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後になってわかる"遅いフィードバック"を乗りこなす

私はこれまで、多くのメンターに恵まれてきました。
異動や兼務が多い環境だったこともあり、多様な経験をしてきたメンターたちと、多様な観点で議論したりコメントを受けたりする機会がありました。
その中で受けたコメントの中には、目の前の問題へ対象するためのアドバイスもあれば、今後やりたいことを整理するためのオープンな問いかけもありました。

メンターとの対話スタイルとして私は、事業や仕事の内容への質問や自分が抱えている問題をメンターの元へ持っていき、問題の整理・解消を依頼する形で1on1やメンタリングの場に臨むことが多いです。
進め方は割と標準的で、議題を持っていき、お互いに論点への前提や理解を耕していき、実行できるアクションを計画する、といった流れでした。

ただ、これまでに何度か、メンターから受けたコメントの真意や重要性がその場で理解できず、消化不良のまま対話の場が終わることがありました。
「理解できない」と言っても、いくつかの種類があります。「言っていることはわかるが実践できる気がしない」「なぜ今のタイミングで、言われたアドバイスが役に立つのかわからない」「やりたいけど何かが腑に落ちず行動へのブレーキがある」など、パターンがあります。

いま振り返ると、「対話したその瞬間には理解できなかったけど、今になれば腹落ちしている」内容が多くあることに気づきました。
また『対話』から『気づき』までにかかる期間は長く、1~2年くらいかけてようやく腹落ちできるものや、4年前に言われて今もなお解消していないコメントもあります。

私がこれまで受けてきたコメントの中で、このような「言われてから時間が経ってはじめて受け止められた」ものは、「言われたその場で腹落ちでき行動へ移せた」ものとは全く質の異なる学びがありました。
良い悪いではありませんが、後からわかる『遅いフィードバック』ほど、大きな気づきがあり、観点の広がりがあり、成長実感が強く得られたものであったように思います。
今回は、このような『遅いフィードバック』がどのように生まれ、どう向き合うことで、人の成長や成熟に良い影響を生み出すのか、整理していこうと思います。


これまでに受けた『遅いフィードバック』

メンターに「人は理想を示されれば必ず動くわけではないよ」と言われたことがあります。

当時、私は特に新卒向けのメンバーオンボーディングのリードを担当していました。
私が所属するチームでは以前から、新卒の受け入れや成長支援はすでに行っていました。
しかし、オンボーディングの流れや内容がメンターのやり方に依存することが多く、属人性が高いまま引き継がれず毎回ゼロから考えて試して…といった再発明を繰り返していました。
そこでオンボーディングの生産性をチームで上げていく動きをイシューとして明文化し推進する動きが始まり、私が旗振りをすることになりました。

決まっていることは「新規メンバーのオンボーディングをいい感じにする」だけで、目的やゴールが曖昧な中でのスタートでした。
そのため私は、各メンバーの想定する理想を引き出す中で共通のゴールを仮定義しました。
ゴールを小さいイシューに分解しつつ領域ごとに各メンバーをアサインし、イシューの解決を各メンバーに進めてもらうようなディレクションをしました。

結果から言えば、この方式は全くワークしませんでした。
抽象度の高いイシューをアクションに下ろしつつ上段目的を自ら問い直していくことは、具体イメージまで想像しきれないままイシューを渡されたメンバーにとっては難しかったようです。

私としては「理想を伝え、イシューを明文化し、Howを完全に任せれば人は動くし、任せられたイシューをなんとかするのが社会人としての仕事だ」と考えていたのですが、それは一方的で恣意的な期待でしかなく、実情としてのメンバー特性を見れていなかったのが現実でした。
「人は理想を示されれば必ず動くわけではないよ」というコメントは、このオンボーディングチームの立ち上げ前にメンターから言われた言葉でしたが、言われた当時は理解したつもりで何もわかっていませんでした。
そのため私はチーム運営に失敗するまで腹落ちできませんでした。

実際に自分がリードするチームで、理想とイシューを示しただけでは動かないチームを目の前にして初めて、メンターからのコメントを自分にとって意味のあるものと考えられるようになりました。


『遅いフィードバック』が生まれる仕組み

このように、コメントを受けたその場で腹落ちできないまま放置した場合、失敗してからやっと気づける『遅いフィードバック』となります。
では、『遅いフィードバック』はどのような構造で生まれるのでしょうか?

コメントに腹落ちできないパターンは大きく3つありそうです。
①実際に痛い目に遭ったことがないため、ことの重要性がわかっていない(経験と紐づいていない)
②どのような状況になるのか、具体イメージを考えられていない(問題への解像度が粗い)
③メンターの見ている景色を軽視しており、「自分の場合は違うだろう」とタカをくくっている(構造を理解・転用できていない)


その後、実際に経験したり解像度が上がったり、目の前の場面に当てはまることに気づいたりしたタイミングで、コメントが理解できるフィードバックとして意味を持つようになります。

私は『遅いフィードバック』が失敗した後にようやく機能するケースが多くありました。
昔から、私は受けたコメントを整理し、紐づく自己課題を定義して社内の公開ドキュメントに残し、メンターや関係者に共有していました。
しかしそれでも、失敗して振り返ってから気づくケースが多く、問題が発生する前に対処するフィードフォワードとしての形では機能していませんでした。

結果として、色々な後悔が残りました。実際に失敗まで経験できた分、学びは多くありましたが、分かっていればわざわざ通らなくても良い道を選んだ方が良かったと思うものがほとんどです。


『遅いフィードバック』は引き出し可能なフィードフォワードとして使う

最近、私が試していることが大きく2つあります。

一つは、「理解はできるがまだ腹落ちしない」コメントを受けた際に「どのような場面でどのような痛い目に合うか」を確認することです。
メンターがそのタイミングでそのコメントをしたことには意味があるはずです。
腹落ちできないということは、お互いが見ているものにズレがある状況だと言えます。

そこで、前提としてメンターがどのような状況でコメント内容を役立つものだと想像しており、活用しない場合にどうなることを懸念しているのか、コメントを受けたその場で確認することが役に立ちます。
また、メンターがコメントに対して非常に解像度高く理解し構造を説明可能にしている状況は稀なので、「メンターに教えてもらう」というよりは「メンターと一緒にシナリオを想定する」に近い動きになることが多いです。

前提を確認することで、事前にメンターと目線を揃えられ、なぜそのコメントが今の自分に伝えられているか、いつどのような状況で活用されうるのか、の認識を事前にすり合わせることができます。


もう一つは、まだ経験していない動きに対して先に振り返りをすることです。
ここでは、未来で経験するプロジェクトやイベントを「実際に起きた事実」と仮定し、事前に振り返って学びに昇華させます。

起きたこととして仮定する以外、振り返り自体は一般的な方法をとります。
何が起きたか(事実)を仮置きした上で、良かったか悪かったか(評価)、なぜその結果になったか(原因)、何を続けて何をどう変えると良いか(ネクストアクション)を整理していきます。

これによって、どの状況で自分がどのような行動を取る傾向があり、実際にどの場面で詰まるかを高い解像度で想像でき、フィードフォワードとして活用した際にどのようなシナリオに変わるかをシミュレーションすることができます。

また、擬似体験することにより、痛い目に遭うことが(想像上ではあるものの)できているため、実際の経験に近い形で学びを得ることができます。
これは『7つの習慣』の「終わりを思い描くことから始める」に近い動きと言えそうです。
結果として、発露する条件を必要になった場面で行動に移せることができ、フィードフォワードとして機能させることができるようになります。


『遅いフィードバック』は成熟に気づくシグナル

『遅いフィードバック』になるような、今の自分では腹落ちできない観点は個人の成熟に影響する大きな要素です。
そのため『遅いフィードバック』への気づきは、自分自身の変化に気づかせてくれるチェックポイントでもあります。

過去には腹落ちしなかった内容が後になって「わかる」とき、見ている景色が大きく変わっていることを示しています。
それは、一次元で伸びるような単なる『成長』というより、次元や評価軸そのものが変わる『成熟』となります。
つまり、その場で理解できないことにこそ成熟のヒントがあると言えます。


腹落ちできないコメントを受けることから、成熟は始まります。
『遅いフィードバック』を乗りこなすことで、皆さんの観点に更なる広がりがあることを祈っています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


補足・関連する概念

この場では詳述を割愛しましたが、『遅いフィードバック』を実際に乗りこなす時に役立つ色々な概念を掲載しておきます。

腹落ちできないまま『異物』としての観点を自分の中で持ちつづけるにはネガティブケイパビリティが重要な役割を果たします。
不確実な状況を避けたり無理に確実にしてその場で腹落ちさせたりするのではなく「不確実なまま受け入れる」スタンスを保つことで、「今は必要ないが、時が来たら開ける」引き出しを多く持っておくことができます。

また、目の前では課題に感じていないものの『引き出し』として道具を持っておくには『漂流的インプット』が重要となります。
『いま、ここ』の自分から離れて、インプット対象に傾聴し潜りきることで、非連続的な視点移動ができるようになります。
こちらはまた別の場で整理してシェアできればと思います。

メンターとの対話だけでなくセルフマネジメントとしても『遅いフィードバック』を活用する場合、自己対話のスキルも必要となります。
その場合、セルフディスカッション、セルフクエスチョニング、セルフコーチング、ジャーナリングのようなスキルが役に立ちます。
『ジャーナリング』に関してはこちらが参考になるかと思います。

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