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クローズド・サークルを逆手に取った犯人の企みに一票!

『キュレーターの殺人』M・クレイヴン 東野さやか 訳

国家犯罪対策庁重大犯罪分析課(NCASCAS)の部長刑事ワシントン・ポーと同課分析官ティリー・ブラッドショーがコンビを組んで捜査にあたる『ストーンサークルの殺人』、『ブラックサマーの殺人』に続くシリーズ第三作。今までのなかでの最高傑作。英国北西部に位置するカンブリアは、アイリッシュ海から吹く風の影響で天候が変わりやすく、冬ともなれば雪に覆われる、人間より羊の方が数が多いという辺境の土地。

もともと煩わしい人間関係に嫌気が差し、警察を辞職して人里離れた土地に引っ込んでいたポーだが、その捜査能力を高く買うNCA情報部長ヴァン・ジルの肝いりで、現場に出ていないときはシャップフェルにある自分の小屋ハードウィック・クロフトで仕事をする許可を得ている。クリスマス・イブ、上司のフリンの出産が近いのを祝うパーティーに招かれたポーは、電話を受けたフリンの顔から事件発生を知る。

クリスマス・プレゼントの包みのひとつから切断された人間の指が二本見つかったのだ。それだけではなかった。別人のものと思われる指が、教会の洗礼盤の上、肉屋のショーケースの中で次々に見つかった。すべての現場に#BSC6と記された紙片等が置かれていたことから、カンブリア州警察は重大犯罪と見てNCAに協力を依頼、フリンとポー、ティリーの三人が捜査に加わることになった。

鑑識によれば、一組は男性の、後の二組はそれぞれ女性の指で、死後に切断されている。男性には犯罪歴があり、指紋から住所がわかった。男は自宅で椅子に縛りつけられ、絞殺されていた。女性二人のほうは、行方不明者の捜索依頼から住所が判明したが遺体はなく、どこかに拉致されたものと思われる。ポーが信頼する病理学者のドイルは女性二人の指から、麻酔をかけられていた痕跡を発見する。しかも、指の切断に使われた道具が、三人とも異なっていた。これらは何を意味するのか?

ポーをよく知るカンブリア州警察警視のナイチンゲールは、連絡を欠かさないことを条件にポーに単独での捜査を許可する。このシリーズの強みは、ポーとティリーのバディが一作ごとに成長を遂げていくところにある。天才的な能力を持ちながら、他人の言葉を一字一句鵜呑みにすることで、場にふさわしくない言動を取ってしまいがちなティリーをポーが上手にカバーしながら、捜査に組み入れていく。一方でティリーは自分には見えない物を見る力を持つポーを信頼し、片時も傍を離れない。本作におけるティリーは心身共に成長著しい。

高い塀に囲まれ、厳重に施錠された家から、被害者がどうやって拉致されたかを考えていたポーは、キッチンにやかんがなかったことに気づく。被害者は庭にやってくる鳥の水飲み場が凍るので、毎朝やかんの湯を運んでいたのだ。犯人はそこを狙ったにちがいない。高い塀に囲まれた庭での行動を知るには、より高い場所から監視していたはず。裏手にある高い木の上に登ったポーはそこで凧を見つける。ティリーは凧に詳しい人物に連絡を取り、写真を見せて情報を集める。高価なゲームカイトであることから持ち主が絞り出せる。

しかし、ティリーの分析では凧の持ち主が犯人である可能性は十パーセント。二十二歳という若さも殺しの手口にふさわしくない。ところが尋問の途中、#BSC6と記されたマグの写真を見たとたん、青年は動揺した。青年の話から#BSC6の意味がわかる。青年はダークウェブ上のブラック・スワン・チャレンジというゲームに参加していた。最初はいたずら程度の犯罪からはじまり、次第にハードルを上げていくもので、六番目のチャレンジは、赤の他人を殺し、その肉体の一部をネットに曝すというものだった。

ブルー・ウェール・チャレンジというものが実在する。二〇一七年にロシアで発祥した、SNS等を介して参加者へ自殺を教唆、扇動するコミュニティで、ロシアでは百人以上の自殺者が出たという。ポーに連絡してきたFBIの特別捜査官の話では、アメリカにもホワイト・エレファント・チャレンジなるものがあり、そこでは自殺ではなく人が殺されていた。ただし容疑者は無実というのが彼女の意見。真犯人はキュレーターと呼ばれる男で、ネットを通じて依頼者に身柄を知られることなく、トラブルの解決を請け負っているらしい。

殺された三人の共通点を見つけたポーは、新たな被害者となる可能性のある人物を発見する。男はアイリッシュ海に面したウォルニー諸島のひとつ、モンタギュー島に住んでいた。干潮時には歩いて島まで渡れるので有名なピエル島の沖合いだ。犯罪を未然に防ぐため、ポーは船で島に向かうが、眺望の開けた土地で、人知れず島に近づくことは不可能に思えた。一夜明け、フリンと監視を交代したポーは自宅でシャワーを浴びているとき、あることに気づく。

周りを海に囲まれた絶海の孤島。本格ミステリでいうところのクローズド・サークル。干潮時には船の航行が困難で危機を回避しようにも島に近づく方法がない。ティリーの考えた、ポーが気に入らない方法とは何か。その手があったかと思わず唸った。余談ながら、フリン、ティリーをはじめ、病理学者のドイル、FBI捜査官のリー、捜査の指揮を執るナイチンゲール、とポーを取り巻く人物のほとんどが女性というのが新鮮だ。彼女らの鋭い読みがポーの活躍を支えている。日本の刑事ドラマのようなホモ・ソーシャルの雰囲気が苦手な読者にお勧め。

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