見出し画像

大阪ぶらり旅 後編

 翌日爽やかに目を覚ました私はチェックアウトをすませ、通天閣のある浪速区の新世界を目指した。以前読んだ大槻ケンジさんのエッセイにこの通天閣が紹介されており、私も一度ビリケンさんと対面してみたいと思っていたのだ。ビリケンさんとは何か。アメリカの女性芸術家フローレンス・プリッツが、「夢の中で見た神様」をモデルに制作した作品がビリケンさんの起源とされている。その後「幸福の神様」として全世界に知れ渡ったそうである。(Wikipedia参照)大きく突き出た足をなでるとご利益があるということで、私もご相伴にあずかろうという魂胆である。

 新世界に着く。やはり休日ということもあって人でごった返していた。奥の方に進んでいくと通天閣は唐突にその姿を現した。今までにみたことのない形をしたタワーである。威風堂々とした佇まいで私はすっかりその姿に魅了されてしまった。入場して案内ツアーを待つこと約40分。各階を見て回りながらついにビリケンさんとの対面を果たす。神様というよりもコロボックルというか、まるで子どものような妖怪のような見た目である。私は足の裏を熱心に撫でながら、どうかこの苦しい状況を救って下さいとひたすらに祈った。そして窓辺にて大阪の街を一望する。所狭しとビルや住宅が立ち並ぶ中にぽっかりとあいた空間が。そこは天王寺公園という動物園や美術館を併設した公園だった。都会の中に緑があるというのもいいものだなと感心する。しかしどうやらここからでは大阪城は肉眼では見えないらしい。行けない代わりにその姿を目に焼き付けたかったのだが仕方ない。

 通天閣を出てお腹がすいた私。お昼はこれまた以前から食べてみたかった串カツに挑戦だ。数多くある店の中から、目星をつけておいた1件に立ち寄る。カウンターに通され、茄子やアスパラ等の2、3種類の串カツを頼んだ。座席にはそれぞれ缶入りのソースが常備されている。折角なのでサワーも頼み、昼間からすっかりいい塩梅である。お通しに運ばれてきたキャベツをつまみながら待つこと数分。串カツが運ばれてきた。二度付けにならないよう細心の注意を払いながらソースの海に串カツを浸す。口に運べばじゅわっ、あふぅという感じで頬もほころぶ。美味しい。衣が薄づきであっさりしているのでいくらでも食べられそうだ。(本当にいくらでも食べられそうなので途中で強制的にきりあげたくらいである)

 新世界を堪能した私は、ここで次にどこに行こうかと途方にくれた。何しろ大阪には偶然たどり着いた身である。何を見ようかと数分考えたのちひらめいた。安藤百福発明記念館に行こうと。私は小学生の頃に伝記を読んで以来百福さんのファンだった。「カップヌードル万歳!ありがとう百福さん!」とばかりに池田市を目指す。記念館は住宅地の中にひっそりと佇んでいた。私はラーメンの歴史をたどりながら百福さんの遺品などを熱心に見てまわった。百福さんが日夜ラーメンの研究に勤しんだとされるほったて小屋もきちんと再現されており、心を鷲掴みにされてしまった。ミスチルの歌をバックに、彼の歴史がテレビ画面に流れるのをみたら感極まって泣いてしまったぐらいである。後ろのカップルが不審そうに私を見る。「君たちとはファンとしての年季が違うんだ」と私は満足のままに大阪観光を終え、帰りの途についた。

 その後の私はNさんという最高の理解者を得て、何の因果か九州で療養生活をおくっている。苦しい思い出しかない地元を離れられたことはもちろん幸いであったが、Nさんとの出会いが私には何ものにも代えがたい宝である。ビリケンさんのご加護といえるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?