「象は、大勢に拍手され、見物され、あっという間に忘れられるんです」
『象の旅』ジョゼ・サラマーゴ 木下眞穂 訳フランシスコ・ザビエルが日本を訪れた頃の話。彼を派遣したポルトガル王ジョアン三世は、舅であるスペイン国王を訪ねてバリャドリードに滞在中の従弟のオーストリア大公マクシミリアン二世の婚儀を祝う品は何がいいかと頭を悩ませていた。妻のカタリナ・デ・アウストリアが、象がいいと言い出したのが事の始まり。二年前にインドから来て以来、毎日、樽一杯の水を飲んで、大量の飼葉を食べ、寝ているばかりで何の役にも立たない。いっそのこと、他国にやってしまえば厄介