。
 内見申し込みをした物件は、3階建ての一戸建てで2階に玄関があります。何と4LDKで3階に6畳と5・2畳の洋室があって、1階にも7・5畳、5・3畳の洋室があります。2階は水回り。それぞれの仕事部屋、寝室、おまけにまだ1室あるから図書室または応接室ができる!と盛り上がりました。
 しかし、より広い家を求める人が増えた昨今、そうでなくても70㎡超えの賃貸物件が少ないため、競争率は高く、事前に5組の中から選ばれるらしいと知り、サラリーマンじゃない私たちはたぶん無理、と思いました。
 不動産屋さんはチェーンじゃなくて地元で長くやってきた店で、応対は親切でした。「実は10組内見の申し込みがありますが、この物件は今までならこんなに申し込みが殺到するはずはなかったのですが…」と言われました。
 喜多見駅からは徒歩約10分、桜並木が続く野川のほとりの比較的新しい戸建てが続く住宅街。あちこちに梅が咲いています。早咲きの河津桜も。いい雰囲気です。

 しかし。物件は階段を上がって入り口の2階へ。キッチンはL字型でシンクの横は430ミリ、シンクの右側とコンロの左側にもスペースが広めなので調理台は何とか使えそうですが、リビングダイニングはそれほど広くない。


 微妙だなあと思いつつ、3階に行くと天井が下がっているところがあって、本棚置き場が少ない。1階へ行くと、実は半地下で薄暗い……。本棚が置けず居住環境はよくない。これはない、と思っていたら、不動産屋さんが、実は昨日退去したばかりのテラスハウスがあって、こちらの87㎡に比べればだいぶ狭く75㎡を切るのだが、壁が多いので気に入るかもしれませんとのこと。さっそく連れて行っていただきました。
 こちらは広い敷地に、洋風のおしゃれなテラスハウスが何棟も並んでいます。内見する物件は、かわいらしいアメリカンな家です。

 内側のサッシが木で見た目も落ち着きがあるし、断熱性も高い。日当たりもいい。2LDKなのですが、納まるでしょうか。問題はしかし、キッチンです。調理スペースは480ミリしかなく、シンクは左側がギリギリなので、水切りかご置き場を作るには、横に棚を置くか、調理台を半減させるか、という前までの暮らしに戻る感じになります。シンクの横は勝手口で裏庭にでられますが、ゴミ箱を置くぐらいしか活用できないそうです。

 そのうえ、洗濯機置き場がキッチン内。この位置なら油はつかないかもしれませんが、冷蔵庫もその横に置くしかない。洗濯機と冷蔵庫が一番奥にある部屋だと、家事動線がけっこう悪くなってしまいます。お風呂と寝室は2階にせざるを得ないので、汚れた衣類をいちいちここまで運ぶ感じになります。キッチンの奥の壁も活用すると、950ミリ幅ぐらいになります。うーむ。この動線の悪さ。そして前の部屋も同じですが洋室しかないので、ベッドを置く、しかし私たちは長年和室で布団を敷いて暮らしてきて、整理箪笥がある。ベッドの横に整理箪笥を置くとなると、下の数段が開け閉めできなくなる……。ゆとりを持って整理箪笥とベッドを置くには……。
 それに本棚です。この部屋で全部置くにはちょっと厳しい感じです。でも部屋はステキで暖かそう。悩みます。
 そのまま物件を出てすぐのところに、友達から教えてもらったたぐちフーズが。確かに野菜は安い。他のモノはあまり充実しているとは言えませんが、駅前にサミットもありました。しかもこの部屋は駅から徒歩5分なのです。たぐちフーズの周りには、豆腐屋や飲食店などもあり、喜多見に何もないことないじゃないの!と思います。むちゃくちゃ便利です。
 そのまま、友達にラインして私たちは成城へ向かいます。やはりあちこちに梅が咲いています。

 天気もいいし、暖かい日だし、最高じゃん。どうしよう、納まり悪いけど、洗濯機置き場がヘンだけど、これにする? と思っていたら、恐ろしく急でカーブした車道に差し掛かりました。この坂は、代官山―中目黒の坂や自由が丘-緑ヶ丘の坂をほうふつとさせます。しかも、がんばって上った先にあったのは、ものすごい豪邸街。そうだ、ここは成城でした。何かあって人に会うとき、ちょっとした買い物とか友達に会うときは、お茶をするときは、自転車で成城へ行けば、と思っていた気持ちが一気に萎えました。この坂は自転車を押さないと登れないし、この経済格差を目の当たりにする光景は……。今まで、坂の多い町で暮らしてきて、坂を下るにつれ家がしょぼくなり格差を感じる機会はたくさんありました。今まで見てきた街に比べると、喜多見の家々は決して貧しい感じではなく、田舎だった過去をほうふつとはさせますが、何しろ庭が多くて梅や桜がたくさんあってきれいだし、新しい家が多いせいか、3階建てがずらっと並んだ光景がなかったせいか、決して悪くない住宅街。駅前も何もないわけじゃない。でも、この超高級住宅街に至り、駅前にカフェから飲食店から何でもあるおしゃれタウンに行きつくこの敗北感。
 指定された老舗洋菓子店、アルプスへ着いて彼女の顔を見たとたん、正気に返りました。しっかり考えて、今回の物件もダメです。

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