映画ウマ娘でタキオンに脳を焼かれた話

はじめに

ウマ娘の映画、もう見たでしょうか?
まだ見ていないという人は今すぐこの記事を閉じて映画館にダッシュしよう。間違いなく最高の体験ができるぞ!!

唐突だが、自分はウマ娘についてはあまり詳しくない方だと思っている。
アニメは1期2期はボロ泣きしながら見たが、3期は「今までに比べると……」という周りの評価に怯えて未だにイッキ見することができずにいるし、シングレはまだ5巻までしか読めてない。
ゲームに至っては始まってから3ヶ月ぐらいはうまぴょい!うまぴょい!してたが、その後周回の大変さに完全引退する始末だ。
ちなみに愛バはライスとマックイーンだ。
対戦よろしくお願いします(何のだ)

そんな冗談はさておき、今回の映画は発表された当時から楽しみにしていたのだが、私の中には一抹の不安があった。


「こんなに半端にしかウマ娘に触れてないにわかトレーナーが楽しめるのだろうか?」


これは、自分と同じような人なら誰もが思ったことだろう。意気揚々と映画館に行ったが楽しめないというのはとても悲しいことだし……。
正直に言うと、劇場版に出るメインの4人を見た時、私はこう思った。

「タキオン以外あまりわからねえ……」

マジでにわかである。
タキオンはゲーム最初期からいたし、2次創作でも引っ張りだこだったのでわかる。
カフェはタキオンと仲がよく、霊能体質なのが珍しいからまだ分かる。

ジャングルポケット?ダンツフレーム?えっ、知らん……というのが正直な初見の感想である。二人のファンの方にはすまない。

そんな私でも…………。

めっちゃ楽しめた!!!


本当に面白かった!!
ポッケを中心にした王道の熱い展開!
フジ先輩やトレーナーとの約束!
ライバルの幻影に悩まされる葛藤の日々!!
それを乗り越え、ポッケが最強になる姿は涙なしには見られなかった!!!マジで120分足らずでポッケのファンになっちまったよ!!!


だが、今回私はポッケと同様に脳を焼かれた存在がある。それが、アグネスタキオンだ。


アグネスタキオンというウマ娘

フジキセキに憧れてトゥインクルシリーズで最強になることを夢見るポッケは、デビューから快勝を重ねてきた。それこそ調子に乗る程だ。「俺よりつえー奴でも全員ぶち抜いてやるぜ!」ぐらいの意気込みだっただろう。フジ先輩やトレーナーのアドバイスも程々に聞き流し、最初のG1レースに挑むことになる。ここで出会ったのが、タキオンだ。そして、ポッケは彼女の走りに驚愕することになる。

序盤の展開では、タキオンはまさに理想のライバルムーブをかましてくる。
熱血主人公の前にいきなり現れるウマ娘の極致を目指すインテリデータキャラ。それだけでもうお腹いっぱいです!!こういうのほしかったんだよなあ!!!ごっつぁんです!!!

と、初邂逅から私を喜ばせてくるタキオンだが、彼女にはもう一つ特徴的な側面がある。

彼女自身は足が他のウマ娘に比べて弱い……ガラスの靴のようなものである、ということだ。
これについては容易に想像ができる。
何度も描写される足のレントゲン写真を見つめるタキオン。レース直後には足を震わせながら立つその姿からは、限界が近いことは想像に容易い。

ウマ娘の限界のその先を見たい、というデータの先を求めるとてつもない探究心の裏側に、自分はそこにはたどり着けないのではないか?という不安を抱え込んだキャラ性は、タキオンの行動にどこか厭世的な雰囲気を漂わせ、そこがまた大きな魅力となっている。

初見時には脳を破壊されていたのでここまで考えてはいなかったが、「怪我が原因で志半ばで引退し、ポッケに夢を託すんだろうか?」とか考えていた。だが、マッドなサイエンティストの側面もあるタキオンはそんな生ぬるいムーブはかまさないのである。

ポッケとタキオンの2度目のレース。
そこで、タキオンは大きな勝負に出る。

今の自分にできる最善を尽くし、「タキオン以上のウマ娘は出ないだろう」と思わせる程の走りで他のウマ娘を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。

その走りは、まさに全員の心に刻まれるものとなった。共に走ったウマ娘たちはその走りに畏怖し、やがて「タキオン以上の走りをする」という絶対的目標を植え付けた。最強になると意気込むポッケにも「勝てねえ」と思わせる程の、初めての敗北感を刻みつけた。

だが、この走りにはもう一つの意味があるのではないだろうか。


「自分はこれ以上の記録を負傷なしで出せるのか?」


これを実験しているかのように、私の目には映ったのだ。

持たざる者の葛藤


ウマ娘というのは限界を越える生き物だ。
1期でのスペちゃんやスズカさん。
2期最終話のテイオー。
彼女たちは、己の限界を越えて走ることで勝利を刻みつけてきた。圧倒的強者がひしめくトゥインクルシリーズでは、己の限界を越える走りというのは勝利の必須条件なのだろうとすら感じる。

タキオンも、己の描くウマ娘の極致には限界を越える走りが必要だとわかっていたのだろう。
だから、普段は足を気にしてセーブしている走りを全力にし、走りきった。


学んでしまったのだ。

走り終えた後震えが止まらない足に、
懸念が確信へと変わってしまったのだ。


ウマ娘の限界のその先を見るのはアグネスタキオンではないこと。
タキオン自身ではウマ娘の極致を見ることはできないこと。

自分が幾度見てきた、推測してきた、あの蹄鉄。限界を越える者の蹄鉄で描かれる栄光への道は、自分のためにあるものではないということ。


そのことに、気づいてしまった。

あの走りは、ポッケにとってのターニングポイントのように描かれているが、実はタキオンにとっての壮絶な分岐点だったように見えてならない。


そして、タキオンのその走りは奇しくもウマ娘の現時点での限界ーー新時代への堅く閉ざされた扉のように作中では描かれていくのである。


自身の限界に気づいてしまったタキオンは、無期限活動休止に。そして、研究室に篭もる日々を送ることになる。
以前は未来を夢見るかのように、キラキラ輝いて見えた研究室は、その日から淀んだ空気が見えるようになってしまうのだ。
まるで彼女の中にある未練を表すかのように。


ポッケにとってはタキオンの走りは圧倒的すぎるものにみえていただろう。
「タキオンにはあれだけの走りができる才能があるのに」「まだ勝負はついていないのに」という内容のポッケの叫びからも見て取れる。
ポッケはタキオンのことを才能ある者と思っていただろう。

でも、タキオンにとっては違うのだ。

タキオンは限界を越える走りができない。
ウマ娘の可能性のその先を見ることはできない。
その時点で、ウマ娘としては「持たざる者」なのだ。

夕闇の研究室で道を違える場面は、見ていて辛かった。自分もポッケと同じような感情になったよ。「勝ち逃げなんて許さねえぞ!!」って。思った後にポッケが言ってくれてよかった。
よかったのだが……タキオンも勝ち逃げしたくてしている訳ではないんだよな。研究者として論理的に考えた結果、「走っても意味がない」と答えが出てしまっただけだもんな……。自分が求めた理想にたどり着けないというのは研究者として、ウマ娘としてどれだけ辛いことか。


新時代の扉

その日から、タキオンは研究に没頭するようになった。言動自体はそれに納得しているようだったが、描写からはそうではないということが分かる。

レースの動画を見て足をパタパタさせたり、ポッケからのレースの誘いのシーンで今まで淀んでいた研究室が少し明るく描かれたりと、タキオン自身も走りたいという衝動があるように感じられる。
だが、彼女は気づかない。気付こうとしない。
走りたい衝動を覆い隠し、だがその足はレース会場へと向かうのだ。

そしてその日を迎える。

ポッケがオペラオーに勝ち、新時代の扉をこじ開ける日。

ここに関しては、それまでの描写も素晴らしかった。ポッケがフジ先輩に支えられながら立ち上がる姿が丁寧に描かれているのがとてもいい。フジ先輩は、ポッケのダービー一着という約束によって走る勇気をもらったというのもまた大きい。
この先輩後輩のどちらが欠けても成り立たない感じがすごく好きなんだよね……。

そうして、走る目的と輝きを取り戻したポッケ。
客席から見ているタキオンに対して呟くのが「先に行くぜ」なのもエモい。タキオンが絶対に後から来ると信じているからこそ出てくる言葉なのが最高に熱い。
最初はタキオンの考えがわからず、タキオンの休止発表時も独りよがりに無茶な練習をしていたポッケが、タキオンのことを理解し、この言葉を伝えられたというのも感動物だ。

この輝きに堪らず走り出すタキオンがまたいいんだよな……!
ポッケの圧倒的な光に内に秘めていた「自分も走りたい」という気持ちが抑えきれなくなってしまい、走り出す。
足のことなど気にせず。
輝くような瞳で。

いやもう泣きますって。

自分のことを諦めてた子が、ライバルによって元気を取り戻すんですよ。我こういうの好き。

しかも、タキオンはポッケの結果を見ることなく走っている。
走り出す瞬間には、ポッケが自分の想像する高みに到達したことがわかっていたということだ。
ポッケの努力を見てきたからこそ、論理的にも感情的にも完全に信じられるの、いいよね……。




今回の映画は本当に面白かった。
あまり知らなかったポッケとフジキセキが好きになったし、タキオンがさらに好きになった。
リピートしたいと思えるレベルには好きな部類だと思う。1回じゃ気付けなかったところとかしっかり見ときたいしね。

……えっ?特典も第二弾が発表されただって!!?
(のんびりしすぎててこれ書いてる途中で発表された)

これは行くしかない……!
乗ってやる、このビッグウェーブに!!

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