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魂を癒すハイヤーセルフとの旅(10) ~カルマを断った伊右衛門の生涯~

セラピスト:由美さん

由美さんは、海外で長く生活していた点など、私と共通点があり、共感する部分が多かった。お互いに普段言えない率直な意見を言い合い、異邦人感覚の、あるある話を束の間楽しんだ。
しかし、いざセラピーに入ると、由美さんは滑るような口調で、またたく間に私をトランス状態に入れた。自分でも呆れるほど簡単に催眠に入った。

(由美):あなたは今どこにいて、何をしていますか?
(りんた):通りをゆっくりと歩いています。何か思案してるような感じ。あれ、みんな着物を着ている。江戸時代の町中という感じだ。活気がある。

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ほどなく、登場した前世は、安田伊右衛門という武家の長男であることがわかった。安田家の男子は伊右衛門のみで、伊右衛門は、旗本・安田家の“あととり”という宿命を持っていた。しかし伊右衛門は、戦のない平和な時代の武士であることに、ただただ窮屈で息苦しさだけを感じてしまう人間だった。
そんなことから、憂鬱そうに町中を歩いていたようである。

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そんな伊右衛門の性格を、両親は小さい時から見抜いていたようだが、御家存続が第一、自由意志など許されない武家社会で、ただ粛々と作法や教養を詰め込むのであった。伊右衛門も、自ら好まぬ状況とわかりつつも、それに抗う術を知らず、いつしか、家督を相続し、安田家の主となっていた。

やがて安田家に嫡男が生まれた。しかしその後は子宝に恵まれず、伊右衛門は嫡男の太郎丸を大そう可愛がり、あととりにすると意識し始めていた。

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(由美):伊右衛門さん。今どんな気分?
(伊右衛門):うむ。人生とはこんなものなのかのう。あれだけ嫌だった武士としての人生を、今度は我が子に押し付けようとしている。たぶん、亡き父上も同じことを感じておられたに違いない。どうやらこれが代々繰り返された、武士の、あるいは安田家の宿命なのかもしれない。まぁ、悪い生活ではないのだが・・。

太郎丸が元服して名を晴介(はれすけ)と改め、伊右衛門が隠居を考え始めた矢先、ある大事件が訪れた。しかしそれは、伊右衛門にとっては、内心「ついに来たか」と、覚悟していた様子にも見えた。その大事件とは・・。

(晴介):父上。私は武士として生涯を終えたくありません。今は平和な世です。私はこの世で色々なことを試してみたいのです。それには安田家のあととりという立場は重すぎます。どうか私を解き放って下さいませ。
(伊右衛門):そ、そなたは何を言っているかわかっているのか!小さくとも旗本である安田家のあととりが何ということを言うのだ!

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そう言いつつも伊右衛門は、若き日に自分が言えなかった言葉を、今、我が子がはっきりと口にした、その勇気に、驚きではなく、まぎれもない感動を覚えていた。

しかし・・。長い沈黙が続いた。やがて伊右衛門は意を決して語った。

(伊右衛門):わかった。自由にせよ。その代わり、そなたを勘当する。 二度と敷居を跨ぐでない。

伊右衛門は平静を装い座敷を立ち去った。かろうじて襖をしめたところで、「これが正しい」、「私は全てを終わらせた」と、静かに感涙に噎せた。

晴介は、思いが成就した嬉しさと同じほどの悲しみをこらえきれず、涙をこぼした。そして「もう戻れない」と覚悟し、ほどなく屋敷を後にした。

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それから数年が経過した。
伊右衛門は臨終の床にあった。周囲には妻をはじめ、親戚など大勢いる。
伊右衛門は、薄目を開け、晴介を探した。が、いないことはわかっていた。
伊右衛門は、小さく息を吐き、「親の臨終くらい顔を出せばいいものを・・」と思った。そして、「このようなことなら、柱に縛り付けても、 晴介を家においておけば良かったのかのう・・」と心で笑い、晴介に思いを馳せながら息をひきとった。

(由美):伊右衛門さん・・。スゴいね。もう行きますか?
(伊右衛門):ああ。行くとしよう。

伊右衛門の魂は肉体を離れた。やがてその魂は中間世へとたどり着いた。
私はそこで、伊右衛門と私のハイヤーセルフ(高次の自分)からのメッセージを聞いた。いつものごとく、それは冷厳なものであった。

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後悔の残る人生はカルマを生み、カルマによってその後悔は繰り返される。
人間はカルマという鎖でつながれている。だが、伊右衛門は、その鎖を断ち切った。伊右衛門は我が子に自由を与え、代々続いて来たであろう後悔の 連鎖を終わらせたのだ。

「自由」とは何かを考えてみなさい。それは、やりたい気持ちを押し殺す ことによって、安定を望む、または安定を保証してやることではない。  自分の意志に忠実に向き合い、その為には危険や痛みもいとわないことだ。  それでカルマは消える。

晴介がどうなったかは分からない。
(つづく)

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