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みんなのチカラを研究に!暮らしとつながる「シチズンサイエンス」

 「シチズンサイエンス」という活動をご存知でしょうか。「市民科学」と直訳できるとおり、市民が主体的に参画する研究活動を意味します。今回は、近年徐々に盛り上がりを見せているこの活動を紹介したいと思います。

 その目的について、まずはあえて硬いところから見てみましょう。3月に閣議決定された国の「第6期科学技術・イノベーション基本計画」には、次のとおり書かれています。

研究者単独では実現できない、多くのサンプルの収集や、科学実験の実施など多くの市⺠の参画(1万⼈規模、2022年度までの着⼿を想定)を⾒込むシチズンサイエンスの研究プロジェクトの⽴ち上げなど、産学官の関係者のボトムアップ型の取組として、多様な主体の参画を促す環境整備を、新たな科学技術・イノベーション政策形成プロセスとして実践する。
(出展:「科学技術・イノベーション基本計画(2021年3月26日閣議決定)」より抜粋)

 何だかとても壮大に感じますね…。とりあえず国がシチズンサイエンスに期待をしていることだけは、何となく伝わったのではないでしょうか。
 でも、自分が参画するイメージを持てなかった方も少なくないかもしれません。そこで、具体的な事例を見てみましょう。

■#関東雪結晶プロジェクト

 プロジェクトを主宰するのは荒木健太郎さん(気象庁気象研究所・研究官)。雲の研究の第一人者で、新海誠監督の映画『天気の子』では気象監修を務めました。Twitterにアップする美しい雲の写真も大人気で、フォロワー数はなんと23万人!荒木さんはこのフォロワーとのネットワークを活用して、シチズンサイエンスを展開しています。

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荒木さんが撮影した「樹枝六花」
(提供:荒木健太郎さん)


 その狙いは、降雪の予測精度を向上させること。実は関東地方に雪が降る際の気象条件などは、まだ十分に解明されていないそうなのです。そこで荒木さんが目を付けたのが「雪の結晶」でした。なぜなら、雪の結晶は気温や水蒸気量などの条件によって形が変わる性質を持っているからです。つまり、雪が降ったときの状況と、結晶の形状の関係を分析すれば、降雪時の傾向が見えてくる―そう仮説を立てたわけです。

 しかし、儚く形を失ってしまう雪の結晶を、同時に多くの地点で観察することは、研究者だけではとても手が回りません。そこでシチズンサイエンスの出番です。冒頭で紹介した国の計画に書かれていた「研究者単独では実現できない、多くのサンプルの収集」そのものですね。

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「#関東雪結晶プロジェクト」ホームページより
(提供:荒木健太郎さん)


 参加の仕方はとてもシンプルです。スマートフォンなどで撮影した雪の結晶の画像を、撮影した場所・日時とともにハッシュタグ「#関東雪結晶」を付けてツイートするだけ。これで研究データが得られて、投稿する人も気軽に楽しめる―とても理に適った方法だと思いませんか。
 プロジェクトのホームページでは、荒木さんによる撮影のコツやキレイなサンプル写真が紹介されていますので、ぜひチェックしてみてください。

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荒木さんによると、100円ショップで買える
拡大レンズを使うと良いそうです。


■シビックテックによる東京都「新型コロナウイルス感染症対策サイト」

 続いては、1人1人が持つスキルやモチベーションを生かした事例を紹介します。

 連日大きく報道される新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数。その推移を各都道府県の特設サイトなどで確認したことのある方も、少なくないのではないでしょうか。
 中でも常に動向が注視されている東京都。その特設サイトは、なんと1日半という驚くべきスピードで立ち上げられたものでした。そして、その立役者が「市民」だったのです。

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東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」


 このとき用いられたのが、「シビックテック」と呼ばれる手法。市民自らが、自身の持つ技術を活用して社会課題解決などに取り組む活動です。
 これを主導したのは、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下「CfJ」)。ITスキルを持つ市民の力を結集して、シビックテックを推進する団体です。

 東京都からサイト制作を受注したCfJは、インターネット上でエンジニアを募集。知人も含めてすぐに10人程度が集まったそうです。皆、普段の姿は社会人や学生などのいわゆる「市民」でした。彼らは実際に会うこともなく、ネット上のやり取りだけであっという間にサイト公開にこぎつけたのです。

 このサイトは、公開後も市民らの手によって機能拡張やバグの修正が繰り返されました。ITスキルを持たない人でも誤字脱字チェックなどの形で関わることができるため、参加者の数は数百人単位にまで増えたそうです。また、サイトの構造を公にする「オープンソース」形式でサイトを運用したことで、台湾のデジタル担当政務委員(大臣)として有名なオードリー・タンさんから、突然のリクエストが寄せられたことも話題になりました。

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タンさんからのリクエストは、言語選択メニューの
「繁体字」を「繁體字」へと改めて欲しいというもの。


 このような動きは、緊急時のみにとどまりません。昨年10月には兵庫県加古川市がCfJと協定を締結。市民の力を活用したスマートシティづくりが始動しています。
 このほかにも「Code for X(地域名等)」の名称で、地域の課題や特定テーマの解決に挑む団体が全国各地に広がっています。

■シチズンサイエンスがつなげる「暮らし」と「研究」

 以上のように、シチズンサイエンスを用いた研究活動は身近なところでも本格化しつつあり、私たちの暮らしと地続きになっていることが少し実感できたのではないでしょうか。
 市民参加型の研究活動は、今後ますます盛んになると期待されています。科学技術の力で未来をつくるのは、あなたかもしれません。そう考えると、ちょっとワクワクしてきませんか?


※本記事ではシビックテックをシチズンサイエンスの一種として紹介しましたが、双方の関係性については様々な見解が存在することを付け加えます。

(執筆:関本一樹)


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