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イラストレーターが真面目にAIイラストを加筆修正してみた。[niji journey]

 こんにちは。一般イラストレーターです。今回は新しい情報ではないのですが、前々からやってみたかった「AIイラストを真面目に加筆修正する。」をやってみたのでそのまとめとなります。現在のAIイラストは細部描写の甘い部分が多く、真面目に作品に使っていこうとすると手作業での修正が不可欠となります。AI絵師を名乗る人々の中にはそういった加筆を行ってイラストをアップしている人も居るので、今後はそういうスタイルも定着するんじゃないかなと思っています。イラスト依頼系でも「このAI絵を加筆修正してくれ!」みたいなリクエストは普通にありそうですからね。まぁ、私は今回は単にやってみたかっただけなのでアレですが。

取りあえず今回のベースとなるAI生成物を見て下さい。使用AIは話題のniji journeyです。

insanely high quality masterpiece pixiv color illustration. Hatsune miku with cute face, warm lighting, twilight, detailed hair, skirt, beautiful eyes, dynamic angle, looking at viewer, abstract,

はえ~、すっごい初音ミク。これもう完成で良くね…?と一瞬思いそうになりますが果たしてそうでしょうか。拡大してよく見てみましょう。

顔。

うーん、よく見ると汚い線があったり眉毛が二本あったり瞳が溶けてたりもみあげがグチャついてたり左手が溶けてたり酷いことになっています。こんだけ酷いもんを何故我々は「はえ~、すっごい初音ミク。これもう完成で良くね…?」と思うのでしょうか?たぶんAIが出て来たばかりで『ライティングが凄いけど細部が崩壊してる絵』というのを見慣れていないんじゃなかろうか?AI絵が浸透するにつれて、我々の側にもそういうのを見極める能力が培われていくかもしれませんね。

ではせっせと手直ししていきましょう。

顔面修正。

修正ヨシ!所要時間40分!意外と時間かかるな?目はキャラクターの命なので全面的に描き直しになります。AIは描画面積が狭くなるにつれ描写の正確性が落ちる性質がありますので、瞳という狭い範囲に正確な形状を描写するのが苦手です。なので「瞳がグチャグチャかどうか?」はAI絵を見極める分かり易いポイントの一つですね。

もみあげと頭頂部とリボンの修正。

もみあげ直しーの、頭頂部がでっぱり過ぎてるの直しーの、リボンと何だかよく分からない構造になってる髪の毛も直し―の…。

左手修正。

左手の修正。AIは首辺りに指先があるように描いていますが、左手首の位置的にそれは不自然です。AI絵は細部形状のみならずキャラクターの骨格が崩壊してるパターンも多いので、修正の際は人体バランスも考えないとダメですね。

うどん修正。

なんだこのコネ損いのうどんのような髪の毛は~~!!!💢💢💢
指や目に次いでAI絵の細部形状の甘さとして顕著なのは、やはり髪でしょうか。細い根本からぶっとい房になったり、毛先同士が融合してる髪を描いたり、どことも繋がってない抜け毛を空中に散らかしたりが多いです。また、背景の木の枠がちゃんと上下で繋がってないですね。海を描いたAI絵でキャラクターの右側と左側で水平線の位置がズレてたりするような、こういうタイプのミスもAIにはよくあります。鼻の穴に油粘土詰め込まれてる気分や。

スカート修正のアタリ線。
スカート修正。

続いてスカートの修正ですが、スカートの丈を考えると、摘んでる方のスカートが伸び過ぎています。また右肩はやや出っ張り気味になっているので、この辺は全面改修しないとダメっすね。AI画像のスカートについてたなんかの糸クズもデザインに取り入れときました。

ブラウス修正。

溶けてるブラウスとか背景の観葉植物とかハイライト表現とかなんかもう色々と修正!!

修正完了。

完了!所要時間5時間30分!

 予想よりだいぶかかりました。レイヤーも無い統合されている一枚イラストの大幅改修はチマチマと塗ったり盛ったりの作業になり、かなりの手間がかかってしまいますね。最初から完成状態だと、部分部分によって像がボケる被写界深度表現や、キャラクターに光が当たって輪郭が発光するようなリムライト表現をムラなく描くのが非常に面倒です。

私がこういうタイプのイラストを手描きすると、線画に1~2時間、塗りに6~7時間くらいでしょうか。通常のイラスト作業は「はいバケツで色塗り!バーッとグラデーション!マスク処理で塗分け!!」とツールで自動化され効率化されている部分も多いし、レイヤー統合されていないから途中から服のカラーリングを変えたりの修正もし易いですし。

所要時間で比較すると1から手描きするより早いは早いですが、流石に5時間以上かかるとなると「AIならたった10秒でイラストが描ける!^^」というのも結局どうなんでしょーか。完璧にしようとすると5時間30分10秒ですからね。冒頭で上げた「AI絵を手作業で完璧に仕上げるジョブ」というのも、楽な話ではなくそれなりのスキルと労力を要求されそうです。もちろん今後AIが進歩するにつれて細部描写の精度も上がっていくでしょうけれど、現時点ではまだこういう段階という感じですね。

では修正前後を分かり易いgif画像を貼って今回は以上です。

gif

■追記2022/12/27
>修正前の方が良く見える
な、なんだって?眉毛が上下二本あって目と手が溶けてて抜け毛が空中に散かってる方が良いって言うのかい??何故修正前の方が良く見え得るのか言語化しますと、それは『被写体の構造が曖昧だと受け手個人個人の漠然とした脳内イメージの"良い"を投影し易い』からです。お絵描き界隈で昔からある『ラフの時は良い感じだったのに清書したら微妙になる問題』ですね。漫然とした描写の中から最適な線を脳内で拾えてしまうので、実際の構造を度外視して良く見えるのです。

「眉毛が上下二本あって目と手が溶けてて抜け毛が空中に散かってるとかの致命的な部分は修正しつつも、元の良い感じを継承できる筈だ」と思うかもしれませんが、形状崩壊したAI絵に対し感じる『良い』という感覚は、そういった致命的な崩壊箇所無しには存在し得ない『良い』なのです。形状崩壊は個人の脳内の『良い』を映す鏡です。

「そういった漫然とした部分含めてAIの味」という解釈もあるようですが、でもそういうAI味は目下AI開発者が解消に尽力してる訳で。遠からずAI絵の中から淘汰されてしまう部分なのでまぁ。初期のmid journey絵にあったみたいな螺旋構造の幾何学的な反復とか、AIじゃないと描けない表現で好きだったんだけどアップデートされるにつれて見なくなったし。奇怪でグロテスクな謎物体を出してくれる黎明期AI達もSDのオープンソース化で滅んで行っとる。

■2023/01/17追記
「修正後にスカートの躍動感が減った」との意見も多く見られます。確かにその通りですが、解説時に述べている通りAI絵だとスカートの右側だけ長すぎます。フレアスカートの躍動感とミニスカートのフトモモ感が混在していて、構造的に不自然な訳です。どちらを取るか、左右非対称なデザインのスカートにするか、それとも気付かなかったことにするかは描き手次第ですが、私は構造的整合性とフトモモを優先しました。

>元絵の物憂げな眼付きの方が良い
それは完全に好みの問題じゃねえかな…。


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