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紙芝居劇むすび 訪問レポート

大阪・西成・釜ヶ崎といわれるエリア。駅前の賑わいから商店街を歩くと、ここ数年再開発がすすむ地域を抜け、かつて日雇い労働の街と呼ばれたまちの姿がみえてきます。
この地域を拠点に活動する「紙芝居劇むすび」は、ユニークなレパートリーに、西成のおっちゃんたちが繰り広げる素朴な演技が話題沸騰中の紙芝居劇団です。今回は日頃から活動している拠点にお伺いしました。

釜ヶ崎の一角にある事務所。ここでむすびの活動がおこなわれている

朝にむすびの事務所にうかがうと、すでに美味しい料理の匂いが!メンバーの一人、ハルさんがお昼ごはんの仕込み中。聞こえるのはマネージャーの石橋さんを中心としたむすびメンバーのとりとめもない会話、つまり、雑談!少し緊張して入ったわたしたちも、すぐにそのゆるやかな雰囲気に巻き込まれていきました。ところで、紙芝居は・・・?

むすびのメンバーのみなさんとマネージャーの石橋さん(左から二人目)この時点では紙芝居の要素がゼロ・・・

マネージャーの石橋友美さんにむすびの活動の経緯をお聞きしました。
「この地域では、多くの人たちが野宿生活をしていました。不景気の影響でいわゆるホームレスの方も多かったのですが、時代が変わると背景もかわり、この地域に来る人たちもその理由や生活の仕方が変わってきました。肉体労働だけではなく、アート・演劇など文化的な仕事についていた人たちもいるなど、ここにくる人たちの背景も多様になってきたんです。むすびもそんな状況のなかで、18年前に活動がはじまりました。20年ほど前から、65歳以上の方は野宿ではなく屋根のある部屋で暮らそう、という支援が増えました。それと同時に、一人暮らしによって人とのつながりが分断され、孤独になる人たちが増える状況に。そんななか、とあるNPOが一人暮らしをしている人たちを支える活動を始め、さらにそこに集まったおじさんたちの意思で継続された活動がむすびです。西成ではこれまでにたくさんの支援の動きがありますが、人の世話にならない、自分たちで活動をしていくんだという、本人たち自らによる姿勢は、珍しかったと思います」

すでに活動当初から紙芝居をしていたというむすび。しかし、お話を聞くうちに必ずしも紙芝居をするということが活動の目的ではないことがわかりました。「結果的に高齢者が多かったということもあり、こうやって活動をすることで一人ひとりの安否確認ができるようになりました。そして、この場所もみんなでとりとめもない話をしたり、いっしょにご飯をたべたりと、まちのステーションとしての役割ができたように思います。地域の人たちもそういった光景をみて、意識が変わってきたのではないでしょうか」

紙芝居のレパートリー。それぞれの役割ごとにファイルが作られており、メンバーが入れ替わるごとに受け継がれていく

石橋さん自身も、就職氷河期に社会に出て、さまざまな活動をしながら、これからどう生きていこうかと悩んでいた時期。むすび立ち上げのNPOが活動をやめた時に、このまちでの存続を考えていたのがゲストハウスとカフェと庭cocoroomの上田假奈代さん。むすびに関わることが石橋さん自身のこれから生き方を考える機会になると、上田さんに縁を結んでいただいたそうです。こういった人のつながりが、継続したむすびの活動につながっているようです。

「むすびはわたし自身にとっても自立のプロジェクトだと当時のココルームのスタッフの方に言われて」と石橋さん

2ヶ月に一回発行しているという「むすび新聞」も、詩や俳句、メンバーの近況などが手書きで書かれた完全アナログ新聞。自分たちに無理のないペースでゆっくりと活動をするむすびがつくる不思議な雰囲気に、私たちも自然と巻き込まれていきました。

完全アナログな「むすび新聞」。メンバーの人柄がそのまま紙面に浮かぶ

参加しているメンバーもそれぞれのバックグラウンドがあります。94歳の長谷さんは最近ご自身がゲイであることをカミングアウトされ、ニュースにもなりました。自分自身の生き方を見せることで、地域の人たちも生きやすくなったのではないかと石橋さん。長谷さんはこの日、しきりに私たちにも紙芝居をしないのか、と勧めていて、むすびの今後を心配している様子も伝わってきました。

メンバーの長谷さん(右)とメリーさん(左)。その話術のペースに取材した私たちもはまり込んでいく

お隣にいるメリーさんはYouTuberです。もともとは撮影など裏方をしようと思っていたら、出演する側に。「私はセリフはダメ。その場でわかるけど、みんなと喋り方が違うのが自分でもわかる。そこをもうちょっと勉強したい。撮影しているときが一番楽しいかな」笑いながら本音も話すメリーさん。むすびメンバーにとって、癒しの力をもっているそうです。

雑談をしながらずっと料理を続けているハルさんは、もともと働いていたサウナで、フロントから厨房まで切り盛りをしていた経験がむすびの料理係に活かされています。「見よう見まねで、修行もしてないんですわ」とおっしゃっていましたが、メンバーの好き嫌いや体調も考えながら毎週メニューを考える姿から優しさが伝わってきました。

「演技するのが好き」というハルさん。雑談の合間にも鍋の様子を見にいく

浅田稔さんは石橋さんから「この方はもう、プロです」と評される表現力の持ち主。「もう10年近くになりますわ。当時、秋の文化祭で別の芝居を出していたら、むすびから助っ人を頼まれて。その次もまた助っ人。そしたらいつの間にかレギュラーになってましたわ」現在も他の劇団で座長をしていて、ひっぱりだこのようです。

浅田稔さん。やさしい人柄から一転、紙芝居では迫力の演技を見せてくれる

メンバーのみなさんお一人お一人のお話を聞いているだけでも時間が経ちそうだったのですが、やはり肝心の練習風景も見たい、ということで、11月18日(土)に実施していただく演目の話に。やはり代表作、むすびとして初めてつくったオリジナル作品である「文ちゃんの冥土めぐり」を上演することに。そうと決まったらすぐに練習!あっというまに机が舞台に早変わりしました。

誰がどの役をするかもその場で決めていく
紙芝居は18年前にペンキ職人だったメンバーがきれいに仕上げてくれた
主役の文ちゃんの衣装をつけて、役になりきる長谷さん
浅田さんの迫力のある演技に圧倒される

いざ紙芝居となると、それまでのゆるかった雰囲気が一転。それぞれの役割をしっかりと演じておられ、役にぴたりとハマり、ストーリーも絵柄にも引き込まれます。「もともとはゆるさが売りだったんです。たどたどしさ、不器用さがうけていたときもありました。でも演技指導をしない、その人の良さを引き出したい、型にはめない。その人らしさを追求していたら、こんなかたちになってきたんです」と石橋さん。年齢を重ねるからこそ生まれる唯一無二の表現や、普段からコミュニケーションをとることで「この人はここで間違えやすい」とメンバー同士がフォローしあったりする姿も。活動を拝見するなかで見えたのは、「関わる人たちみんなが自分らしくあること」ではないかと思いました。

練習終了後、ハルさんに振る舞っていただいたおいしいカレーを食べながら、また雑談に花を咲かせるむすびのみなさん。いつまでもいたくなる居心地の良さ。あくまで自然体を大事にしながら、一人ひとりを尊重する場所づくり、関係づくりをしているむすびの魅力を見た気がしました。

みんなで「いただきます」。食事を共ににすることで一体感がうまれる
ハルさん謹製のカレーはとても優しい味

ぜひ11月18日(土)の公演をお楽しみに!石橋さんからもむすびの活動をお話しいただきます。会場は大阪・肥後橋の近畿ろうきん肥後橋ビル。ぜひお越し下さい!

レポート:岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家)
撮影:衣笠名津美


【↓↓むすびの公演とお話が聞けます!↓↓】

エイブル・アートSDGsプロジェクト2023
LIFE IS ART 〜生きることは表現すること〜

■日時 2023年11月18日(土)
■場所 近畿ろうきん肥後橋ビル 12階メインホール(地下鉄四つ橋線「肥後橋駅」10番出口すぐ)
(〒550-0002 大阪府大阪市西区江戸堀1丁目12−1)
◼︎参加費:無料 要申込み(下記の申込方法をご覧ください)

展覧会・ストア/10:00 - 15:30
ワークショップ/10:00 - 11:30(受付 9:30-)
フォーラム/13:30 - 15:30(受付 13:00-)→むすび出演します!

超高齢化社会のただなかで、いつまでも元気でいたい、地域の人たちとつながりたい、誰かの役に立ちたいという人が増えています。
わたしたちが実現したいのは長い人生のどんな局面でもその人らしく生きられる、豊かな社会です。その豊かさをつくるひとつのヒントは、創造的な活動、アートやものづくりに関わることです。その人の存在の輝き、多くの人に届くアートの力が、経済的な発展だけはない、人々の精神の充足に欠かせません。
年を重ねていくこと、生きることと表現することのつながりについて一緒に考えたいと思います。
今回は、表現することをとおして、その人らしく生きる実践をしている事例を紹介します。
会場内では、展覧会やストアもオープン。関心のある部分に参加いただいても、通しての参加も大歓迎です。ぜひご来場ください!
 
◼︎内容
【ワークショップ】
「手が語る、わたしの人生の物語」
自分の手がこれまでに触れ、経験し、手に入れ、手放したことやもの。それらを言葉や身体で表現しましょう。演劇経験のない方大歓迎!
◎定員:15名
◎ファシリテーター:細見佳代、50歳からのハローシアターの俳優のみなさん)
 
【フォーラム】
「高齢化と表現を考える」
出演してくださる「紙芝居劇むすび」「50歳からのハローシアター」の取り組みから、そのヒントを議論します。フォーラム内では両団体の公演も行います。
◎定員:50名
◎登壇者:細見佳代(50歳からのハローシアター主宰)
石橋友美(紙芝居劇むすびマネージャー)
◎進行:岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家 常務理事)
※情報保証について フォーラムの開催中は会場内で字幕表示をします。
 
◼︎ワークショップ・フォーラム 申込方法:
こちらのフォームよりお申込みいただけます。
 
メール、電話、またはFAXにて
[お名前/所属(任意)/参加希望 プログラム(ワークショップ・フォーラム)]を
下記までお知らせください。
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一般財団法人たんぽぽの家(担当:岡部・中島)
Tel. 0742-43-7055 Fax.0742-49-5501
E-mail. ableart@popo.or.jp
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◎主催:近畿労働金庫  
◎企画・運営:一般財団法人たんぽぽの家
◎協力:NPO法人関西NGO協議会・きょうと障害者文化芸術推進機構 ART SPACE CO-JIN・(社福)わたぼうしの会
◎後援:大阪府・大阪市・(社福)大阪府社会福祉協議会・(社福)大阪市社会福祉協議会・(一社)大阪労働者福祉協議会・大阪府生活協同組合連合会・こくみん共済COOP(全労済)大阪推進本部
 
★詳細はこちらからご確認ください。

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