平凡な人

#小説

聞き覚えのある声が入り混る食堂。いつも通り私たちは、入り口近くの6人テーブルに5人で座る。

あかりに彼氏が出来たことで最近の話題はもっぱら恋話。あかりの彼はテニスサークルの先輩でチャラついた見た目に反して成績は良いそう。私はそういう人は苦手だ。

入学して3ヶ月で彼氏って出来るものなの? 大学生って私が思ってるより大学生なのかも、と思いながら昨日の生姜焼きと今朝作った卵焼きが入った弁当を食べる。

「葵は誰かいないのー?」あかりから雑な質問が飛んできた。「あかりの彼といつも一緒にいるあの平凡な人が好き」なんていう心の声は出ず、「いないー、だれか紹介してよー」と日本国民全員が聞き飽きてるセリフが反射的に口から出る。

今日は平凡な人に会えるかな。

初めて目が合ったのは渡り廊下。私はあかりと社会学概論の授業に向かっていた。前からあかりの彼を含む5人の男が歩いてきて、すれ違いざまにその中で最も平凡そうな人と目が合った。

それ以来、何十回と目が合って、何十回ドキドキした。

名前を知らないから、私は「平凡な人」と呼ぶ。彼らのグループは、見た目、言動、何を取っても大学内でのヒエラルキーはトップ。その中の平凡だから、全然平凡じゃない。

「今日も、彼と一緒に帰るの?」と下心たっぷりの質問をあかりにする。

「今日は授業ないから来てないのー」と私の右腕を掴んで寄りかかるあかりの頭を撫でながら「そうなんだー」と言う私。



夏休みが明けた頃から、彼らのグループに平凡な人は居なくなった。

どこに行ったの、平凡な人。
1回でいいから話したかったよ。

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