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【短編小説】凛とした秋の空

「秋が好き‥‥」

後ろの席で机に突っ伏して寝ている秋に向かって、聞こえるか聞こえないか位の小さな声で空がささやいた。

「2人とも、まだいたの?」空が驚いてドアの方を見ると、隣のクラスの凛がのぞいていた。
「あ、うん、秋が寝ちゃって‥秋、凛が来たよ」そう言って肩を揺すると、秋は体を起こし眠そうにあくびをした。
「もう部活始まってるよ」凛がそういうと秋は伸びをしながら立ち上がった。
「今日は外走るから、空はこなくていいよ。じゃあ行くわ」
「また空にタイム測るの手伝ってもらってるの?空はあんた専属のマネージャーじゃないんだから」凛の声を無視して秋は手を振りながら教室を出て行った。
「空、マックでも行こっか」凛は残念そうに秋の背中を見送る空の肩をポンッと叩いた。

駅前のマックはいつもはそこそこ混んでいるが、雨が降りそうな空のせいか珍しく空いていた。

「私ポテトとゼロコーラね、先に席見てくるから頼んどいて。お金後で渡す」そう言うと凛は2階へ登って行った。

2階に登ると、店内をゆっくり歩きながら同じ学校の子がいないか確認した。いないことがわかると、外の見えるカウンター席の端っこに座った。

「ここなら大丈夫かな」

すいていたせいか、すぐに空がトレーを持って登ってきた。こっちこっちと手を振る凛の方へ歩きながら、こっちの席にしようよと真ん中の席を指差した。

「だめ、大事な話すんだから。座って」

空が渋々隣に座ると凛が顔を寄せてひそひそ声で話かけてきた。

「そーらー、さっき秋になんか言ってったでしょー」
「エッ!聞こえたの?」頬に手をあてニヤニヤする空の肩を凛が体でこづいた。
「聞こえないけど、なんとなくわかるよー空が秋のこと好きなの知ってるし。なんて言ったのよー」
「言わなーい。秋には絶対言わないでよ。僕が好きだなんて知ったら気持ち悪がられるから」

そうかなあ、そう思いながらも言う訳ないよと約束して、他の話題に移って行った。一通り話しそろそろ帰ろうと立ち上がると凛がポツリと言った。

「あーあー他の女子といるより空といる方がよっぽど楽しいわ」
「女子だって、いい子いるでしょ?」
「んー、いるんだろうけどね」

勉強もスポーツもそこそこでき、はっきり物を言う凛は小学生の時ある女の子に嫉妬され目をつけられていた。他の女の子たちも面倒に巻き込まれたくなくて、凛にはあまり近づかなかった。それ以来なんとなく女子と接する時は、本音を出さず構えるようになってしまった。

「女子はなんか苦手。キャーキャーベチョベチョしてて」

**

次の日、空が教室に入るとみんなの視線が自分に向いたような気がした。なんだろうと思いながら自分の席にカバンをかけ、後ろの席の秋に「おはよう」と声をかけたが、秋は「おー」と言ったきり横を向いてしまった。

変なのと思っていると、横の席の女子が話しかけてきた。

「空くーん聞いたよー2組の凛ちゃんと付き合ってるんだってー?」
「は?何それ」聞き返すと、今度は前の席の女子が振り向いた。
「2組の大野が昨日マックで2人を見たんだってー。ピーッタリとくっついてラブラブだったってー」
「違うよ!」立ち上がって秋の方をみた。
秋は何も言わず席を立ち、教室を出て行ってしまった。

なんとかしなきゃ。空は「大事な話があるから放課後土手に来て欲しい」と、慌てて3人のグループLINEにメッセージを送った。

凛からはすぐに了解との返事がきたが(それもいつもより堅苦しいのだけど)秋からは返信がなかった。ただ既読がついた事は、ほんの少しだけ空をホッとさせた。

放課後、先にきたのは凛だった。

「秋、来るかな。あの後、教室に来たの?」
「うん、でも一言も話してない」

少したって秋が来た。「なんだ、もう2人でいたんだ。そういえば仲良かったもんな、付き合ってるならそう言えよ。だけど内緒にされてたのがさ、腹立つっつーか。まあ、いいけどさ」

「付き合ってないよ!」凛の声に、秋は我慢していた感情を抑えきれなくなり叫んだ。

「なんだよ凛、俺には返事もなかったくせに。だから空には知られたくなかったのか。いつから付き合ってたんだよ、オレだけバカみたいじゃないか!」

「どう言うこと?」涙ぐみ返事をできないでいる凛をかばい空が尋ねた。
「凛に好きって言ったんだよ!そしたら空にだけは言うなってそればっかり!あーあ俺達隠し事ばっかりだったんだな!」

帰ろうとする秋の背中に向けて空が叫んだ。

「違うんだ!僕が好きなのは秋なんだよ!」

**


凛を真ん中に、3人は並んで土手の草の上に寝っ転がっていた。

「綺麗な空だなあ、あ、本当の空の方」秋がいうと2人がクスッと笑った。
「もう訳わかんないよ。オレの頭じゃ」

「ごめんね秋、もう近づかないから。今までありがとう」
「なんだよそれ、別れの挨拶みたいじゃないかよ」
「だって、僕のこと気持ち悪いでしょ。前にテレビに出てた人のこと、気持ち悪いって言ってたし」

少し考え秋が口を開いた。
「ごめん、オレ適当に言った。多分オレは、クネクネベタベタ媚を売るような奴が気持ち悪かったんだ。でもそれは女だとしても気持ち悪いんだと思う。空は友達だし、好きだし、いい奴だし。気持ち悪いとか思わないよ」

「ありがと」空が上向いたまま呟いた。

「私も、女子は苦手って適当に言ってた。女でも男でも、悪口言ったり人を引っ張り落とそうとするような汚いやつが嫌いなんだと思う。秋の言葉、なんか響いたよ、秋から教わるなんてちょっとしゃくだけど。ごめんね空、隠し事なんかして、空とずっと友達でいたくて」そう言って空の方に顔を向けた。

「うんありがと」空も凛をみて微笑んだ。

「空は、空だよ。空が誰を好きでも、空がいいやつってのは変わんないよ。まあそれがオレっていうのはあれだけど‥ごめん空を恋愛対象とは思えないんだ。それは、ごめん」

「うん、わかってる、秋は凛が好きだもんね。大丈夫、凛も秋のこと好きだよ」

「はあー!」「えー!」2人同時に飛び起きた。

「ちょっと空、何ぶっ込んでんのよ!!」

「あれー違うの?僕は凛の親友なんだから。そのくらいわかるよ。こっちこそごめんね気使わせちゃって」

急に恥ずかしくなってモゴモゴ言いながら2人はもう一度寝っ転がった。


「綺麗な空だね」空が言った。
「秋の空だよ」秋が言った。
「凛とした秋の空でしょ」凛が言った。

しばらく3人で空を眺めていたが、空が最初に起き上がった。
「僕先に帰るね、じゃあまた」そう言って土手を登り始めた。

「ちょ」止めようとした秋の手を凛が掴んだ。
「1人になりたいのかも」そう言って、そのまま2人で空を見送った。


空の姿が見えなくなり、秋がひとりごとのように言った。
「空、大丈夫かな。親友と好きな人が被ってたって事だもんなあ」
「ん‥」
「おーーうんって言ったーじゃあやっぱり俺の事好きだったんだーじゃあ付き合う?」
「言ってないし!それに空のこと思ったらまだそんなことできないよ」
「おーーまだって言ったーじゃあもうちょっとしたら付き合えるなー」
「もーーー!」凛はそう言って空が歩いて行った方を見つめた。

「だけど、空はきっと大丈夫。私たちも、大丈夫」

空は考える訳でもなく、ただ湧いてくる思いを聞きながらひとりでぼーっと歩いていた。

僕は失恋したんだなあ。やっぱり辛いな。でも僕のことは友達って言ってくれた。友達でいられるかな。僕が女の子だったとしても、こんなふうに失恋したのかな。じゃあただの失恋だ。でも、失恋は辛いな。

ふうーっとため息をついて空はオレンジ色になり始めた空を見上げた。

僕の居場所は見つかるんだろうか、そんな考えが湧いた瞬間、急に孤独感が襲ってきた。空は立ち止まり、その孤独感をはらうように、犬のようにブルブルっと頭を振ってもう一度空を見上げた。

空は広いなぁ、空はどこまでも続いているんだな。

きっと、僕の居場所にも‥

あふれる涙をふき、空はまた歩きだした。



あちゃー〆切21:00でした、やってしまった!

本日中と勘違いして過ぎてしまいました、残念!

せっかく書いていたので、本日の記事として投稿させてもらいます。

一応こっそり#もつけさせていただいて…

失礼しました。

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