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『フィラデルフィア』偏見と差別を溶かす友情

 ジョナサン・デミの作品と身構えて観るも、『羊たちの沈黙』の鬼気迫る演出に比べると、かなりオーセンティックだ。最初は少し萎えた。だがそれは、本に合わせてのことなのだろう。今作では、俳優の表現をキャプチャーすることに、監督として奏功している。トム・ハンクスとデンゼルの表情の豊かさと魅力は、心に数多の響きをもたらした。デミはその瞬間を捕まえ、ときに引き延ばすことに成功している。
 主演の2人は私の世代に活躍する名優だが、その中でも本作の演技は目を見張るものが。辛さときらめきという相反する感情でmoveされる。同性愛、エイズへの偏見や差別が溶けてゆくのを見るのは、私の中のそれらへの違和感を見つめているようで、目が離せず、最後に全てが昇華されるようだった。あまりにも有名なスプリングスティーンの名曲、ここで初めて知ったニール・ヤングの美麗な一曲は、その感情に寄り添ってくれた。エンドロールが終わっても、この映画を今日生きたんだと思えた素敵な一日だった。

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