ウルトラマンブレーザー 第n話「地球VS魔王」
都内某所。V99襲来、事故により発生した怪獣による日本首都攻撃。度重なる脅威を退けてきたこの地球に今、新たなる脅威が訪れていた。
ルロロロワイ!!
銀色の巨人、ウルトラマンブレーザーが宙を舞い、飛び上がった。…否。吹き飛ばされていた。
ブレーザーは吹き飛ばされた先にあったビルを薙ぎ倒しながら地面に激突する。
「ブレーザー!」
23式特殊戦術機甲獣アースガロンから、アンリのブレーザーを心配する声が聞こえる。しかしそのアースガロンも、その体よりも一回りほど大きな巨体の怪獣に突進される。
「アンリ!」
「キャー!!」
テルアキが呼びかけた頃には既に遅く、アースガロンは巨大怪獣の突進で吹き飛ばされて致命的なダメージを追う。
「あかん!このままじゃ…!」
「ちょっと強すぎるでしょ…」
地上からの攻撃を試みていたヤスノブとエミはあまりの相手の強大さに戦慄していた。
「この程度か…」
大剣を携えた宇宙人が倒れるブレーザーの前に立ちはだかった。
幾つもの地球の危機を救ってきたブレーザーとSKaRDを襲う未知の敵。この敵との戦いの始まりは少し前まで遡る。
***
その日、東京の上空は突如現れた宇宙船の軍団に覆われた。SKaRDは直ちにその宇宙船の調査を開始した。SKaRD専用車両 MOPYに乗り地上からの調査を行うゲント、エミ、ヤスノブとアースガロンに搭乗したテルアキとアンリの2班に分かれてSKaRDの面々は現地に向かう。
「どこの国のレーダーにも引っ掛からへんかったってことは…ひょっとしてワープでもしてきたんか…?だとしたら相当の科学力を持った宇宙人達っすよ」
ヤスノブはタブレットを操りながら話す。
「人類を越える科学力を持った宇宙からの訪問者…嫌な予感だなあ」
MOPYを運転するエミが呟く。彼らの脳裏に過酷な戦いの数々が過ぎる。
「相手の目的は未だ不明、大きな動きも無し…。敵対の意思は無いのかそれとも…」
後部座席でヤスノブの隣に座るゲントも難しい顔をしながら話している。
「こちらアースガロン。間も無く目標地点に到着」
テルアキからの無線が入った。
「分かった。あまり近づきすぎるな。周辺地域の避難は完了してるが、相手の目的も敵意の有無もまだ分かっていない。極力戦闘は避ける方針で行くぞ」
「ウィルコゥ」
ゲントからの指示にテルアキは応えた。
「このまま一定の距離を保ったまま様子を伺う。もし何も仕掛けてこなければ呼びかけを行うぞ」
「ウィルコゥ」
ゲントからの指示を受けたテルアキは、次にアンリに支持を出した。
アースガロンは上空に浮かぶ謎の宇宙船団と一定の距離を保ったままで睨み合っていたが、結局宇宙船団からの動きは見られなかった。
「分析結果が出ました。やはり地球外の物質でこの宇宙船は造られているようです。それも今までには観測されたことのないものです」
アースガロンに搭載されたAI対話システムEGOISS…アーくんが宇宙船の分析結果を伝えた。
「なるほど…じゃあV99関連の線も消えたか…」
「どうしますか?声、かけてみます?」
考え込むテルアキにアンリが声をかける。
「そうだな、相手の目的も知りたい。今の所、向こうに攻撃の意思はないようだし、意思疎通が取れるならそれに越したことはない。声をかけてみてくれ」
「ウィルコゥ。アーくん、お願いできる?」
アンリはアーくんに宇宙船団との交信を頼んだ。
「分かりました。メッセージを送信します。…私は地球人の作り出したAI、EGOISSです。そちらの情報と目的をお聞きしたいのですが…」
「まあ地球の言葉が通じるとは思わないが…声をかけられたからにはなんらかのアクションを見せてくれるだろう」
テルアキの予想通り、宇宙船団の方で動きが見えた。その次の瞬間、ひとつの一際大きな宇宙船から人影が降りてきた。
大柄で大きな2本ツノを生やし、甲冑で身を覆い、大剣を携えたその宇宙人は地上に降り立ち、話し始めた。
「◎△$♪×¥●&%?!…ンッンン…あーえー聞こえるであろうか、地球の言語に翻訳しているつもりなのだが、失敬、少し手間がかかってしまった」
大柄な宇宙人は地球の言語で話し始めた。
「え、地球の言葉が理解できるの!?」
「ゲント隊長、どうしますか…?」
動揺を隠しきれないテルアキとアンリはゲントに助言を求めた。
「分かった、今現場に着いたところだ。俺が話してみよう。繋げるか?」
ゲント、エミ、ヤスノブを乗せたMOPYも現場に到着し、3人とも装備を確認しているところだった。
テルアキはゲントの要望に応え、ゲントの無線とアースガロンの拡声器を繋げた。
「えーえー、私は地球防衛隊所属特殊怪獣対応分遣隊SKaRD隊長ヒルマゲントだ。もしこの言語が分かるなら、そちらの情報と目的をお聞きしたい」
アースガロンを通じて聞こえたゲントの言葉に応じて宇宙人が話し始めた。
「承知した。余はギスハン星ドロス帝国138代目帝王にして帝国軍総督、ドロス・サン・アレクである。人呼んで"魔王ドロス"。我が帝国は帝国軍の武力行使によって宇宙の数々の星を支配してきた。そして余はこの星の環境、文化を気に入った。よってこの星、地球を我が支配下に置きたい。汝等原住民達は直ちに降伏するか、星の代表者が余と決闘をせよ」
ドロスと名乗った宇宙人が放った言葉に衝撃を受けたエミとヤスノブは、顔を見合わせる
「今のって宣戦布告ってことじゃない…?」
「これちょっとヤバいっすよね…?」
ゲントは頭を悩ませたが、向こうに敵意があることが分かった以上、放っておくわけにはいかない。
「このまま支配されるわけにもいかないが、だからと言ってこちらとしては余計な争いをしたいわけでもない。どうかこのまま退いてくれないか?」
ゲントは最後通牒のつもりでドロスに提案をした。
「それはできぬ願いだ。余は欲しいものは全て手に入れる。そのためのこの力だ」
地球の言語を理解できるとはいえ、相手は宇宙人。文化も思想もあまりにかけ離れていることをゲントは実感した。
「交渉決裂か…仕方ない。テルアキ、アンリ、頼んだ」
「「ウィルコゥ!」」
テルアキとアンリはゲントからの指示で臨戦態勢に移った。
「相手の戦力は不明だ。まずは様子見で、遠距離から仕掛けよう」
「ウィルコゥ」
アースガロンには様々な装備が用意されている。今回のアースガロンは全ての武装が施された「mod.4」と呼ばれる形態で作戦に臨んでいる。
アースガロンは両腕に装備されたアースガンと、両肩に装備された多目的レーザー砲、レールキャノンを構え、それらから放たれる砲撃をドロスに浴びせた。ドロスは大剣を盾にしてその砲撃を防ぐ。
「なるほど、あくまで抵抗するか。良かろう、余が直々に相手をしよう」
ドロスは大剣を構えてアースガロン目掛けて一気に走り出す。
「うお、早っ!」
アンリは慌てて回避しようとするが、間に合わない。ドロスが振り下ろした大剣がアースガロンに直撃し、大きく後退する。ドロスは続けて横方向に大きく斬りつける。アースガロンは斬られるというよりは吹き飛ばされる形になった。音を立ててアースガロンの体が地面に叩きつけられる。
「これはアカンな…」
「よし、エミとヤスノブは地上からアースガロンを援護しろ。俺は反対方向に回り込む」
「「ウィルコゥ!」」
エミとヤスノブは駆け出して行った。ゲントは2人が遠ざかるのを見届けると、物陰に隠れた。ポケットからブレーザーストーンを取り出して、左腕に現れたブレーザーブレスにセットし、ボタンを押す。するとゲントとブレーザー、2人の思いが共鳴し、光の巨人が姿を現す。
ルロロロロイ!!
ブレーザーがアースガロンとドロスの間に降り立つ。ブレーザーは叫び声を上げたり、跳躍して地面を鳴らすなどドロスに対して威嚇のような姿勢を見せる。
「ブレーザー!」
大ダメージを受けて、一時ダウンしたアースガロンの復旧を試みているアンリが声を上げる。
「ほう、汝もこの星の代表者か。ではお相手願おうか!」
ドロスは大剣を振り下ろしてブレーザーに襲いかかる。ブレーザーはその攻撃を避け、ドロスの脇に膝蹴りを入れる。一瞬怯んだドロスだったが、すぐさま攻撃に切り替える。次の一撃も避けたブレーザーは、飛び上がり、ドロスの頭部目掛けて攻撃をしようと腕を振り上げた。しかし、ドロスはその腕を掴んで押さえ込み、空いたブレーザーの腹部を蹴る。
勢いで後ずさったブレーザーに対して、ドロスは手のひらを突き出す。するとブレーザーの近くで爆発が連続で起きる。ブレーザーは後ろ向きに飛びながら、両手から放つ光弾を連射して対抗するが、相手の手数の方が多く、撃ち落とされてしまう。落とされたブレーザーであったがすぐさま体勢を整える。ガラモンストーンをブレーザーブレスに装填し、必殺剣チルソナイトソードが召喚される。
「ほう、汝も武器を使うのか」
ブレーザーはチルソナイトソードを構える。ドロスも同じく大剣を構え直して相対する。両者様子を伺っていたが、先に仕掛けたのはドロスだった。
ドロスの大ぶりな一撃をブレーザーは受け止める。それを更に受け流す様にして横から斬りつける。ドロスが少しよろめき、その隙を逃さずブレーザーは飛び上がって斬りかかる。しかし、それをドロスが受け止める。ブレーザーとドロス、一進一退の攻防が続く。
「ここを…こうして…よし!」
「復旧完了だな、ブレーザーを援護するぞ!」
復活したアースガロンがアースガンでドロスを撃ち抜く。
「ヤスノブさん、私たちも!」
「はいっす!」
地上からもエミとヤスノブがブレーザーを援護する。集中砲火を浴びたドロスは、回転斬りでそれらを相殺し、一度下がった。
「今はこの者との決闘中だ。汝等との決闘は終えたであろう。汝等の相手は余ではない」
そういうと、ひとつの宇宙船から再び巨大な影が降りてきた。巨大な影が地面に降り立つ衝撃が、地面を震わせる。アースガロンやブレーザーよりも一回りほど巨大な体で、恐竜を思わせる顔に、強靭な腕と脚。それはまさに大怪獣と言うに相応しい姿であった。
「我が軍の秘密兵器、侵略破滅獣ジェノセイザー。人呼んで"星喰い"。こいつ1体の圧倒的な力で156の惑星が滅んだ。汝等にこいつが止められるかな?」
グオオオオオオ!!
ジェノセイザーが雄叫びを上げると衝撃波が生じて、ビルを崩していく。その衝撃にアースガロンや地上にいるエミとヤスノブらが巻き込まれる。
「うわああ!!」
アースガロンの装甲に火花が散る。エミとヤスノブも吹き飛ばされてしまう。
「さあ、こちらも再開しよう。汝の力はよく理解した。こちらも全力で応えさせていただこう」
再びドロスがブレーザーに斬りかかる。しかし、先ほどとはパワーも剣捌きもまるで違っていた。ブレーザーはドロスの剣技に翻弄される。ブレーザーの剣を弾いたドロスの大剣は、続けてブレーザーを連続で斬りつけていく。
体勢を立て直したブレーザーは、チルソナイトソードのレバーを5回引く。チルソナイトソードから発せられた翠の稲妻が、ブレーザーを纏う。チルソナイトソード最大の必殺技、オーバーロード雷鳴斬。この技でブレーザーは数多の敵を倒してきた。稲妻を纏ったブレーザーは電光石火の勢いで、ドロスに向かって突撃した。…がドロスは恐るべき反射神経でその一撃を弾いた。弾かれたブレーザーはもう一度逆方向から強襲する。しかし、その攻撃も弾かれてしまう。弾かれた勢いを利用したブレーザーは大きく空に上る。上空に雷雲が立ちこみ、そこから雷の如くブレーザーが落下し、ドロスを両断しようとした。
しかし、その動きを予測していたドロスは、逆に目にも止まらぬ斬撃でブレーザーを斬った。
ルロロロワイ!!
ブレーザーが宙を舞い、吹き飛ばされた。ブレーザーは吹き飛ばされた先にあったビルを薙ぎ倒しながら地面に激突する。
「ブレーザー!」
アースガロンからアンリのブレーザーを心配する声が聞こえる。しかしそのアースガロンも、ジェノセイザーに突進される。
「アンリ!」
「キャー!!」
テルアキが呼びかけた頃には既に遅く、アースガロンは巨大怪獣の突進で吹き飛ばされて致命的なダメージを追う。
「あかん!このままじゃ…!」
「ちょっと強すぎるでしょ…」
地上からの攻撃を試みていたヤスノブとエミはあまりの相手の強大さに戦慄していた。
「この程度か…」
大剣を携えたドロスが倒れるブレーザーの前に立ちはだかった。
「だが、魔王たる余に果敢に立ち向かった汝の勇敢さは賞賛に値する。その勇敢さに敬意を表して、我が最高の一撃をお見せしよう…」
ドロスが大剣を振り上げると、その大剣に力が溜められる。
「受けてみよ…!覇道剣国士無双斬!!」
ドロスが振り下ろした大剣から、斬撃波が放たれる。ドロス最大の攻撃を受けてしまったブレーザーは叫び声を残して、消滅してしまった。ドロスの一撃はブレーザーを斬り裂くだけに止まらず、遥か先の方までの地面を抉り、ビルを両断した。
「ブレーザーが…!」
アンリが驚嘆の声を上げる。
「この決闘、余の勝利ということで異論はないな?」
皆、否定の言葉が喉まで出かかった。だが、それを口には出せなかった。ブレーザーが、あのブレーザーが手も足も出ずに負けた。その事実が彼らの否定を強く否定した。
「…まだだ。ブレーザーが負けたとしても我々は戦わなければならない…ブレーザーが倒れからこそ、俺たちは戦わなければならないんだ!」
テルアキが皆を鼓舞する。そうだ、自分たちには地球を守るという使命がある。それはブレーザーが倒されたとて、いや倒されたからこそ、それを果たさなければならない。アースガロンが立ち上がる。
「アーくん、ジェノセイザーの分析をしてくれ。必ずどこかに弱点があるはずだ。アンリはその分析が終わるまで粘ってくれ。エミ、ヤスノブはアースガロンの援護。みんな、行くぞ!」
「「「「ウィルコゥ!」」」」
アースガロンはアースガンを撃ちながら、ジェノセイザーに接近する。ジェノセイザーの硬い甲皮はアースガンでの攻撃をものともしない。ぶつかり合うアースガロンとジェノセイザーは至近距離で取っ組み合う。エミやヤスノブも地上から攻撃を仕掛ける。
「ほう、あくまで抗うか、地球人よ。ならばその足掻き、最後まで見せるがよい」
ドロスは瓦礫の山に腰を据える。ジェノセイザーとロックアップの状態になったアースガロンは、ジェノセイザーの脇腹に蹴りを入れて、一旦距離を取る。
「…そろそろ時間か」
ドロスが呟く。辺りは陽が沈みかけ、夕焼け色に包まれていた。
「距離を取って、アースファイアで攻撃!」
「ウィルコゥ!」
アースガロンは空高く飛翔し、そこから口部に搭載された大型荷電粒子砲アースファイアを放つ。ジェノセイザーは発達した腕でその攻撃をガードする。攻撃を受け止めながらジェノセイザーはジリ…ジリ…と前に進む。そして地面を陥没させる勢いで飛び上がり、空に飛んだアースガロンの脚を掴む。
「え、うそでしょ!」
そのままジェノセイザーはアースガロンを叩き落とす。
「「うわああ!!」」
コックピット内にも強い衝撃が伝わり、テルアキとアンリは気を失ってしまう。
「テルアキ副隊長!アンリさん!」
「これアカンやつや!」
エミとヤスノブはジェノセイザーの気を引こうと必死に発砲するが、ジェノセイザーは2人のことは気にも止めず、アースガロンに向かっていく。そして、倒れたアースガロンの前に立ったジェノセイザーは腕を振り上げ、トドメの一撃を放とうとする。
…が、ジェノセイザーの動きが突然止まり、そのまま膝から崩れ落ちた。
「え…?」
エミとヤスノブはその様子に驚き、呆然とするしかなかった。
「ジェノセイザーは日が沈むと眠ってしまう。ここまで凌いだ汝等の力は素直に褒めてやろう」
ドロスは立ち上がって、ジェノセイザーに近づいた。
「こいつは置いておく。恐らく夜が明ければ活動を再開し、今度こそこの星の武力を無力化し、我が軍の支配を絶対なものとしてくれるだろう。余興としては良いものだ。余はその様子を宇宙から見届けるとしよう。汝等の健闘を期待する」
そういうとドロスは宇宙船の内のひとつに乗り込んだ。ドロスの宇宙船は他の宇宙船を引き連れて、地球を後にした。
***
ヒルマゲントが目を覚まして、初めに目に映ったものは病院の天井だった。
ゲントが目を覚ましたのを知ると、他のSKaRDの面々がゲントの様子を伺った。
「ゲント隊長…大丈夫ですか?」
そう言うテルアキと、その隣にいるアンリの頭には包帯が巻かれていた。ゲントは体を動かそうとしたが、全身に激痛が走り、再びベットに倒れた。エミが慌ててゲントを止める。
「ダメですよ!隊長が見つかった時、すごい怪我だったんですから…」
「ああ…爆発に巻き込まれてな…そうだ、ドロスは!?宇宙船はどうなった!?」
ゲントは慌てて皆んなに問いただした。
「ドロスは宇宙船に乗って移動、現在は大気圏外から地上の様子を監視してるみたいです。ほんでジェノセイザーに関しては、街のど真ん中で睡眠中ですね」
「覚醒を夜明けだと仮定すれば、12時間も余裕はありません。我々は迅速に作戦を練る必要があります」
ヤスノブとテルアキがそれに答えた。
「分かった。じゃあ早速…」
「ダメです、ダメです隊長は!一時は本当に危なかったんですから!」
作戦に加わろうとしたゲントをアンリが全力で制止する。
「しかし…」
「アンリの言う通りです。今回は隊長抜きで作戦を立てます。隊長は我々にとっても貴重な戦力、ここで失うわけにはいきません。なのでこういう時はしっっっかり休んでください」
テルアキはそう言うと、まだ何か言おうとしているゲントを無視しながら、他のメンバーを引き連れて病室を後にした。
「…とは言ったものの…」
テルアキはSKaRDの作戦指揮所で頭を抱えていた。
「ヤスノブ、アースガロンの様子は?」
「多分、本体自体の修復は出撃までには可能やと思います。ただmod.2以降のユニットの損傷が激しくて…そっちの方は出撃までには間に合わんと思いますね…」
テルアキは「そうか…」と答えると再び頭を悩ませた。足りない。何もかも足りなさすぎる。そう思っていた時だった。
「こんな所で悩んでいる場合ではないぞ。刻一刻と時間は進んでいる」
声の方を向くと、そこにはハルノレツの姿があった。
「各国の防衛隊は今回には手を貸さない方針らしい。まあ下手に手を出して、自国に被害が及ぶのを恐れてのことだろう」
「そんな…」
ハルノの言葉にエミは肩を落とす。
「だが、GGF日本支部の他の部隊からの協力は惜しみなくするつもりだ。時間がない。各部隊と作戦の共有を、実際に今回の相手と交戦経験のあるSKaRDを中心に早速行いたい」
「作戦は一応考えてあります。ただ成功のするかどうかは…」
そう言うテルアキにハルノがぴしゃりと答える。
「成功するかどうかではない!成功させるんだ。日本の…いや地球の未来が我々の手にかかっている」
テルアキは頷いた。
早速、防衛隊各部隊が招集され、作戦の共有が行われた。
「まずは敵が地球に放置していったジェノセイザーという怪獣の対処を優先的に行います。作戦の段取りを端的に話すと、ジェノセイザーを所定のポイントまで誘導、目的のポイントに到達したところで罠を起動。身動きが取れなくなった対象に集中砲火を仕掛ける…というものです」
「ジェノセイザーの甲皮は非常に硬く、アースガロンの攻撃もほぼ無意味でした。ですがアーく…EGOISSの分析によると、口内部は甲皮に比べると柔らかいことが分かりました。狙うならここです」
テルアキとヤスノブが集まった部隊に説明を行っている。
「作戦は2班に分かれて行います。アースガロンを筆頭に戦闘機や戦車で、ジェノセイザーをポイントまで誘導する班。そしてポイントで罠を起動する班です。それぞれの班を我々SKaRDのメンバーが指揮を取ることになっています」
テルアキが作戦の段取りを話し終えると、ハルノが前に出てきた。
「夜明けを持ってこの作戦の決行とする。速やかに準備し、所定の位置で待機しろ。この戦いには地球の未来がかかっている。そして、我々の敗北は地球の敗北を意味する。故に必ず勝利しなければならない!分かっているな?」
集まった者たちが、大きな声でそれに答える。ハルノの言葉は、決戦前夜に相応しい決起会代わりとなった。
各部隊はSKaRDの指揮所を離れ、それぞれで作戦の共有と準備を始めていた。
「我々も2班に分かれなければならない。とは言ってもゲント隊長は休息中で、ヤスノブはアースガロンの各ユニットの修理に追われることになる。となると残るは俺含めて3人。エミとアンリは罠を起動する班に行ってくれ」
「え、てことは…」
エミがテルアキを見つめる。
「そうだ。俺がアースガロンに乗る」
「そんな!1人で乗るんですか?」
アンリは食い気味でテルアキに問いただした。
「この作戦の要は罠を完璧に起動させることだ。これ以上そこの人員を減らすわけにはいかない。そう考えると俺が1人でアースガロンに乗る他ない。まあアーくんもいるし、1人での操縦は不可能じゃない」
「そんなこと言ったって…」
「いやナグラテルアキ、お前は後方での支援を命ずる」
エミがテルアキに抗議しようとした瞬間、SKaRD指揮所内に再びハルノが来て、テルアキにそう告げた。
「しかし!」
「この作戦では誘導班と罠の起動班、両者の状況を客観的且つ冷静に見ることができる指揮者の存在が必要だ。火力誘導班時代やSKaRDでの実績を見ればお前がそれに適任であることは明らかだ」
ハルノはテルアキの言葉を遮って話す。しかしアンリは当然の疑問を投げかける。
「じゃ、じゃあアースガロンには誰が…」
確かにこの作戦、罠の起動班も指揮者も重要なポジションではあるが、アースガロンという戦力もまた、絶対的に必要なものである。となるとアースガロンを操縦する存在も必要不可欠だ。しかし、テルアキが作戦の指揮に回ればそこに当たれる人物はSKaRDにはいない。ハルノが口を開いた。
「…俺が行く」
***
夜が明け、日が昇る。人の消えた街に巨大なアースガロンの影が浮かぶ。その足元には戦車部隊が、そして上空には戦闘機部隊が配置につく。
「…以上が緊急時のマニュアルです」
「分かった。一応開発に携わっていた身だ。機能は一通り覚えている。だがいざという時のサポートは頼む。…えー、あの…」
アースガロンのコックピット内ではアーくんとハルノが最終確認を行っていた。
「EGOISS、アーくんでいいですよ。皆さんからはそう呼ばれています」
「…よし、考えておこう」
一方、臨時で作られた指揮所ではテルアキが双方の状況を確かめていた。
「こちらCP。エミ、アンリ、そちらの状況は?」
「こちら罠起動班。準備完了です」
「了解。ハルノ司令官、そちらはいかがでしょう」
「こちら誘導班。準備は出来ている」
各々の準備が完了したことを確認した時、ジェノセイザーを様々な方法で観測していたメンバーが異常を発見する。
「ジェノセイザーの体温が上昇しています!」
ジェノセイザーの手の指が動いたかと思うと、その目が開き、ゆっくりとその体を起こした。
「ジェノセイザー覚醒!…作戦開始!」
テルアキの号令でアースガロンがジェノセイザー目掛けて走り出す。ジェノセイザーが振り下ろしてきた腕を掴み、捻って、空いた腹部に蹴りを入れる。そこに間髪入れずにタックルでジェノセイザーを後退させる。さらに防衛隊の戦闘機と戦車部隊の攻撃が決まり、ジェノセイザーは爆炎に包まれる。
が、しかし、ジェノセイザーには攻撃は通じていない様子だった。爆炎の中からジェノセイザーが姿を現し、ゆっくりと近づく。アースガロンたちは一定の距離を保ったまま後退し始める。
「よし、このまま行くぞ!」
ハルノの声に鼓舞されて、誘導班の士気がより高まる。
***
一方その頃テレビで中継を病院のベットの上にいるゲントは、備え付けられたテレビで作戦の中継映像を見ていた。そして胸の傷を確かめた。もう傷は塞がり始めていた。ブレーザーと同化した後、自身の治癒能力は活性化されているということは理解していた。まあそれが結果的に"無理をできてしまう体"にしてしまっていたのも事実なのだが。
ゲントは看護婦の見回りのタイミングは全て把握していた。隙を見て着替えて、窓から脱出する。部下が…仲間が戦っている。自分だけ何もしないわけには行かない。歩き出そうとしたゲントは制服のズボンのポケットに熱を感じた。
「あつっ!!」
ポケットの中のブレーザーストーンが発光していた。
「一緒に…戦ってくれるのか…」
ブレーザーが頷いた…気がした。再びゲントの腕にブレーザーブレスが現れ、そこにブレーザーストーンを入れる。
「行くぞ…ブレーザー!」
ブレーザーブレスのボタンを押すと、ゲントは光に包まれる。優しく、そして力強い光。
降臨したブレーザーは、凄まじいスピードで空高く飛び上がった。
「何かが地球から宇宙に向かって飛び立ちました!…ウルトラマン…ブレーザーです!」
衛星カメラを監視していたメンバーから声が上がり、テルアキの耳に届く。
「ブレーザー…!」
ブレーザーは大気圏を突破し、宇宙で高みの見物を決めていた宇宙船団と対峙する。
「ほう…来たか…だが決闘は終わっている。こちらも我が軍の兵力を持って対抗させてもらうとしよう」
ドロスの掛け声が合図となり、宇宙船団は一斉にブレーザーへと攻撃を仕掛ける。次々とと襲いかかるレーザーを潜り抜けながら、光弾を発射し、宇宙船を撃墜していく。飛行するブレーザー頭部のクリスタルが青く燃える。
ルロロロロイ!!
ブレーザーの雄叫びが衝撃波となり、宇宙船を一斉に破壊する。しかし、相手の数が多い。次から次へと宇宙船団からレーザーの雨が降り注ぐ。ブレーザーも負けじと、光弾や突進を駆使しながらひとつひとつ宇宙船を破壊する。そしてガラモンストーンを使用した。ブレーザーが両手の間で虹を練り上げ、そしてそれを一度両手で押しつぶす。それを頭上で一気に広げると、今まで見たことのない大きさのレインボー光輪が生まれた。
ルロロワア!!
巨大なレインボー光輪が次々と宇宙船を真っ二つにしていく。怒涛の勢いで攻め込むブレーザー。だが、その背後からレーザーが撃ち込まれる。ブレーザーにその攻撃が着弾しそうになった時、火柱が壁となって攻撃からブレーザーを守る。炎は不死鳥のような姿に変わり、突進で宇宙船たちを破壊していく。炎竜怪獣ファードラン。頼もしい仲間の登場に、ブレーザーも勢いづく。
ブレーザーはチルソナイトソードを装備して、ファードランと背中合わせの状態になる。ブレーザーがチルソナイトソードのレバーを1回引く。チルソナイトソードの斬撃から、棘状の稲妻が3つ発生し、宇宙船に向かって発射される。ファードランも同じように火炎を周囲に撒き散らす。ブレーザーとファードランの攻撃が、囲んでいた宇宙船たちを蹴散らす。
ブレーザーとファードランは他の宇宙船たちに攻撃を仕掛けながら、ドロスが待ち構える巨大な宇宙船に向かって一直線に突き進む。ファードランストーンを使用すると、ファードランがブレーザーを包み込み、ファードランアーマーへと姿を変える。
チルソファードランサーへと変わった武器のレバーを、ブレーザーが何度も引く。チルソファードランサーの両刃が炎と稲妻を纏う必殺技、チルソファード炎雷斬が炸裂する。
ブレーザーは稲妻のようにジグザグに高速移動しながら、残りの宇宙船を斬り刻む。そしてその勢いのまま、ドロスの宇宙船の壁を突き破り、ドロスに斬りかかる。ドロスはその攻撃を受け止め、弾き返す。再びブレーザーとドロスが相見える。
「いいだろう。2回戦と行こうか」
***
またまた一方その頃地球、ジェノセイザーをポイントまで誘導する作戦は順調に進んでいた。
「ポイントまで残り500メートル!」
無線からテルアキの声が響く。アースガロンは残り少しの距離を縮めるために、ジェノセイザーを押し込む。しかしジェノセイザーも負けじと踏ん張る。アースガロンは両手で交互にパンチをしてジェノセイザーを怯ませ、飛び膝蹴りで更に後退させる。更にハルノはそこから追撃を狙う。
「アースファイア、発射!」
至近距離でのアースファイア。アースガロンはその勢いで、放物線を描く様に飛び上がりながら後ろに下がる。そしてジェノセイザーは大きくノックバックした。
「ジェノセイザー、ポイントに到達!」
「罠起動!」
テルアキの合図にエミが答える。その声でアンリと他の隊員たちが一斉にボタンを押す。そうすると、ジェノセイザーのいる位置の地面に設置されていた爆弾が爆発し、地面が陥没する。それによってジェノセイザーも地面に埋まる。更に電磁ネットがジェノセイザーを包み、その動きを封じる。
「これがゲバルガの電磁バリアから生まれた新兵器ですね!」
電磁ネットを起動させたアンリはその効果に驚きながら話した。
「だが、このネットの強度でどれだけジェノセイザーを足止めできるかは分からん。今のうちに叩くぞ!」
ハルノの声でジェノセイザーへの集中砲火が開始される。身動きの取れないジェノセイザーは、集中砲火による爆炎で姿が見えなくなる。
「このまま!」
アンリが銃を撃ちながら、そう言った瞬間だった。
グウアアアアアア!!
ジェノセイザーの雄叫びが衝撃波となり、爆炎を掻き消し、周囲を囲んでいた防衛隊の戦力を吹き飛ばした。
「全弾命中!…しかし効果なし!」
テルアキの声が無線から響く。その声で戦場に立っていた隊員たちは愕然とする。
「やはり甲皮にどれだけ撃ち込んでも効果は無いか…!」
ハルノがそう言うと、ジェノセイザーは電磁ネットを破ってきた。ジェノセイザーはアースガロンに飛びついた。アースガロンとジェノセイザーは揉み合いながら転がる。揉み合いの末、マウントを取ったジェノセイザーがアースガロンに馬乗りになって滅多打ちにする。
「胸部を中心に76%のダメージ、深刻なダメージ量です」
「このままでは…いかん!」
アースガロンはアースガンを至近距離で撃って、ジェノセイザーを怯ませて、押し退ける。それから尻尾で振り回して攻撃をする。その尻尾の攻撃が相手に当たる瞬間にハルノが叫ぶ。
「テイルVLS発射ァ!」
アースガロンの尻尾の部分に装備されたミサイルが発射され、尻尾攻撃との相乗効果で大きくジェノセイザーを吹き飛ばす。
…が、ジェノセイザーは尚も立ち上がる。大したダメージにはなっていないようだ。
「ダメだ!口の中を攻撃する隙と、火力が足りていない!」
ハルノの悲痛な叫びが響く。ジェノセイザーは猛烈な勢いでアースガロンに突進を仕掛ける。アースガロンは大きく吹き飛ばされて、ビルに激突し、それを薙ぎ倒す。
ジェノセイザーの気を引こうと、地上部隊や戦闘機、戦車が攻撃を仕掛けるが、それには目もくれず、まずはお前だと言わんばかりにアースガロンに向かっていく。
その時だった。ヘリが近づく音が聞こえて、全員が上空を見上げた。
「お待たせしました!修理完了です!」
ヤスノブが無線に割って入る。ヤスノブ達が乗った輸送用のヘリ達が修理完了したmod.2、mod.3ユニットを運んできたのだ。
「ヤスノブさん、ナイスタイミング!」
近づいてきたヘリに気を取られていたジェノセイザーを突き飛ばし、アースガロンは上空に飛ぶ。ヘリに乗った整備班のメンバーが急ピッチでアースガロンに各ユニットを装備する。その間、それ以外の部隊が必死にジェノセイザーを食い止める。
「オールグリーン!アースガロンmod.4、スタンバイ!」
「ウィルコゥ。アースガロンmod.4出動!」
ついに完成したアースガロンmod.4がハルノの声と同時に地上に降り立つ。ジェノセイザーはもう待ちきれんとばかりに、アースガロンに向かって走り出す。アースガロンはmod.3ユニットを活かして超高速の低空飛行で突進を仕掛ける。アースガロンの超高速突進にジェノセイザーは大きく吹き飛ばされる。倒れたジェノセイザーに、間髪入れずアースガロンはアースガンと肩についたmod.2ユニットの装備を乱射して畳み掛ける。
アースガロンの攻撃ラッシュに流石のジェノセイザーも身動きが取れなくなる。しかし怯んではいるものの、ジェノセイザーに大きなダメージを与えるには未だ至っていないようだった。
「エミさん!アンリさ〜ん!」
固唾を飲みながら戦況を見守っていた2人の名前を呼んで、ヤスノブが近づいてくる。
「お2人にこれを渡そうと思って…」
そういったヤスノブは持ってきた小さなアタッシュケースを開ける。そこには2つのライフル弾が入っていた。
「これは…」
アンリがヤスノブに聞く。
「これはチルソナイトを使った特殊な弾丸です。通常のライフルの数百倍の貫通力がある計算です」
ヤスノブがその内のひとつを手に取り2人に見せる。それを見てエミは興奮する。
「てことは、これでジェノセイザーにもダメージを…」
「いやそれはキツイっすね。威力が上がるよう調整しましたけど、流石にジェノセイザーの装甲を貫くのはできんと思います。ただ比較的柔らかい口周辺なら貫通させれると思います」
ヤスノブは2人にパッドの画面を見せる。
「話したように、ジェノセイザーの口内部が1番柔らかいです。でも、口内部を攻撃出来る時なんてタイミングが限られてるでしょ?そこでこのライフル弾を使って顎の両関節辺りを貫くんです。そしたら口を閉じれなくなるんじゃないかと思って」
「なるほど!チャンスを伺って攻撃するより良いかもしれないですね」
ヤスノブの説明にアンリも同意する。
「ただ、急拵えなんでちょうど2つしか作れてないんです。両顎の関節を撃ち抜くには1発も外せません」
「うわ…責任重大じゃん…」
エミが呟く。しかしアースガロンとジェノセイザーの様子を見ると、ジェノセイザーがアースガロンの猛攻に耐えながらジリジリとアースガロンに接近していた。そして遂にアースガロンを射程範囲内に捉えたジェノセイザーは、大きく腕を振りかぶってアースガロンに攻撃を仕掛ける。アースガロンはその攻撃を避けるが、ジェノセイザーはこの期を逃すまいとアースガロンを捕まえて離さない。
「時間は無い…か。行きましょう、アンリさん」
「そうですね…!」
エミとアンリはライフルを抱えて飛び出し、お互い別々のビルの屋上へと向かった。2人が屋上に到着しても、依然としてアースガロンとジェノセイザーは組み合ったままだった。
「このままじゃ狙えない…!」
スコープから戦況を覗き込むアンリが声を漏らす。
「話は聞いた。俺に任せろ」
無線からテルアキの声が聞こえる。
「こちらSKaRD CP。ジェノセイザーが北西に向くよう、意識を引きたい」
「了解」
戦車部隊の一斉砲撃が開始される。更に続けて戦闘機部隊も攻撃でジェノセイザーの気を逸らす。ジェノセイザーは攻撃の方を振り返った。
「これなら狙える!」
しかし、エミが声を上げた途端、ジェノセイザーは戦車・戦闘機部隊に向かって突進を仕掛けた。それぞれの部隊は後退するが、ジェノセイザーはその先の屋上にいたエミを視界に捉えてしまった。
「エミさん!!」
アンリが叫ぶ。ジェノセイザーはエミに攻撃をしようと近づいた。
「わっ…!」
エミはその絶体絶命の危機に目を閉じた。しかし、何も起こらない。ゆっくりと目を開けると、ジェノセイザーの動きが止まっていた。
アースガロンがジェノセイザーの尻尾を掴んで動きを止めていたのだ。アースガロンはそのまま掴んだ尻尾を手繰り寄せて、ジェノセイザーの頭をがっちり掴み、ヘッドロックの態勢になる。さらにアースガロンはジェノセイザーの口を掴んで動きを止める。
「おじさん…!今なら!」
エミは態勢を立て直し、ライフルを構える。引き金を引くと、銀色に輝く弾丸が、ジェノセイザーの片方の顎関節に吸い寄せられるようにして撃ち込まれた。
ギャオオオオ!!
ジェノセイザーは苦悶の叫び声をあげる。続いてアンリもスコープを覗き込み、引き金に指をかける。
「当たれえ!!」
アンリの放った弾丸ももう一方の顎関節に着弾した。アースガロンは再び叫び声をあげるジェノセイザーの口に、手を突っ込み、アースガンを発射する。ついにジェノセイザーの下顎が崩れ落ち、口内部が露出する。
「よっしゃ!今やー!!」
「行ける!行けるぞ!!」
ヤスノブもテルアキも声を上げる。アースガロンのコックピットに乗ったハルノにも、より一層の力がこもる。
「"アーくん"、オールウェポン…ファイア!!」
ハルノの掛け声と操作で、アースガロンに装備された全兵装が火を吹く。ジェノセイザーの口部にロックオンされたミサイルやビームが次々に着弾する。ジェノセイザーもうめき声をあげるが、爆発音でそれはかき消される。やがてジェノセイザーの体に限界が訪れ、体のあちこちが爆散し、やがて跡形もなくなった。
「…ジェノセイザー沈黙…我々の…我々の勝利です!」
テルアキからの無線に皆が沸き立つ。人類の力で、巨大な怪獣を打ち倒した。その事実に喜び、抱擁し合い、涙するものもいた。
エミとアンリは別々の屋上から向かい合い、サムズアップを交わす。そして2人はそのサムズアップを地上にいるヤスノブに向ける。ヤスノブも笑顔とサムズアップでそれを返す。
そこにSKaRD全メンバーに向けて無線が入る。
「喜ぶのはまだ早い。もうひと仕事残ってるぞ」
ハルノの言葉にSKaRDのメンバーはハッとする。そうだ、まだやり残したことがある、やらねばならないことがある。
「アースガロンはまだ動ける。我々の…」
ハルノは一息入れて言葉を続けた。
「仲間を助けに行くぞ」
***
宇宙。ドロスの巨大な宇宙船内部ではブレーザーとドロスとの激しい戦闘が行われていた。激突。鍔迫り合い。そして離れる両者。
「まだこのような力を隠していたとは…だがこれでこそ倒し甲斐があるというもの…!」
ドロスは斬撃波を放つ。ブレーザーは大きく飛び上がり、宇宙船の天井を突き破り、宇宙に出た。ドロスもそれを追ってくる。ブレーザーは手から槍状の炎の渦を幾つも生み出し、追ってくるドロスにホーミング攻撃する。ドロスがそれを打ち返す度に、あちこちで爆発が起きる。
宇宙を飛ぶブレーザーは月面に降り立った。ドロスもそれに続く。ドロスが地面に大剣を突き立てると、地面がひび割れる。ドロスは念力のような力でひび割れた地面を持ち上げ、砕き、そしてそれらをブレーザーに向かってる放った。ブレーザーも槍状の炎の渦でそれを迎撃する。それぞれの攻撃が飛び交う中で、2人も直接剣を交える。周りで岩石と炎がぶつかり合って起こる爆撃と、2人の一進一退の攻防が続く。
ドロスは後ろ方向に向かって飛びながらブレーザーに手のひらを突き出し、爆破攻撃を仕掛ける。ブレーザーはチルソファードランサーを体の前で回転させながらそれを受け止める。ブレーザーはトリガーを1回引く。
ファイアアアア!!
ブレーザーはチルソファードランサーを地面に突き立て、炎を帯びた電撃波をドロス目掛けて放った。チルソファード炎竜ウェイブである。ドロスは自分に当たる直前に地面を抉り切り、その威力でブレーザーの技を相殺した。
しかし、そのドロスが攻撃に気を取られている隙に、ブレーザーの姿が元いた場所から消えていた。ドロスが上を見ると、空中にブレーザーとファードランがドロスを挟み込む形で飛んでいた。ブレーザーとファードランは一斉にドロス目掛けて突撃する。縦横無尽に駆け回るブレーザーとファードランに、ドロスはなす術なく翻弄される。ブレーザーとファードランは高く飛び上がり、再び一体化する。ブレーザーはチルソファードランサーのトリガーを何度も引く。ブレーザーはドロスの宇宙船団を壊滅させてみせたチルソファード炎雷斬をもう一度炸裂させた。
急降下しながら、ブレーザーは炎と雷を纏ったチルソファードランサーでドロスを斬りつける。ドロスも大剣でそれを受け止めるが、ブレーザーの勢いの方がやや強く、ドロスの片膝が地面に着く。このままブレーザーが押し切ると思ったその瞬間、ブレーザーの胸に激痛が走った。先のドロスとの戦いで受けた傷が、激しい戦いの中で開き始めたのだ。その一瞬の隙をドロスは見逃さなかった。ドロスは大剣に力を入れ直し、ブレーザーの一撃を押し返し、振り払った。ブレーザーは地面に叩きつけられ、胸の傷を押さえて、うめき声をあげる。
「汝の強さは誠に天晴れであった。余も全力を尽くして尚危うい戦いであった。人生最大の好敵手であったことを認めよう。そんな汝に敬意を表して、一思いに殺してやる」
ドロスが大剣を振り上げた。ブレーザーもゲントも、自身の最期を悟った。同化を解くこともままならない体力だった。
そしてドロスがトドメの刃を振り下ろそうとした…その時だった。ブレーザーの横をミサイルたちが通り過ぎる。そのミサイルたちがドロスに着弾し、大きく怯ませる。ブレーザーがミサイルの来た方角を見ると、そこには"仲間たち"の姿があった。
アースガロンがブレーザーの隣に着地する。アースガロンはブレーザーに手を差し出す。
「立て、ブレーザー」
ハルノの声がする。ブレーザーは少し驚いた素振りを見せたが、アースガロンの手を取り、立ち上がる。
「月で戦うのも結構久しぶりっすね」
「いや、普通はそんな何回もやることじゃないです」
ヤスノブの言葉にアンリがツッコむ。
「そっか、皆んな1回行ってるのか。私初めてなんだよな」
「おい…遠足じゃないんだぞ…」
エミの言葉にはテルアキが苦笑しながらツッコむ。
「汝等は…」
「そうか、まだ名乗っていなかったな。SKaRD副隊長、ナグラテルアキだ。」
ドロスの問いにテルアキが答える。
「SKaRD、アオベエミ」
「同じく、バンドウヤスノブ」
「同じく、ミナミアンリ」
他のSKaRDのメンバーも名乗る。
「GGF日本支部司令部司令官、そしてSKaRD創設者、ハルノレツだ」
「EGOISS、アーくんもいます」
ハルノの名乗りの後、アーくんもアースガロンがガッツポーズに動かしながら名乗りをした。
「ここにはいないSKaRD隊長、ヒルマゲントの思いも我々は背負っている。そして隣にいる彼がウルトラマンブレーザー。彼1人が地球の代表ではない。彼を含めた我々全員…このSKaRDが地球の代表だ!」
ハルノが啖呵を切る。ドロスはワッハッハと大きく笑った。
「なるほど、そういうことだったか。それならば全員纏めてかかってくるがよい。余との決闘を再開しよう、地球の勇者たちよ」
ドロスはブレーザーとアースガロンに向かって構えをとる。ブレーザーとアースガロンも臨戦態勢に入る。
「行くぞ!」
「「「「ウィルコゥ!!」」」」
ルルルルロロロロアア!!
ブレーザーとアースガロンがドロスに向かって走り出す。ドロスも2人に目掛けて突っ込んでいく。
ドロスがブレーザーとアースガロンに向かって斬りかかるが、2人は散開してそれを避ける。アースガロンがドロスに対して接近攻撃を仕掛ける。ドロスはアースガロンに剣を振るうが、アースガロンがそれを避け、腕を掴む。その状態でドロスの脇腹に蹴りを2発入れる。そこからアースガロンは拘束を振り払われるが、ドロスに低い姿勢の体当たりを喰らわせる。
「今や!」
ヤスノブの合図でブレーザーが、体当たりを終えて屈んでいたアースガロンの背中を転がって攻撃を仕掛ける。体当たりに怯んでいたドロスはブレーザーとアースガロンのコンビネーション技を喰らってしまう。ブレーザーとアースガロンは続けて攻撃を繰り出し、ドロスを追い詰める。
「1人でも十二分に強かったが、仲間と戦えば更なる力を発揮するのか。恐るべき力だ。だが…私にとっては恐るるに足りん!」
ドロスは居合の様に腰に大剣を据えた態勢を取る。その次の瞬間、ドロスはブレーザーとアースガロンの後ろにいた。
「覇道剣…光牙」
そう呟いたと同時にブレーザーとアースガロンの体に、何度も斬りつけられた衝撃が走った。目に見えない速度ですれ違い、更に何度も斬撃を加えたのだ。
「何今の!?全然見えなかったんだけど!」
「まだまだ行くぞ。覇道剣…蛇羅邪螺」
エミの驚きの声をよそに更なる技をドロスが仕掛ける。ドロスが大剣の刀身を手でなぞると、その刀身がエネルギー体となり、更に伸びていく。鞭のようにしなるその刃が、ブレーザーとアースガロンを襲う。
「この妙技の数々、人呼んで…」
「もう人呼ばなくていい!!」
アンリがそう叫ぶと、テイルVLSが発射される。ブレーザーも槍状の炎の渦を放つ。ブレーザーの放った炎の渦がテイルVLSにまとわりつく。更なる攻撃力と貫通力を得たテイルVLSだったが、ドロスに避けられ、地面に貫通していってしまう。
「万策尽きたか…では、この一撃で幕引きとしよう。我が奥義…」
ドロスが大剣を振り上げ、力を溜める。
「覇道剣国士無双斬ッ!!」
ブレーザーを破り、街にも甚大な被害をもたらしたドロス最強の技が繰り出される。
ブレーザーはそれに対し、チルソファードランサーのレバーを3回引く。そしてさらに右手から赤と青の二重螺旋の光が輝く槍を発生させる。ブレーザーの持つ必殺技のうちの1つ、スパイラルバレードである。そのスパイラルバレードを矢のようにして、チルソファードランサーにセットする。スパイラルバレードとチルソファード炎竜射の合わせ技。限界までスパイラルバレードを引き、放つ。
フゥアアアアイヤアア!!
スパイラルバレードは炎を纏い、ドロス目掛けて一直線に飛び出す。
「こちらも…アースファイア、発射!!」
テルアキの号令でアースファイアが炸裂する。アースファイアが先ほど放たれた炎のスパイラルバレードを螺旋状に覆い、さらに加速させる。
ブレーザーとアースガロンの合体技とドロスの国士無双斬がぶつかり合う。拮抗した2つの力だったが、徐々にドロスの攻撃が競り勝っていく。このままではドロスの攻撃がブレーザーとアースガロンに届く……その時だった。
ドロスの背後の地面から何かが飛び出した。先程ドロスに避けられ、地面に着弾したテイルVLSだった。ブレーザーの炎の力で貫通力を増したテイルVLSは、地面を潜り、さらに掘り進んでドロスの背後まで迫っていたのだ。
「計算通りですね」
アーくんが誇らしげな声で言う。言葉は通じないが、ブレーザーとSKaRDの考えは通じ合っていた。
テイルVLSはドロスの背中を襲う。不意打ちを受けたドロスは、攻撃の手を緩めてしまう。すると先程までの力関係は崩れ、一気にブレーザーとアースガロンの攻撃が勢いを増し、ついにスパイラルバレードがドロスの体を貫通する。
「何だと…!!」
「一気に決めるぞ!」
ハルノの指示でブレーザーとアースガロンが拳を突き出して飛び出す。2人はどんどんと加速して、ドロスに向かって突っ込んでいく。凄まじい速度に達した2人の突撃が、ドロスの体を再び貫き、2人はドロスの背後に着地する。
「これが…地球の力…!勇者たちよ…天晴れ!!」
最期に2人の、そして地球の力を認めて褒め称えたドロスは大爆発した。その爆発を背後にブレーザー、アースガロン、ファードランが並び、いつもの祈祷のようなブレーザーのポーズをとる。
そしてブレーザーとアースガロンは見つめ合う。言葉は通じないが、思いは通じ合う。ブレーザーは踵を返してファードランと共に飛び立った。アースガロンも地球へと戻っていく。こうして地球を襲った強大な魔王との戦いは、地球の勝利に終わったのだ。
***
「カンパ〜イ!」
戦いを終えた戦士たちは、祝賀会をSKaRD作戦指揮所で開いた。皆、お互いの健闘を讃えあいながら和気藹々とした雰囲気だ。
「いや〜今回ばかりは、もうアカンって思いましたね。流石に強すぎた…」
「そうですよね…それに、あのドロスとかいう宇宙人と連戦するとは…」
ヤスノブとアンリの会話にエミも入ってくる。
「しかもアースガロンのコックピット狭すぎ…本体の方にテルアキさんとハルノ司令官と私の3人で乗ったけど、ギュウギュウ詰めでしたからね」
「あれは改善の余地ありだな…まあでもこんな人数で乗り込むこと自体が異例だからな…」
テルアキがエミの言葉に返事する。その後、エミがキョロキョロ辺りを見渡し始める。
「あれ?ゲント隊長は?」
「ああ、さっきハルノ司令官に呼ばれて廊下に2人で行ってたぞ」
テルアキが廊下を指差す。
「あー、そりゃこっぴどく怒られるんちゃいます?」
「病院抜け出しちゃったわけですからね…」
ヤスノブとアンリも苦笑いしながら話す。
そして廊下。ゲントとハルノが向かい合う。
「病院から抜け出したそうだな。しかも道中で転倒して新しい怪我を作って、さらに間に合わないとは…」
「いてもたってもおられず…申し訳ありません」
ゲントは頭を下げる。体の角度はまさに90度だ。
「中途半端なことをやるからそうなるんだ」
「その通りです…それにアースガロンに搭乗して、私の部下たちに指示をしていただいたとか。ありがとうございます」
ゲントは再び頭を下げる。
「礼には及ばん。やるべきことをやっただけだ」
ハルノは仏頂面を崩さないまま話を続ける。
「まあ、暫くは安静にしておくことだな。余計に怪我を作って、本格的な復帰が遅くなられても困る。たまには家族サービスでもしてやれ」
「…痛い言葉です。ありがとうございます」
ゲントが三度一礼すると、ハルノは振り返って去っていく。…と思ったが、途中で立ち止まる。
「…ゲント」
「はい?」
ゲントはまた何か言われるのかと、内心ビクビクしながら返事をした。
「…現場も楽じゃないな」
ハルノはそれだけ言い残すと再び歩き出した。顔は合わせなかったが、お互いの顔には笑みが溢れていた。
「ゲントた〜いちょっ」
少し先程のやり取りに気を取られていたゲントをエミがこついた。
「どうでした?めっちゃ叱られたんすか?」
ヤスノブが興味津々で聞いた。
「そりゃ叱られるに決まってるじゃないですか」
アンリもそれに重ねる。
「ああ、こっぴどく叱られたよ」
「でしょうね。ほんとに…これからは絶対なしですからね」
テルアキにも叱られ、ゲントも苦笑する。
「まあ今はそんなこと忘れて、パァーッとやりましょ!パァーッと!」
エミがクイクイッと何かを飲むジェスチャーを見せる。
「あ、野菜ジュースもありますよ」
ヤスノブなイタズラな笑みを浮かべる。
「お前なあ!」
ゲントは笑いながらヤスノブにヘッドロックする。それを見て皆んなが笑う。
ここは地球。まだまだ人類にとって未知が多い惑星。今回のように宇宙からの脅威が訪れることもあるだろう。
だが心配することはない。地球にはウルトラマンブレーザーとSKaRDという星を守らんとする"勇者"たちがいるのだから。
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