都会を遠く離れた海辺の町のジャズ喫茶をめぐる他愛ないと言えば、言える話
『泡』松家仁之薫は東京の私立男子校に通う高校二年生。学校が休みになる八月の一か月間、紀伊半島にある砂里浜(さりはま)という漁師町で暮らすことになった。どうにも学校に足が向かなくなったのだ。特にいじめにあった、というのではない。生理的嫌悪感に似たもので、体育系教師が幅を利かす校風も嫌だし、もともと志望校に落ちて滑り止めに受かって通うようになっただけの学校で、そこに居場所が見つからなかったということもある。
祖父のいちばん下の弟で、薫にとっては大叔父にあたる兼定が、砂里浜でジャ