(一応)村上龍「歌うクジラ」感想

夜中に、ふっと村上龍のことを思い出した。やたらとマッチョな発言を繰り返した、もう老年の作家。それほど思い入れもない。
読んだことがあるのは、
代表作で「限りなく透明に近いブルー」「コインロッカー・ベイビーズ」「共生虫」「インザ・ミソスープ」、その他「希望の国のエクソダス」と「ラブ&ポップ」、「69 sixty nine 」、短編は合計5作ほどとあと「歌うクジラ」。

え、思い入れないって言ったわりに読んでるじゃん、と思うだろうが、私は人生いろいろあって、興味があろうがなかろうが本を読めるのである。ちっとも楽しかないのに。

個人的に、この人はバタイユや、サルトル、カミュの系譜に位置する作家である。ほら、全員ちょっと賞味期限が切れかけてるじゃん。団塊のおじさまたちの間では熱かったらしいんだけど。
で、こっちが肝心。この人の書く小説、この人の「考え」の丸写しなんだよね。
だからたとえば「共生虫」なんかもさ、ところどころ面白いとこはあんのね。主人公に、おばあさんが、日本軍がアメリカ兵の火炎放射で焼かれる(だっけ)映像を見せる場面とかさ。
つまり、その、なんだ、我が日本国というのは、戦争経験が記憶としてないんだよな。
神風特攻、なんつっても、ひどい話だけど
「おとぎ話」みたいなんだよ、あ、何より私にとってね。なかなか、リアルには感じられないでしょ。
ま、何、それを読者にわからせるエピソードなんだけどさ。

なんというのかなあ、小説ってさ、道案内だよね。こうさ、「くっつきそうでくっつかない二人」が「くっつく、くっつかない?」(くっつくに決まってらあな)で、話が右にそれたり、脇道入ったり、そんなのが楽しいよなあ
と。
もう一人の村上、こと村上春樹の「ノルウェイの森」を、この前ボコボコにしちゃったんだよね(隙自語、というの)。と、言うのは、私が若い頃(今も若いか)はまってて。その時の自分が嫌いなんだよね、それでちょい貶しすぎた。
「ノルウェイの森」の、すごくいいところって、目的地がないことよね。一応直子と、緑は出てくるけど、「どっちとくっつく?」って感じじゃないじゃん。なんというかね、
「日常」、「生活」、そういう些細なものの持つ愛しさを、きちんと書いているよなあ、と、今更思うんだ。それでも、悪いところだってやっぱりいっぱいあるんだけどさ。

小説って、迷ったり、ヤブ入ったり、すんのが楽しいじゃん?村上龍って、そういう事ができないんだよ。だからあれは「悪い意味で」哲学者なんだなあ。
ほら、哲学書、ハイデガーなんてね、
いろんな仮説と考えを重ねて、答えを出していくでしょ。答えは一つ、そこに行きつくまでの数百ページ全てにきっちり意味がある。哲学書の途中に、ソフトクリームをなめるパンダの話が入っていたら、楽しいけどだめだよ。
だから、村上龍は嫌い。それにユーモアもない。ユーモアがない作家はね、信用しちゃだめ。これはほんとの話。(「フィジーのヴァニラ」はよかったけど、でも「バ」ニラでいいだろバニラで)

そうそう、「歌うクジラ」感想ね。
まずね、SFなの。面白いんだよね。主人公の、お父さんが、なんかね、罪を犯しちゃって、プロメア?テロメアでした、テロメアを切られて、すっごいスピードで老化していくの。で、主人公はトラックで逃走する。
それから、なんか色々あって、最後は宇宙に行くんだけど、もうあんま覚えてない。

でもね、二つおもしい話があってだね。
主人公、なんかね、大人のおねーさん?おばはん?に連れられてあちこち回るの。そこで「ディストピア」っぽい下りがあって、そこは覚えてる。
まず1つ目はね、全自動医療。ガンも、白血病も、脳梗塞も、全部自動で治せる機械があるの。
なのに、一つだけ克服できない病があった。
何だと思う?「床ずれ」だって。
(でも正直、何とか出来そうではある)

もう一つ。かつての人類のエリートが、人類は進歩したからだめになったんだ、と主張する。そして閉じられたコロニーで暮らす。
そしたら、知能を完全になくして、お猿さんになって、オナニーで頭がいっぱいになってしまった。鉄道のガラス越しに、主人公にぴろんぴろんおちんちんを見せる。すえた臭いまでしそうないい(悪い)描写だったな。
(ここなんか「銀河鉄道999」っぽかった「見なさい鉄郎、あの人達は昔とても賢かったの、でもある日、自分たちの手で進歩をやめたわ」「どうしてだい、メーテル」)

上下巻ある小説を読めなくなって、はや何年
。昔の私はよく読んだと思う。
正直、けっこういい小説。少なくとも、記憶の限りでは。ただし娯楽小説としてだけど。

まあ、でももう、村上龍の小説は残らないかな。そんなに早く消えるのは悲しいけど、やっぱり色々欠けてるから、いい作品としての資質。読者は寄り道のなかに心の置きどころを見つけるものだし。
 
とはいえ、村上龍のグリップ能力が落ちているおかげもあってか、「歌うクジラ」かなり読みやすい。この人作品を締める力が強すぎて、いっつもあちこちの小さな花とか小鳥が窒息死しているから、このくらい年取ってヘロヘロになってからのほうが、かえってよかったかも。

本当の本当にどーっでもいい話なんだけどさ
彼が芥川賞選考委員のとき、柴崎友香の「春の庭」(日常系の作品)にケチつけてんだけど
理由が「アパートは、上から見ると“「”の形になっている」という文章で「感情移入がまったくできなくなってしまった。」
……そこ!?というね。あまりにも言ってることが意味不明で、逆に記憶に残った選評だった。


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