『夜明けのすべて』終わらない夜と治らない病の夜明けとは?
パニック障害の映画など観たことなく、自分以外で私の不安障害と似た病で苦しむ人を見るのは、辛くもどこか奇妙な体験だった。薬を手元からなくしたときのパニックは私ととても似ていてびっくりした。ただこの映画が気鋭の三宅唱の映画であることは、それと同等の大きさを、私に提示していた。
三宅唱が16ミリフィルムに残した、打ちつける雨、街を走る電車、風に揺れる森などの背景の力はやはり素晴らしく、物や機械や自然を、映画の一部として大きな存在感で魅せている。
また、走り過ぎる自転車や並び歩く男女、部屋で過ごす同僚などを映すカメラワークが、使用されるモノローグとは全く違う形で、私たちに雄弁に語りかけてくる。
物語の展開も切なく、やるせなく、ときに感動的で、ばっちりなんだが、どこか憂鬱を抱えながら観ていた。「夜明け」というモチーフがとても美しい形で、現れるまでは。ラストで全ての苦しみが報われるようで、私は嗚咽した。
もう25年間精神疾患を抱えており、治らなくてもいいとまで、思ってしまっている。こんな最高の映画があるなら、私は何度だって立ち上がれる。素敵じゃないか、青く黒い夜でも生き抜いていこう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?