満員電車


私は満員電車が好きだ。


「うぇえええええええ。変わってる。」「何、変態なの?やましい事でも考えててるの?」「えっ。えっ。…あばばばっばばば。(好奇な目)」

ありがとうみなさま。みなさまの意見は多分世間一般に言う普通ってやつで、私も今まで生きてきて、この気持ちを共感してもらうどころか理解さえしてもらえたことは無い。

さぁ、ここから私目線で一緒に電車に乗ってもらおうと思う。



ぷるるるるるるるる…

たたたたっ。(某駅ホームに私登場)

「遅刻、遅刻ー!☆てへ」


入口までギッシリな人の群れ(私はチームと呼称)に飛び乗る。仲間の胸に飛び込む私の姿は、ラグビー日本代表リーチマイケルのタックルそのもの。そのぐらいの満員電車になんとか乗り切り、駅員さんの「閉まりまーす!」」という応援コールと共にドアが閉まるとその瞬間、試合開始!


そう、この1両の満員電車に集合した我らは、その時からこの試合を乗り切るチームとなるのだ!今流行りの言葉で例えさせていただくなら、ワンチーム!!(この言葉嫌い。)


ガタン。という無機質な音と共に動き出す試合。

隣のおじさんのワイシャツから洗い立ての洗剤の良い匂いがする。彼のマネージャー(奥さん)はどうやら優秀なようだ。私は身動き一つ出来ない状況の中、ゆらゆらと揺れるフィールドに抗うことはせず、仲間に全信頼を預けこの体を解き放つ!そう、立ったまま寝ることも可能。なんだったらカバンさえ持つことさえ不要!なぜなら仲間と私の狭間にあるカバンは既に宙に浮いている。プリンセス天功のマジックそのもの。

しかしながら、この車両にプリンセス天功がいないどころか、「キテマス!」というサングラスのおじさんの声も聞こえない。そうなのだ、チームメイトが私のカバンを半分持ってくれている。出会って一秒で一緒にカバン持ってくれる相手の事を考えると、それはまるで…


同棲している彼氏が雨の中、傘一本持って最寄り駅まで私を迎えに来てくれた。自然とほころぶ私の顔。持ってた買い物袋を半分こずつ持ち「寒いね、ふふふ。」なんて言い合いながら自宅までテクテクと慣れた道を笑いながら帰っていく…


という妄想トリップに0.5秒で入り込めた私、グッジョブ。


ぷしゅー。

次の試合会場に着くと、今までいたメンツとはお別れし、また新たなチームメイトが加入される。さっきよりもさらに仲間との密着度は強くなる。私はまた新しいメンバーの胸に体を預け体の力を抜きそっと息を吐く。

ふぅううううううう。あんしんするぅうううう。あ、この人の肩ちょうど私のアゴの高さと一緒。アゴちょっと乗っけちゃお。あざす。あー、楽。

試合中という事も忘れ、安心しきっていると、


キキキキーーーー!!

「きゃあああ!」「うぉぉっ!」脱力している私は突然の動きに対処できず目をつぶり、リーダー(隣の人)の頼れる背中にぐいぐい体を押し込むも、力強い踏ん張りで私を受け止めてくれる。さすがリーダー。トュクン

「赤信号による停止信号のため急停止したことをお詫びいたします。このまましばらくお待ちください。」との休憩を告げるホイッスルを鳴らされる。みんなのいら立ちが見える。

私は心の中で唱える。

みんな落ち着いて。大丈夫。試合にはいい流れも悪い流れの時もあるから。今は我慢する時だよ。


しばらくすると動き出す車両。間違った、フィールド。

ぷしゅー。

さぁ、次の試合(駅)が最大の難敵だ。ここからはもうチームメイトのちょっとした移籍どころの話ではない。まるで民族大移動。そう、かつて私の小学校の先生は席替えの事をそう呼んでいた。


約2年(2駅)付き合ったリーダーとお別れすると、新しいリーダー(新しい隣の人)は綺麗な女性になった。これは…ありがとうございます!やったー!最高だぁー!良いにおーい!シャツ越しに触れる感じもなんだか柔らかい。さっきまでは頼れるリーダーの背中に全身を預けていたが、今はまるで母の大きな優しさに包まれるが如く、そこに女性特有の甘くやわらかなな香りが鼻をくすぐる訳ですから、私が一度インド映画のごとく歌い出すと、フラッシュモブの如くチームメイトみんながリズムに合わせて祝福のダンスを踊り出す。アーラーチョンマカッレ!チョンマカッレ!マハラジャ~!(以上、脳内でお送りしました。)


こんな感じで、私のいつだってピュアな童貞心は爆発してますが、その気持ちを悟られないようにと、ゴルゴ13すら思わせる鋭い目つきでフィールド中央に高々と掲げられた応援団幕(中吊り広告)に若干の読みづらさを感じながらも、週刊文春の人目を惹きつける魅力なゴシップの種をなんとか読み取ろうと凝視。満員電車で真面目そうな顔した奴ほど脳内では某テーマパークのエレクトロニカルパレードが行進している可能性があるぞ。要注意だ。


ぷしゅー。

ここで1人、新規加入者が「どうもすみません。はい、失礼しますね。」と言わんばかりの腰の低さで、我がチームに参入しようとしている。すると、古株のチームメイトが新規加入者に「このチームはもう限界が来てるんだよ!」と言わんばかりに入口でぎゅうぎゅう押し始めた。すると、あんなに腰が低そうな彼が舌打ちをしたのを合図に2人の押し合いが始まった。もはやすごい戦いである。ここで注目してほしいのは2人で押し合っているということだ。もはや押し合う2人の周りには若干の隙間さえできてる。「え、全然乗れるやん。」私はこの日初めて、人という漢字はお互いに支え合って成り立っているというのを目の当たりにした。すっげー。押し合いすぎて、「人」っていう漢字になってる。

ぷしゅー。

試合終了の合図で扉が閉まると古株と新規加入者がお互いふーふー言いながらぴったりと体を寄せ合っている。新規加入者がチームとして参加することを認められたらしい。



これは…あれだな。


夕日をバックにした河原的な所で学生服を着た2人がケンカし合ってる。最後は2人とも草むらに倒れこんで息を切らしながら「お前…結構やるじゃん。」「へへっ。お前こそ。」なんて短い会話から今後2人が親友になるその瞬間を見てしまった気がする。






ガタンガタン…







ガタンガタン…





ぷっしゅううううう。

どうやら私の退団する時が来たようだ。8年間(8駅)お世話になったフィールドに後ろ髪惹かれることなく、さらりと後にする。ありがとな。激動の試合を終えて、まだ熱気が籠るフィールドを後にすると1月の冷たい空気が私の頬をなでる。













あー。満員電車、最高。

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