忘れられない夏

2023年、都内某所。

セミの鳴き声が耳奥までこびりつく。

平日の昼下がり、壁の薄いアパートの一室。

エアコンもない昔ながらの和室。

扇風機の音。

窓は開いているが風は通らない。

そんな一室で私は、昨晩出会った女と汗ばみながら
まさぐりあっている。
声を出せば隣の部屋や外にも丸聞こえになる為、
お互いが必死に声を押し殺して行為に励んでいた。

1時間ほどで私と女は尽き果て、そのまま仰向けになり天井から吊るされた裸電球を見つめながらタバコをふかしていた。

「久々だよ、こんなに気持ち良かったのは。」

私がそう言うと女も

「不思議ね。昨日会ったばっかりなのにもうこんなにあなたの事を知ってる。」

と言い、笑っていた。

タバコを吸い終えた私が言う。

「これからどうしよっか。予定はないの?」

女も

「特に何もないよ。どうしよっかね。。」

私はアルバイトをしているが、休みの日はダラダラしているだけだからいつも何もない。
ただ今日は名前も知らない女がいるだけ。
ただそれだけだった。

しかし

私はこの女の事を何も知らない。

すると女が言った。

「キョウテイしよっか。」

キョウテイ?初めて聞く単語だ。
聞き返す。

「キョウテイってなに?」

女は少し黙って言った。

「ふふ。楽しい事だよ」

楽しい事か…

特にやる事もないし、腹も減ってない。
即答すると負けた気持ちになるので
少し間を開けて

「いいよ。キョウテイしよう」

というと女は嬉しそうに目を輝かせた。

「キョウテイって初めてでしょ?じゃあ私が教えてあげるからそのまま寝てて。」

と言い、立ち上がった。

まだ汗や体液が湿っている薄っぺらい布団の上で私は裸で仰向けになっている。
何をするんだろう。キョウテイって何だろう。
子供の頃に覚えた好奇心にも似た気持ちで待った。

女は机からマジックを持ってきた。

「じゃあ始めるからね。今からやる事に一切文句は言わない事!」と言い、
笑顔でマジックを持った。

私の体におもむろにマジックで書き始めた。

「まず、ここがスタートライン。」

とヘソあたりにラインを書いた。

「ここがブイね。」と私の左乳首に丸を書いた。

「ここもブイ。」と私の陰囊にも丸を書いた。

陰囊に書いた瞬間、私は足をくねらせた。

「動かないで!」

女は言う。

私は何をしてるんだろうと不思議に思ったが、
色んな土地土地でそういう遊びがあるのかなと
不思議と受け止めていた。

「よし!キョウテイジョウの完成!」
と女は嬉しそうに言った。

女の落書きの概要


どうやら完成したみたいだ。何が始まるのだろう。

すると女が自分の左手を出し、私に説明する。

「まず親指がインの石野。人差し指は川崎。中指は柳生。お姉さん指はカドだから…滝沢かな。小指は東本。もう指が無いから6は欠場ね。」

女は指に名前をつけていた。
聞き慣れない名前だ。
有名人なのかな。
そんな疑問はあるが、女に身を委ねた。

すると女は手を私の鎖骨あたりに書かれた四角い所にふわっと置いた。それがまた心地よい。
置いてるか置いてないかが分からないほど
ソフトタッチであった。


独特な置き方だった


女がメロディにも似た言葉を言っている。

「ファンファファンファン〜ファー♪」

と同時に五本の指が一斉に絹を撫でるような動きで私の乳首に向かって動きだした。
私は頭に鳥肌が立つくらい敏感に反応をしてしまった。
その時、女は右手人差し指を口に持っていき
シーッと私にやっていた。

私は漏れそうな声を必死に抑えた。


続く。。


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