美容院に行く、そんなこと
数日前、いきなりショートカットにしたい欲が沸いた。そして思い立ったままに美容院の予約を入れた。
わたしは美容院に行くとき、大体色んな理由がある。就活が上手くいかずムシャクシャして胸ぐらいまであった髪を一気に20センチぐらい切り落としたこともあったし、推しのライブに行くことをきっかけにずっとしてみたかったインナーカラーに挑戦したこともある。でも今回は違った。なんとなくただ短くしたい欲が沸いた。
段の入っていないショートボブぐらいの長さにしたことはあるがショートカットにしたことがないから、何より自分がショートカットにするイメージが沸かない。検索窓に「ショートカット 面長」と入力すると、サジェストには"似合わない" "顔でかい" が続いて絶望した。似合わないのか。でもショートカットにしたい。思いっきり切りたい。
別に切るのは自分だし。似合ってなかろうが誰かに何か言われようが髪を短くしたいんだ!と謎の覚悟のような気持ちを持って、予約した美容院へ向かった。
「短くしたいんです、ショートカットにしたくて」
と伝えると、一度驚いた顔をした美容師さん。背がちいさくて店内を忙しく駆け回る、可愛らしい元気いっぱいの女性の美容師さんがわたしの担当だった。
「ふと切りたいなと思って。でもショートカットなんてしたことないし、似合うかどうかもわからなくて」
そう言うわたしの髪を触りながら、
「どんな感じがいいかな。メンズっぽくなるぐらい短くしたい?それとも女性らしい丸いシルエットのショートカットにする?」
"メンズっぽく"という選択肢がいちばんに出てきた時点でわたしは吹っ切れた。女の子だから女の子らしくないと、みたいな固定観念に縛られていないこの素敵な美容師さんに髪を切ってもらうことに安心した。まぁメンズっぽくするぐらい切る勇気はなかったので、女性らしい丸いシルエットのショートカットでお願いした。
「髪切りたい!!ってなってたの?」
とりあえず1回適当に切ってから染めましょうか、と決まり、ハサミを入れる直前にそう聞かれた。
「はい。ショートカットにしたかったんです」
わたしが強く頷くと、1/3ほどブリーチしていた毛先が一気に全部なくなった。これでやっとボブぐらいの長さだ。
「迷ってる、って言う子なら私は絶対止めるんですよ。後悔しちゃうから」
そう言われてドキッとした。人生初のショートカットになって、わたしは後悔するんだろうか。
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色味のない茶色に染めて、洗い流してまた席に戻ると、
「じゃあ切っていきますねー!」
と勢いよくハサミが入る。
とりあえずで切られたボブぐらいの長さから、どんどん毛先が短くなっていく。
躊躇いもなく入れられるスキバサミ、落ちていく大量の長い毛を見ているとなんだか生まれ変われるようでうれしかった。
前髪も横毛の長さも「どのくらいにする?」と聞かれるたび、"似合う"がわからなくて、どんなのがいいんですかねぇ………と語尾を濁すわたしにああしましょうか、こうしましょうか、とその都度提案してくれた美容師さんの魔法にかかり、わたしはショートカットになったのだ。
髪を乾かし終えて、鏡を見せてもらって驚く。まるで別人よ!!と美容師さんが言っていた通り、後ろ姿だけ見ると本当に来た時とは別人みたいだ。襟足がギリギリまで短く、手を通すとしっかり段が入っている。うん、ちゃんとショートカットだ。
我ながら似合ってなくもない、おかしくもない。こうしてわたしはショートカットという新たな選択肢を手に入れたのだ。
なんとなくショートカットにすることを反対しているっぽかった母や妹たちからも高評価を頂戴し、わたしは無事ショートカットにできた事実に安堵する。
ただ髪を切るだけなのに、ショートカットにしてわたしはなんだかすごく前向きな気持ちになっている。固定観念にとらわれていない素敵な美容師さんに"似合う"を提案してもらって魔法にかかったのはもちろんだが、少しの勇気でこんなに変われるのかと気づいたことが大きいと思う。後悔どころか、少しの勇気と引き換えに手に入れた成功と変化がなんだかすごく清々しい。
これがわたしが美容院に行く理由だ。ショートカットを今後どうするのか、伸ばすのか維持するのか。今回のショートカットという選択肢を手に入れたことをキッカケにもっと耳が出るぐらい短いのにも、マッシュっぽいアンニュイな髪型にもいつか挑戦してみたい。新しい自分に生まれ変わるため、髪が伸びた頃に少しの勇気を持って、また髪を切りに行く。
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