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ブルーアーカイブの「アーカイブ」について

ブルーアーカイブの「ブルー」についてで第一部完というか、
ひととおり完結してしまった感もありますが、
アーカイブについても考えていきます。
ちなみにこの「ブルー」についてを見ておかないと、
多分意味がわからない飛躍をしますので、是非そちらからご覧ください。

アーカイブとは?

まずアーカイブとは、第一に記録文書の収蔵庫・保管庫であり、
また作成された記録文書そのものを指すこともあります。
国立公文書館のサイトのドメインにarchivesが含まれていることからもわかるように、多くの場合公文書を保管する施設を指します。

日常で利用することがあるのはインターネットアーカイブでしょうか。
膨大な量のウェブサイトを保存・公開しており、
今は喪われてしまったウェブサイトも数多く残されています。

似たようなものでは、
主に日本の公的機関のサイトを保存しているWARPなんかもあります。

利用するために整理する

何のために保管するのかというと、利用するためです。
蔵の中にしまっておくだけではあまり意味がありません。
いえ、何百年も経てば歴史研究の役には立つことでしょうが、
アーカイブはそれよりもっと近い時代に利用することを目的としています。

さて、利用するためには整理されなければなりません。
インターネットアーカイブで古いサイトを検索しようとしたことがあればお分かりのとおり、あまりにも膨大な量のサイトが保管されているため、探し求めるサイトに辿り着くのは一苦労です。
URLを保存しておけばまだしも、キーワード検索でお目当てのサイトを見つけるのは至難の業です。

ということでまとめると、アーカイブとは記録文書を後で利用できるように整理して保存しておく施設ということになります。

整理というのはつまり、メタデータの付与です。
タイトル、分類、保存場所……利用するために必要なメタデータを付与して、適切な場所に保管することです。

これに関連して、コンピュータ上のデータ群をまとめて一体として保存することもアーカイブと呼びます。
データの書き換えを想定せずオリジナルのファイルを長期間保存する目的で、大抵の場合ファイルサイズを縮小するために圧縮します。
tarとかですね。gzは圧縮です。
バックアップと似ていますが、バックアップの場合は最新版を保存してロールバックしやすくするためのもので、単に過去のオリジナルデータを保存しておくためのアーカイブとは若干毛色が異なります。

ちなみに、アーカイブという語彙はそもそも、「ダークアーカイブ」のように修飾されて特別な意味を持たされることがあります。
だからこそ、ブルーアーカイブに特別な意味があるのでは……と考えるきっかけにもなった語です。

ダークアーカイブという語は、
通常時の利用を前提とはせず、
「長期的保存と、長期的保存をした後の安定的な利用提供」
を目的とするアーカイブを指します。
普段は暗い保管庫にしまいっぱなしというのが、
「ダーク」なイメージに繋がったのでしょうか。

ダークアーカイブの意味を考えると、
逆説的に、通常のアーカイブは利用を目的としていることも理解できます。
しまっておくだけのところではないということですね。

これは完全に余談ですが、
ダークアーカイブ、
あまりにも「黒棺」っぽい単語すぎて見る度に笑ってしまいます。
かっこよすぎる。

ブルーアーカイブは何の保管庫なのか?

さて、ではブルーアーカイブは何の保管庫なのでしょうか。
結論から先に言うと、「ブルーな」設定の保管庫なのだと思います。
ブルーとの接続については後述します。

設定の保管庫

設定というと、
キャラクター設定、世界観設定などいくつか種類があります。
一括りに設定としても良いとは思いますが、
わかりやすいのでキャラクター設定について考えます。

キャラクター設定とは、キャラクターに紐付けられたメタデータです。
名前、学校、部活動のような作中でも言及されるものから、STRIKERかSPECIALか、攻撃力にHPなどゲームとしてのデータまで様々にあります。

思えばブルーアーカイブは、
隠された、というか明らかになっていない設定の多い物語です。

Vol.1対策委員会編では、悪役であるカイザーPMCがなんのためにアビドス砂漠を調査しているのかわからないままに話は進行します。
その点は長らく不明でしたが、最終編「あまねく奇跡の始発点編」が公開されるに至って初めて、彼らが何を探していたのか明らかになりました。

また同じくVol.1対策委員会編において、小鳥遊ホシノは大切に思っていた「ユメ先輩」の死に関わっている事が示唆されています。
マシンガンによって銃弾を叩き込まれても死なないキヴォトスにおいて、死とは非常に希有で重大な出来事です。
小鳥遊ホシノは少なくともユメ先輩の死に目を見るくらいの状況ではあったようなのですが、具体的な状況も、何なら「小鳥遊ホシノがユメ先輩を殺したのか否か」すらも明らかにはなっていません。

明らかに過去の因縁があるであろう互いへの理解度が高いわりにやけに険悪な天羽アコと鬼方カヨコ、常時先生の様子を把握し鍵のかかった部屋にも難なく侵入できると思しき描写のある鷲見セリナ(ストーカーというよりは霊体?)など、これらのような例は枚挙に暇がありません。

またゲームとしての設定にも、隠された……というか普通にやっていたら目につかないものか多くあります。
生徒の能力値を探しに行かないと見当たらない「CC強化力」や「回避値」は序の口で、なんとホド戦で暗転した際、STRIKERの生徒のスキルは発動しようとしても途切れてしまいますがSPECIALの生徒のスキルであれば暗転中に発動することができるのです。気付きませんて。

しかし、ブルーアーカイブのこうした隠れた設定は、決して作品全体の印象を崩すことなく、むしろ一種の整合性すら感じさせるものです。

いえ、一応言及しておくと、メモリアルロビーの時系列とか、バレンタインデーに先生が100人単位の生徒と会っていることになっているとか、あからさまな破綻はいくらでも見受けられます。

しかしこうしたあからさまな破綻は、
「別にこの辺りは気にする必要がないから」
「気にしない方が面白いから」
こうなっている、というような印象すら抱かせます。

確かに、先生がバレンタインデーに秒刻みのスケジュールをこなしているかどうかは特に興味を惹かれる場所ではなく、それよりも魅力的な生徒たちによる魅力的な振る舞いの方をたくさん見たいと思うのは自然でしょう。

しかし、あからさまではない部分、水面下に隠された世界観やキャラクターの設定は非常に気を遣って整えられており、それらがかみ合ってなめらかに稼働している様は、精巧な機械が作動している様子を思わせます。

聖園ミカの「無邪気さ」とアリウスに降り積もった怨念がかみ合った瞬間、
天童アリスの出自とゲーム開発部のクリエイター精神がかみ合った瞬間、
我々は良くも悪くも何か大きなものが動いたのを目撃しました。

そう、設定がとてもきれいに整理されて、物語のその時どきにおいて必要なだけ使用されているのだという印象を受けます。
これは非常にアーカイブ的な特徴です。

実際、制作陣は表に見えないところまで設定を丁寧に作り込んでから作劇をしていることが、下記のインタビューからわかります。
「なかでもこだわったのは,プレイヤーに登場人物への愛着を持ってもらうことを最重要課題とし,キャラクターを生み出す際に,その人物のエピソードなど,将来的な拡張の余地を“あらかじめ盛り込んでおくこと”だった。」

https://www.4gamer.net/games/519/G051983/20210609124/

この言い方からはむしろ、考案した設定は全ては表に出さないようにして、段階的に情報を提示していく前提でキャラクターを作り上げているように見えます。

整理された設定の束:データベース的な存在?

現代となってはもはや真面目に論ずるのが恥ずかしいほどではあるのですが、キャラクターはデータベース的に消費される存在であると語る言説がありました。
キャラクターは設定(萌え要素)の集合体であり、その組み合わせでしかないというのです。
この言説については特に論じませんが、データベース消費というのは「どこかで見たようなテンプレート的なキャラクター」に対して否定的に語るときに用いられがちな語彙です。

ブルーアーカイブが設定のアーカイブであるのなら、ブルーアーカイブのキャラクターはいわゆる萌え要素を組み合わせたテンプレート的な存在なのでしょうか。

ある面ではそうとも言えますが、別の側面からは違うとも言えます。

ブルーアーカイブにおけるテンプレート性の発露:本好きキャラとしての古関ウイ

ブルーアーカイブのキャラクターは、どこかで見たことがあるような設定、いわゆるテンプレート的な設定を持っていることが多いです。

例えば古関ウイというキャラクターがいます。
お嬢様方が集う伝統あるトリニティ総合学園の3年生であり、
図書委員長です。
書籍、特に古文書が大好きで、
普段は古書館にこもって古書の解読・修復に明け暮れています。
そのため「古書館の魔術師」という異名を持ち、
見知らぬ他人が古書館にやってくると泥棒と間違えて悲鳴を上げ、
後輩にカーテンを開けられる度に直射日光に焼かれて汚い悲鳴を上げます。

いわゆる、典型的な本好きで人間嫌いのキャラクターです。
ついでに日光も嫌い。
どこぞの動かない大図書館を思い出しますね。

ここまでの設定だとまさしくテンプレート的な存在ではあります。

それでも、彼女はその設定の上に成り立つ物語で無二の振る舞いをするのです。

古書の修復を依頼しにきたどたばたシスター・若葉ヒナタと先生に限定発売のケーキを買ってこさせるなど回りくどい嫌がらせ(※)をし、
嫌がらせはするものの若干罪悪感も感じているので本当に買ってこられるとちょっと当たりが弱くなったり。

※実はケーキは全然好きではない……どころかちょっと嫌い。
 本当にただの嫌がらせ。

ヒナタはそんな悪意に全く気付くこと無く古書を修復しようと直向きに頼ってくるので、その真剣さに少し感じいったり。

人間は嫌いだし、そんなにいつも付き合いたいわけではないけれど、と何重にも予防線を引きながら、人と向き合ってもいいのかもしれないと口にするようになります。もちろん、古書の修復中にヒナタが寝入ってしまい、大人である先生と二人きりになって初めて。

自らの欠点を認めて一歩前に踏み出そうとする姿は、いつでも輝かしいものです。たとえ古書館の暗闇の中にあっても。

そして、ここに至るまでの道筋は精妙で詳細な描写の積み重ねであり、
陳腐な言葉で言えばあまりにも「人間」らしい行いです。

こうしたストーリーも、どこかで見たことがあるようなものだと思うかもしれません。

けれど、その軌跡は彼女たちが自ら選び取った行いの結果であり、他の誰にも代わることのできないものです。

ブルーアーカイブ=人生

丁寧に編まれた設定の上に物語があり、その物語を通じてキャラクターが成長していく。それは彼女たちが紡いでいく人生です。

「ブルーな」設定のアーカイブであるというのはこういうことでした。

アーカイブされたそれぞれの設定はテンプレート的で、
どこかで見たような透明なものかもしれないし、
そこから先に進む物語ですらも、
どこかで見たような透明なものに見えるかもしれない。

でもそれがたくさん折り重なって、
他でもない彼女たち自身の生き様と青々とした物語が紡ぎ出されている。
その様子を指して、ブルーアーカイブと呼ぶのではないでしょうか。

ブルーアーカイブとは、
生きて物語を紡ぎ続けるキャラクターであり、
彼女たちが歩んでいく人生であり、
彼女たちが生き続けることで変化し続けていくキヴォトスという世界です。

だからこそアロナが言ったとおり、
「わたしたちが帰る場所」であり、
「わたしたちの物語が始まる場所」であり、
「私たちの青春の物語」なのです。

いやあ、ブルーアーカイブ、本当にいいゲームですね。


大余談

以下、余談のコーナー。

「全ての神秘がアーカイブ化される」?

Vol.2時計じかけの花のパヴァーヌ編第2章21話「王女のためのパヴァーヌ(1)」において「アトラ・ハシースの箱舟」が起動し、
新しい「サンクトゥム」が建立され、
全ての神秘がアーカイブ化されそうになっていました。
これをもって調月リオは、
「このままでは世界が滅びる……!!」と恐慌に駆られます。
全体的に何を言っているんだという感じですね。

全ての神秘がアーカイブ化されるというのは、
それほど大変なことのようです。

この場合の「アーカイブ化」というのは、
言ってしまえばキャラクターを単なる設定に還元してしまうことで、
つまり「ブルーではない」アーカイブにしてしまうことなのだ、
と思われます。

言うなれば、ブルーアーカイブ攻略wikiですね。
いつもお世話になっており大変ありがたい存在ではありますが、
ブルーアーカイブの物語そのものではありません。

ブルーアーカイブが紡ぎ出す物語こそ第一に大切だと思っている身としては、全ての神秘がアーカイブ化されてしまうと困るという気持ちになってきました。

キヴォトスに生きる生徒たち(生徒たちは「神秘である」とされています)にとって見れば、人生を取り上げられて設定資料集にされてしまうわけで、それは困りますね。
確かに、「全ての神秘がアーカイブ化される」というのは、世界の滅びと言っても良さそうです。

「ブルーアーカイブが設定のアーカイブであるのなら、アーカイブ化されることは問題ないのでは(逆に考えて、アーカイブ化されることが問題なのであれば、ブルーアーカイブのことを設定のアーカイブとしてきたこれまでの議論は無効なのでは)」という疑問も生まれるかもな、と思っての補足でした。

成長と改心(定義)

あとあんまり定まっていない思いつきなのですが、キャラクターは設定の束であるため、成長することはあっても「改心」はしないのでは?と考えています。
主に、Vol.4カルバノグの兎編第2章を読み終えた後、
Twitterでの不知火カヤへの言説を見ていて思いついたことです。

設定にも、大きいものと小さいものがあります。
そして大きい設定とは、キャラクターの根幹です。
この下敷きの上で、
物語の進行に合わせて小さい設定が細々と更新され、
それを成長と呼んでいます。
小さい設定が更新されること自体はあっても、
大きい設定をひっくり返すことはないのでは、
つまり改心はしないのでは、ということです。
語の定義の話ですね。

これは例えば、
いくらどうあがいても、美食研究会は美食テロ行為をやめないのでは?
ということにもなります。

美食研究会は、その名のとおり美食を追求することを本懐としています。
彼女たちが美食を諦めることは考えられません。

美食研究会が給食部の愛清フウカを拉致するのではなく、
フウカの目の前に食材を持ってくるようになることはあるかもしれません。

それはフウカへの迷惑を減らすことになり、
成長したと言えるかもしれません。

しかし美食を追求するために、
料理人たるフウカに腕前を発揮させることはやめないでしょう。
またきっと、食材を持ってくるために水族館の水槽を破壊する程度のことは厭わないでしょう。

これは恐らく、「改心した」とは言えないと思います。

これは結局、
「「そう」生まれついた性質をなくすことはできないが、
だからといって性質にしたがってやりたくないことをやる必要はなくて、
やりたいことをやればいい」
というパヴァーヌ2章で示された祈りと同じことです。

アリスは魔王だけど、
魔王が魔王のままで勇者になっちゃいけないわけじゃない、
ということですし、

タヌキでもキツネでも忍者になりたいならなればいい、
ということでもあります。

先生はいつでも、生徒の未来を応援しています。

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