あの夜

睡眠薬とアルコールで酩酊した状態で、私は食器を洗っていた。
洗剤で手が滑って、パートナーと旅先で買ったお揃いのグラスを落として割ってしまった。
その瞬間、私の中にあるヘドロのような塊も音を立てて割れた。

泡に塗れた手のままその場に蹲って、大きな声で泣いた。

私の泣き声に気が付いたパートナーがキッチンに来て、子供みたいに泣きじゃくる私を抱きしめながら「大丈夫、大丈夫。」と言っていた。
彼は、割れたグラスの破片で手を切って、血を流したまま私を抱きしめていた。

その後、彼は割れたグラスとその破片をきれいに片付けてくれて、私の泡塗れの手をきれいに洗ってくれて、私が眠りにつくまでずっと隣で髪を撫でてくれていた。

その夜のことを、今でも時々思い出す。

割れなかった対の片方は、その後一度も使われないまま、今もキッチンの奥にしまわれている。

途方に暮れた夜、そのグラスをぼうっと眺めることがある。
まるで、あの頃の彼と私がそこに閉じ込められているようで涙が出る。

その夜のこと、割れたグラスのことは、私の心の引き出しにずっとしまわれているのだろう。


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