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日記のようななにか 2024/1/1~1/31

2023年の「日記のようななにか」のように毎日書いたわけではないけど、数日書いたのでまとめておく。

基本的にはその日の出来事や考えたことを書く「日記」に似ているが、積極的にうそや妄想を盛り込んでいくことで別の世界と繋げている。本当のことしかかかない日もある。だから「ようななにか」なのである。

2024年1月1日

元日。
各所に新年のあいさつをする。

初詣をするつもりもなく、天気が良くて気持ちいいという理由で散歩をしていると、路地にある個人宅の塀の下部にひっそりと小さい赤い鳥居が貼り付けられているのを見つけた。とりあえず手を合わせて祈る。

よく見ると、数メートル先にも同じような鳥居がある。そこまで行ってご挨拶。

気づけば後ろにも小さな鳥居がある。面白くなってきて周囲を探すと、鳥居がいくらでも見つかる。私はそれを追ってどんどん路地の奥へ進んだ。
いつの間にか知らない場所まで来ていたが、なに、鳥居をたどれば戻れるのだから不安はない。ただ……事情でそろそろ家に戻りたい気持ちにはなってきていた。

たどっていくうちに少しずつ大きくなっていた鳥居はとうとうくぐれる大きさになり、私はそのうちのひとつをくぐった。

そこにはたくさんの個室が並んでいて、恐る恐るドアを開けるとトイレだった。ありがたい。実はトイレに行きたくなっていたのだ。

個室から出ると外はすっかり暗くなっており、私は最初の路地の入口に立っていた。もう、あの鳥居を見つけることはできなかった。

2024年1月2日

初詣は毎年2日に行く。
近所の神社は有名な神社で、遠くからも参拝客が来るので大変な行列だ。

列は長いが、進みも早いのでそんなに待たないことは経験で知っている。
小雨が降り出したのでダウンコートのフードをかぶる。早く進んでいってほしいと思いながらふと足元を見ると、小さなタコのような生き物が次々と足早に賽銭箱に向かっていく。それぞれ、五円玉を小脇に抱えたり頭の上に掲げたりしているので、彼らもお参りに行くのだとわかった。

「こらこら、みんな並んでるんだから君たちも並びなさい」
私が声をかけると、タコのひとりが立ち止まって「我々は小さいし、あなた方のお参りの邪魔にもならないのだから一緒の列に並ぶのはナンセンスだ。私たちは私たちの列できちんと順番を守ってお参りしていますよ」

「なるほど言われてみればそうだ。あなたたちは何をお願い事するんですか?」
タコは答えた。
「健康!」
ああ、ニンゲンとそう変わらないんだな。
いつの間にか小雨もやんでいた。

2024年1月3日

正月も3日になると、もうそろそろ普段通りの生活に戻っていつものことをやりたいような、いやまだまだもったいないのではないかという気分になるものだ。

今年はそわそわしていて例年より落ち着かない。今日は天気も良くないから外に出る気もあまりしない。無理やりカレーを食べて景気づけする。

冬限定のカレーを頼んでしまったので「いつものカレー」じゃないことがまた私の心をざわつかせた。

カレーを運んできた人物も、飛脚だったので驚いた。注文してから届くまでが速かったのもあって、彼は息を切らしていた。「ヘエ、冬季限定スープカレーでやんす。お待たせしやした」「ありがとう。こんな正月の寒い日に届けてもらって悪いねえ」

私が彼をねぎらうと、首に巻いた赤いマフラーで汗をぬぐった。「いえいえ、仕事ですから。わたしゃ明日から休みですよ。だからいいんです。おっといけねえ、体が冷えちまう。次の配達にいきまさぁ。それでは」

走り去る彼を見て気づいた。あのマフラー、たぶんふんどしだ。

2024年1月4日

4日は平日だ。
私はフリーランスで創作活動から収入を得ているので、1日からすでに活動しているから仕事始まりもなにもない。

今年はハトで収入を得ようと考えている。去年までも得ていたけど、今年からはよりハトを使ってお金を稼ぐのだ。私はそのために訓練したハトを懐から取り出した。

「いけっ、ジョン。稼いでくるんだぞ」
pigeonのジョンは晴れた青空を飛んで行った。寒空の下待っていると、30分後にジョンがくちばしに何かくわえて帰ってきた。
「よし!1000円札だ。でかしたぞジョン。この調子でいけば時給2000円になるのではないかな?」

もう一度ジョンを放つと、今度は10分後に5円玉を持って帰ってきた。
2時間ほどジョンを飛ばし続けた結果、合計で12505円の収入を得た。私は帳面に「鳩収入:12505円」と記録した。「時給6000円になったぞ」

次の日のニュースを見ていると、「鳩の賽銭どろぼう? 神社のお賽銭から1万円札を盗む」という見出しがおどっていた。……ハトで収入を得ることについてはもう一度考え直そうと思う。

2024年1月25日

今日は一日中タイムラインを眺めたり、ボイスチャットで人と話したりしてインターネットの中にいた。たくさんの人がふんわり現れて消えていく、そんな空間で確かに連続して存在していたのは私だけだった。

あともう一人、あの人がいたはずだ。誰に聞いてもあの人の存在を知っていて、いまはいなくなってしまったことを惜しんでいる。ああ、あの人がいなくなってしまったことは寂しいことですね。ぽっかり穴が開いたようですとみんな口々に言う。

確かにインターネットのその部分にヒト型の穴が開いているのだ。

しかしその人がどういう人物だったかはだれも語れない。何をした人で、どういう人柄だったのか、自分とはどういう関係だったのか。好かれていたのか嫌われていたのか。

ただヒト型の穴だけがそこにあり、そこに穴が開いていることを皆惜しんでいる。私はその穴にこそあこがれた、もう私が誰だと思われなくてもいい、ただ不在なことを惜しまれる私の形の穴になりたい。

2024年1月31日

今日が最終営業日の本屋へ立ち寄った。

私は本は近年ネットで購入することが多かったが、それでもたまには新しい本との出会いを楽しんだり、噂の本を実際に手に取ってみたりと実店舗を利用していた。

この店で平置きになっていたからこそ出会った本もたくさんある。発行された書籍と読者の間に立つ「書店」の役割を、確かに担ってくれていたのだ。

この店で最後に買う本を選びながらレジの様子を見ていると、店員に話しかけるお客が多かった。店での思い出を語ったり、ポイントを使い切ってカードを持って帰ったり。

「また来るよ」「ぜひまた来てくださいね」
そう、この店はすぐに新しい書店に生まれ変わることがもう決まっている。

それを知っていてもなお、この書店の最後の日に駆け付けた客が多いことに驚く。
「棚はほとんど変わらない予定です」店員が言っていた。

外に出て書店をしばし眺めた。スマホのカメラで店頭を写真に撮影する人々が後を絶たない。

私も「私がシャッターを押して撮ったこの店の写真」が欲しくなって、一枚撮影した。

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おまけ

去年のおわりから書き始めた妄想旅日記(風の小説)「ホラッスル旅日記」で、私は思う存分好きなものや風景やキャラを詰め込んでホラを吹いている。
そのせいで頭のリソースとか思いついたエピソードがそっちにとられてしまい、あまり「日記のようななにか」に書く妄想のストックがないのである。

なので、この日記の最初のほうや去年の分みたいな「妄想多めの、本当にあったっぽい文章」を読みたい方はぜひ!「ホラッスル旅日記」も読んでいただきたい。これ「読まれたいな~」って思って書いている。
「主人公が一人旅をしていて、行先もわかるようなわからないような謎の場所で、必ず誰かとやり取りをする」のを題材にして書いている。

よろしく!!

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