マガジンのカバー画像

あのときの、甘いもの

9
佐賀県唐津市のフリーペーパーfeel連載 2022年〜2023年
運営しているクリエイター

#ことば

火蜜

やっぱりすきなのです 外へ外へと目を向けていたものだから いつのまにか 見失っていたようです 外を見ると “甘いもの”はいくつもありました だけどキミが炎の中から巻き取る透き通った蜜は特別 火口から溢れる溶岩のようなのです 生地にかさねるとジュッっと蒸気で包みこみ 濡れたお菓子に仕上げてくれる 火の蜜

星屑寒天

その日、月のない宙に散りばめられた瞬きが わたしの中に染み込んでいった 降り注ぐ光を追いかけると カケラフタツ落ちていたの “これを寒天でとじこめてみてよ“ 声はしても姿はない ポケットにしまって声を探しながら来た道を戻った 溶かした寒天の中にカケラフタツを落とすと キラキラと散らばって とろみの中に染み込んで固まった ひとつまみして そのやわらかな星屑を唇にあてる 目をとじると 彗星のそそぐ夜に わたしに触れたあの声が聞こえるのでした

琥珀色の湖

ぽとぽこもこ あつい水で雲をつくる人がいます ぽとぽこもこ ぽとぽこもこ ぽとっと垂らした水で ぽこっと雲を膨らませると ポットからつーっと細い水を注ぐ そうやってもこもこに膨らんだ雲から降る琥珀色の雨を ガラスに集めて湖を作ってくれる その湖はブルーベリー模様のカップにそそがれて 私の前に置かれるのです 角砂糖ぽとり 琥珀色の水面に三日月ふたつ浮かんで 見上げると珈琲屋の店主はにっこりでした 2022年 ブルーベリーが色づいてきた

笹に雫

いつからそこにいたのかしら 笹の葉を集めるわたしを 虫籠を持ってじっと見ていたの その瞳に映るサラサラの葉に気づいて “これはおやつの飾りつけに使うの” そう声をかけると さっと走り去ってしまった 立ち尽くすわたしの頬に水を含んだ風が触れて 空のこぼしたひと雫はポロンと笹の葉を鳴らすので 今朝、天気予報で眺めた傘マークの数を思い出す 2022年 もうすぐ七夕