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風流怪談 地獄太夫色懺悔~六条御息所に引導を渡すこと

 ふと気づけば専立寺で公演をするのも4回目となっている。「風流怪談シリーズ」は常に専立寺とともにあって、そのうち第14回と第17回の盛岡市民演劇賞大賞をいただくという、縁起の良い会場なので、今回も取りに行くことにしたい。
 というのも、今回の出演者は座長クラスが結構いて、お久しぶりと初めましてのメンバーとの組み合わせも新鮮。何というかみんな芸達者なのであちこち見所なのである。うっかり演出を忘れて見入ってしまうこともあったりして、それはそんなに悪いことではないなと思っている。
 コロナ禍は3年目に入り、第7派は最大の感染者数を更新している。にもかかわらず、行動規制などは、当初のパニック状態のようなことにはなっていない。医療現場の逼迫状況は伝わってくるものの、得体の知れない恐怖感は薄れて来ている。
 むやみやたらと怖がることはしないが、だからといってまったく大したことない、とも思っていない。運の良いことに、コロナ禍に入ってから、架空の公演が延期、中止となったことは無い。まったくもって運が良い。だからといって今回もそうなるかは神のみぞ知る、というところだ。
 世界の空気は不穏に満ちている。戦乱や政情不安だけではなく、災害や疫病もわたしたちの心や生活にほの暗い影を落としている。しかし、これはいつの時代でもそれを見ようとしているのか、そうでないのかの違いで、世界の見え方は変わる。片目で不穏を眺めつつ、安穏と暮らしている。しかし、自らのできることはあまりに小さい。
 今回の作品は、室町時代あたりを背景にしているものの、まさに現在に通底するものが感じられる。隣町の戦乱を知るくらいの感覚で世界を感じられる現代にあって、しかしながら室町時代の隣町の戦乱より詳細な映像や情報が入ってくる。身に迫る恐怖感は、むしろ現在の方が強いのかも知れない。
 そんなことを考えながら、こう見えて案外信心深いので、散歩の途中、神社を見かけると、公演が無事終了することを祈願していたりする。お賽銭は五円で。もし今回も無事公演を終えられたなら、いや、そうでなくても、今ここを取り巻く全てに感謝したいと思う。

2022年9月1日から3日まで、架空の劇団第25回公演として上演した「地獄太夫色懺悔~六条御息所に引導を渡すこと」作/髙橋拓 演出/くらもちひろゆき 当日パンフレットに書いた文章。

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