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【ショートショート】平均への回帰

 今は昔。日本ではないどこかの国は、隣国からの侵略を受けていた。仮に隣国をA国としよう。もうかれこれ20年以上は戦い続けている。国は疲弊し、このまま戦争状態が続けば、いつか国が破たんしてしまう。

 ある日、隣のA国では王が処刑され、平民出身の者が新たにA国の王になった。王は、A国の情勢は不安定になったものと考え、一つの決断をした。最強の軍隊を作り、これを機に、A国に反撃を試みることにしたのだ。A国を倒すことは、勇猛果敢であった父である先王の弔いでもあり、悲願でもあった。王は、さっそく二人の側近に部隊を組織するように命じた。

 一人目の側近の名は、フォースといい、将軍の地位にあった。フォースは、一般的な家庭の生まれで、戦場において手柄を立て、一代で将軍の地位にまで駆け上った猛者である。
 フォースは、彼が最強だと考える部隊を作った。その中には、フォースの血族や、優秀な部隊長の血族が多く含まれていた。

 そしてもう一人目の側近の名は、ブラッドといい、宰相の地位にあった。ブラッドは、はるか昔に大賢者と崇められた偉人を祖先に持っており、親もその親も宰相の地位にまで上りつめていた。実のところ、ブラッドはそれほど優秀な人物ではなかったが、そのことを自分で認識していた。自分は、能力があって宰相に就いたのではなく、大賢者の名声と人脈によって就いたのだと。
 そこで、ブラッドは部隊を組織するために試験を行った。体力であったり、知力であったり、様々なものを調べ、試験の結果優秀だった人材を登用した。その中には、銘家の出身者はなく、一般的な家庭で育った者が多かった。

 二人の側近は、兵を鍛錬し、A国との戦いに備えていた。王は、部隊を視察し、その実力を試してみたいと思った。そして、二つの部隊に対して模擬戦を行うように命じた。
 フォースは自らが将軍として部隊の指揮にあたった。そして、ブラッドは登用した人物の中から将軍を選んだ。

 模擬戦の結果、ブラッドの組織した部隊の圧勝であった。王は、二人の側近から人選の方法を聞き取ると、急いで手紙を書き、A国に使者を出した。手紙には、こう書いてあった。

 我が国は、A国の新王に対し、できる限りの支援を行う。これまでの戦いはA国先王との戦いである。もし我が国の国民の権利と財産が守られるならば、我が国はA国に下る用意がある。

 その後、A国は急激に勢力を伸ばし、この国を支配下においた。王は一般人となったが、この国の国民は誰一人命を落とすことはなかった。

解説

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