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18世紀の首里那覇の測量技術

6月2日に開催したメンバーズ・コミュニティ「天空のマップ・カフェ」は、主宰の太田弘先生(日本地図学会常任委員)に加えて、特別ゲストとして安里進先生(沖縄県立芸術大学名誉教授)と鈴木純子先生(日本地図学会名誉会員)をお招きしての拡大バージョンでした。
テーマは「古地図で読み解く首里と那覇」です。

重要文化財「琉球国之図」と「間切図」から見えてくること

2016年に文化庁は、琉球王国の測量術と地図製作という科学技術の高さ・独自性を評価して、首里王府が18世紀末に製作した「琉球国之図」「間切図」を重要文化財に指定しました。
それまで琉球の歴史・文化は、古代的・歌と踊り・御嶽信仰・ユタ・ノロというイメージが強かったのですが、「科学技術」という新たな琉球王国の姿が浮かび上がりました。

※当時の琉球新報の記事です。

安里先生はスクリーン上で、薩摩藩が作成した元禄国絵図(国立公文書館蔵)と琉球国之図を、現代地図の沖縄輪郭に重ねてみると(下記画像)、琉球国之図は元禄国絵図よりも現代地図との誤差が小さく正確に測量されていたことが分かり、琉球王国の技術の高さがよく分かると指摘しています。
その正確な琉球国之図は、沖縄諸島を27に分割した「間切図」が下絵となって作られています。

元禄国絵図(スクリーン左)と琉球国之図(スクリーン中央)に
現代地図の沖縄輪郭(スクリーン右)を重ね合わせて、
琉球国之図の精度の高さを説明する安里先生(右端)

伊能忠敬よりも早くに作られていた琉球の地図

伊能忠敬は1800年に全国の測量を開始し、1821年に日本図を完成しています。一方で間切図や琉球国之図は1796年には完成しており、伊能忠敬の日本図より25年も早くに出来上がっていました。

早いだけではなく測量技術も最先端だったそうです。
「伊能忠敬はオランダ流の高い山を目印に測量する交会法を用いていたが、琉球の測量は当時世界最先端のフランス流の近代測量の三角点網による三角測量と同じ原理で測量していた」と、安里先生は解説してくれました。

その時代、日本は「鎖国」をしていましたが、なぜ琉球はフランス流の測量法を導入できたのでしょうか?
それについて、「中国がフランス流の測量法を用いたことから、中国経由で導入した」と、安里先生は説明してくれました。
当時琉球は中国の年号を正式に使用しており、中国の政治的配下にあるという認識が強かったと付け加えてくれました。

琉球の複雑な変遷・歴史

そもそも琉球列島には、本土が縄文時代だった頃、沖縄を中心とする貝塚文化と、宮古・八重山を中心とした先島先史文化の全く違う2つの文化があり、両者の交流は無かったと言われています。平安時代に日本、朝鮮、中国の影響を受けます。江戸時代には中国に朝貢しつつも一方では薩摩藩の武力支配を受けていました。明治時代になると、日本が琉球王国を併合しましたが、戦後は米国支配下の琉球政府という曖昧な位置づけとなり、1972年に日本へ返還されました。お話の冒頭で安里先生は、このような複雑な変遷・歴史の中で琉球の人々は、「自分たちの主体性・独立性をどのように保つか」という問題意識を抱えていると説明してくれました。
現在は沖縄県という日本の領土の一部ですが、今後もこのままなのかは疑問だと安里先生は述べられました。常に「どのように主体性を発揮するか」が求められていると。

戦争等で失われた地図を求めて!

日本地図学会名誉会員の鈴木純子先生からは、「戦争等で失われた地図を将来のために資料として探し求めて残す活動も重要」というお話がありました。
鈴木先生は日本地図学会の「地図資料・地図アーカイブ専門部会」の主査を務められた経緯があります。
その中で、2017年に沖縄博物館・美術館で「琉球・沖縄の地図展~時空を超えて沖縄がみえる~」が開催されたことは意義深いと紹介してくれました。


今回の「天空のマップカフェ」拡大バージョンは地図の専門家をお招きして、古地図を通じてそこに描かれているものだけではなく、その時代の社会背景にまで迫る内容でした。地図に記されている情報から様々なことが読み解けることに地図の奥深さを感じました。

安里先生の著書を紹介します。この記事では紹介しきれなかった興味深い首里・那覇を知ることができます。
安里先生は、2026年に復元される首里城の首里城復興基金事業監修会議委員を務められています。今回の“令和の復元”は、“平成の復元”よりも、王国時代の首里城の忠実な再現を目指すそうです。
それは、首里城に関して新たに資料が発見されたり、研究が進んだことにより可能になったそうです。
それを考えると、鈴木先生の「未来のために過去の資料を残すことの大切さ」を痛感します。


今回の定例会が「天空のマップ・カフェ」の最終回となります。
太田先生からは、「日本地図学会の行事として、日本橋の地図専門店ぶよお堂の地下のワークショップ会場で“地図塾”を定期的に開催しているので、地図ファンクラブと天空のマップ・カフェを合体させたい!」というコメントがありました。
天空から地下へ⁉

アカデミーヒルズ 熊田ふみ子

#アカデミーヒルズ #メンバーズ・コミュニティ #天空のマップカフェ  
#首里 #古地図 #伊能忠敬



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