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あのときの一言(6)「僕も考えるの好きなんだよね」

この連載では、大学院生活や社会人として過ごす中で出会って印象的だった言葉について振り返っています。当時の気持ちを思い出しながら、その言葉が自分にとって重要だった理由や、今の自分にどう影響しているのかについて改めて考えてみています。読んでくださった方が何か気づいたり考えたりするきっかけになったら幸いです。


今回紹介する一言

これまでの回は全て大学院生の頃のエピソードを紹介してきましたが、今回は学位取得後、社会人になってからの話になります。入社して間もない頃、職場の先輩からかけていただいた「僕も考えるの好きなんだよね」という言葉について紹介させていただきます。これから春に向けて環境や所属するコミュニティが変わる方も多いと思いますが、新しい環境で何か一つ行動を起こす後押しができたらいいなと思って書いてみることにしました。


あの時

これは僕が社会人になりたての頃、所属先の研究室にて自己紹介をする場があったときの話です。出身地や趣味、学生の頃の研究内容などについて、事前に渡されたフォーマットに従って、一人あたり5分程度で発表を行う場でした。

それなりの人数を前にしての発表で、もちろん緊張していたのですが、せっかくの場なので誰か一人にでも自分のことを覚えてもらえるような時間にしたいと思っていました。とはいえ相手は初めて出会う人達ばかりでしたし、あまりにも風変わりな自己紹介をするのも気が引けていました。考えに考えた結果、趣味について話すタイミングで「それと、考え事も趣味です」と最後に付け足してみることにしました。

一般的に自己紹介中に趣味として取り上げるような読書や音楽などに留まっているだけではどこか当たり障りのない印象になってしまうかなと思い「では何を伝えれば自分のことを知ってもらえるだろう」と悩んだ末に思い至ったものでした。「もしかしたら少し浮いてしまうかもしれない」という懸念もある中で、その時の自分なりの精一杯の自己開示だったと思います。

聴衆の反応はあまりよくはなかった感じがありましたが、その会が終わった直後、一人の先輩が僕の元へ来てくださり「僕も考えるの好きなんだよね」と話しかけてくれました。

その時「わかってくれる人がいた!」とすごく安心したのを覚えています。「すこし勇気を出してみてよかった」とも思いました。


今の解釈

その先輩は上記のように話しかけてくれた後、「考え事といえば、最近こんな本を読んで…」とそのまま書籍を紹介してくれたのも覚えています。その後もよく食事に誘ってくれたり、社外のテック系のイベントに連れて行ってくれたりもしました。

このように、先輩は事あるごとに僕と話す機会を作ってくれて、その中で仕事についても色々な考え方を教えてくれました。そうこうしているうちに一緒に新しく研究テーマを立ち上げることとなり、気づけばいつも一緒に仕事をするような関係になっています。

たまに当時の出来事を振り返ってみては「たぶんこの先輩に出会ってなければ僕は今の職場を早々に辞めてたんじゃないかな」という結論に至ります。そう感じずにはいられないほど刺激的な日々を一緒に過ごさせてもらっていますし、仕事の楽しみ方のほとんどを教えてくれました。あの自己紹介の場で勇気を出して自分のことを少しさらけだそうとしてみてよかった、そしてそれを見てくれている先輩がいてよかった、といつも思います。

もちろんあの場で「変なことを言ってるやつがいる」「ちょっと尖ってる」といった風に捉えた方もいたのかもしれませんが、そういったことをリスクとしても、差し引きして得られたリターンは大いにあったと感じています。どのみち全員に対して100点の自己紹介などありえないので、自分に興味を持ってくれる一人を見つけるためのメッセージを投げかけてみるという選択をしたことはすごく良かったです。

友人や後輩などから社会人生活を振り返って「やってよかったこと」を訊かれるたびにこのエピソードを参照するほど、僕の中では大成功の試みでした。「『この人だ』と思える人に一人出会えると環境は変わるよ。そういう人を見つけるためには、ちょっと変な自己紹介をしてみるといいかもしれないよ」といつも言っています。

こうして記事を書きながら改めて振り返って考えてみて「考え事が好き」という、内面的な部分に「共感した」と意思表示して話しかけてもらえたのが重要で、すごくありがたかったなと気がつきました。もし「僕も同じスポーツやってたよ」とか「君がやってた研究、前から注目してて…」といった、僕自身の外に出たものに対する共通認識を引き合いに話しかけられていたとしたら、あの時感じたような安心感は得られなかったと想像します。僕にとってはこういう風に声をかけてくれる人が出てくることは意図していなかったので、あのとき一言先輩が声をかけてくれたことは奇跡だったなとも思います。同時に、こういう関係の始まる場をもっと多く創出するにはどうすればいいのかとも考えています。

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