第一夜

こんな夢を見た。


私は学校に向かおうとしていた。歩いている私に声をかけた女がいて彼女は優しく「もう死んだ方が良いわよね」と私に問いかけた。女は真っ青な顔をしていて、もともと死んでいるのではなかろうか。と思わせるほどだった。私は女の問いかけに対して「そうかもしれないな」と思ったけれど、何故かどうしても死んで欲しくなかったので「また会いたいです」と答えた。
「だから、また遠くで会いましょうね。ずぅっと、気の遠く成る程ずぅっと西の方でまた会いましょう」女はそう言った。女は私の瞳孔を覗き込む様にして言った。長い睫毛は少し涙に濡れていた。彼女の茶色がかった瞳が私を捉えて離さなかった。女の長い髪からはシャンプーの香りがしていた。
女は赤い軽自動車に乗り込んだ。そして目の前の交差点を西に曲がって行った。私は西が好きではなかったけれど西に向かう事にした。
それから私は西に向かって歩き続けた。ビルの谷間を、静かな住宅街を、大きな橋を、幾度と無く乗り越えて歩いていった。太陽が登ると陽光が私を灼いた。夜が来ると雪が私を突き刺した。眠る事はなく私は何日も歩き続けた。しかし、赤い軽自動車を見かける事はなかった。あまりにも彼女に会えないのでもしかして彼女はもう死んでしまっているのではなかろうか。と思い始めた途端、歩いていた道が途切れて砂浜が見えてきた。そこは海だった。私は彼女に会えないことを悟り「私も死んでしまった方がいいのかもしれないな」と思った。そのまま海の方へと歩いていくと足元には海へと向かう足跡が残っていた。私は足跡を追って駆け出したが足跡は海と砂の境目で途切れていた。不思議と海に波はなかった。肩を落として振り返ると長い髪からシャンプーの香りがした。
「なんだ、再会はもう果たしていたのか」と私はハッキリと確信した。

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