「有り難い」をおすそわけし、共に助け合う社会をつくる おてらおやつクラブ(奈良)
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「有り難い」をおすそわけし、共に助け合う社会をつくる おてらおやつクラブ(奈良)

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おてらおやつクラブは子どもの貧困の解消、ひとり親世帯の支援を目指し、お寺にお供えされる食べ物を必要な方へおすそわけする活動をしています。現在は困窮者支援にとどまらず、ひとり親、特に母子世帯でギリギリの状態で生活されている家庭のサポートを全国規模で広げていこうと、その体制や仕組みをアップデートしているそうです。今回は事務局を置く安養寺さんを訪れ、おてらおやつクラブを始めるに至った経緯から、コロナ以降の活動の変化や、活動の中で大切にしていることについて、代表の松島靖朗さんにお話を伺いました。

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▲奈良県磯城郡にある安養寺
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取材レポート

おてらおやつクラブの活動は、松島さんの個人的な事情と社会にある問題が重なったことから始まります。安養寺は松島さんのお母さんのご実家。一時期は故郷を離れ東京で働いていた松島さんですが、紆余曲折あり安養寺に戻って住職となりました。その時にお寺の抱える、ある問題に気づきます。それは食べきれないほど集まってくる「お供え」。とても有り難いことである一方、日々のお供えをどう無駄にしないようにするか考えることが、悩ましい問題でもあったと語ります。
そんな折、大阪で母子が餓死状態で見つかるという報道を目にした松島さんは、お寺に集まってくるお供えを届けることで力添えにならないかと、お供えのおさがりを箱に詰めて、母子家庭を支援する団体へ持ち込みました。これが、現在の「おすそわけ」の活動につながる最初の一歩となります。

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▲安養寺住職でもある、認定NPO法人おてらおやつクラブ代表理事の松島さん
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実際に行動してみて、一つのお寺が支援団体に持ち込むお供えだけでは状況を変えられないことがわかった松島さんは、周りのお寺さんにも活動の参加協力を仰ぎます。そして活動に参加するお寺さんの数が増えてきた段階で「おてらおやつクラブ」と名前を付け、仕組みを整えました。
基本の流れとしては、地域の檀家さんや一般の方から届いたお供えを、母子家庭を支援するNPO法人を通して子どもたちへ届ける、というもの。2021年9月現在で全国1658のお寺と、おすそわけを受け取ってくれる531の団体(母子家庭支援NPO法人や行政の窓口など)と連携しており、毎月2万人ほどの子どもたちがこの仕組みの下で「おすそわけ」を受け取っています。

日頃のお寺の業務と並行して、これだけの規模の活動をされるのは大変だろうと想像しますが、この活動は全国のお寺にお供えがあるから成り立つこと。活動の源泉であるお寺での住職の仕事と地続きでつながっているからこそ、連携する全国のお寺さんも参加しやすい形になっています。松島さんは、活動を広げ、維持していくためには、とにかくハードルを下げることが大事だと言います。なので、協力いただく方にも「普段やっていることを、できる時に、できる範囲で」と伝えているそうです。

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▲地域のみなさんが持ち寄られるお供えが、この活動の核となります。
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そしてまた、おてらおやつクラブのすごいところは宗派を超えてネットワークができている点です。松島さんの「二度と悲劇を起こしたくない」という思いがあり、その背景にある貧困問題を解決しようという目標をそれぞれのお寺が共有しているからこそ、結果的に、宗派関係なく手を取り合う状況ができている、と言います。それぞれのお寺ができることは小さくても、弱い存在が集まることで大きな力になるということを、この活動を通じて実感している、とも話されました。

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▲お寺の門前に必ずある掲示板を活動の啓発に使用。無理をせず、あるものをうまく利用して活動を広めることが重要なポイント。
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おてらおやつクラブは、基本的に支援団体の活動をサポートするような位置にいるのですが、地域の支援団体とつながっていない家庭も多く、おやつクラブの方へ直接「助けて」の声が届くこともあるそうです。これをおやつクラブでは「直接支援」と呼んでいます。コロナ禍以前は350世帯くらいだった直接支援の数は、現在2400世帯くらいまで増加しています。その理由は様々で、ひとり親家庭のお母さんの出勤日が減らされ勤務できなくなり、最終的には解雇になるといったことや、コロナ禍の影響で離婚調停が延期になり、ひとり親家庭になればもらえるはずの手当が受けられず、困窮しているようなこともあります。松島さんは、この一年半ほど毎日、事務局から直接「おすそわけ」を発送していると言います。段ボールには必ず2kgのお米とお菓子、マスクと消毒液など、今この時点で必要であろうものを詰めて送っているそうです。

さらに、コロナ禍で従来のやり方を変える大きな転換がありました。それは、実際に必要かどうかの審査などせず、「助けて」という声があれば無条件に「おすそわけ」を送るということです。生活に困窮している家庭が公助を受けようと手続き申請する際、自分の生活をさらけ出す苦痛を伴うにも関わらず、手続きには時間がかかり半年経たないと必要な助けが得られないのだそう。それでは全然間に合わないので、おやつクラブでは「助けて」と声を出したその勇気に対してすぐに「おすそわけ」を送っています。

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▲お寺にはお供えものとして色々な食べものが集まります。
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実際に「おすそわけ」を受け取った方からは、「半信半疑で連絡したらすぐに届いてびっくりした」という声や、「すぐに届いたこともですが何よりも子どもが笑顔になり、それを見てまた親が笑う」というような声が寄せられています。松島さんは、こういった反応から、食べもの以上のものを届けていることを実感しているそうです。また「おすそわけ」が届くことで、困りごとを一人で抱えている方も、「自分は一人じゃないと思える」と。これも、この事業の大事なポイントで、誰かわからないけど見守ってくれている人がいる、そういった孤立感の解消をスタートに、生活改善に向けて伴走していくことを、おやつクラブは目指しています。
ある男の子から届いたお礼のハガキの中には「和菓子はいいので、ポテトチップスを送ってほしい」という言葉があったことも。そういう反応があった時は、子どもが子どもらしくわがままを言えるように変わってきているのが実感でき、この活動の社会に対してのインパクトを感じる、と松島さんは語ります。自分自身おさがりで育った松島さんは、お供えものの和菓子でなくポテトチップスがいいという、この子の気持ちがよくわかるといいます。おさがりで育てていただいた有り難さをお寺の中に止めるのでなく、今、生活に苦しむ家庭の子どもたちにも体験してもらいたい、と松島さんは考えています。

サポートを必要とする人たちのために活動を継続していけるよう、そして目標とする、貧困問題を解決し地域の見守りを作ることに向けて、常に仕組みを改善していく工夫をされていることも、お話からうかがえます。
NPO法人化したことについても、松島さんは、活動を広げてより多くの人に関わってもらうための大きな一手であったと言います。みなさんから預かったお金を自分たちがしっかり使えているかを公開することになるので、結果的に僧侶としてどう振る舞うべきか、というところまで意識せざるを得ない状況に向き合わされることが、活動としていい方向に働いているようです。

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▲活動を広めるための啓発活動も積極的に行う松島さん。活動紹介のプレゼンテーションもとてもわかりやすく作られています。
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そして今、おやつクラブの仕組みで大きく変えようとしているのが、配送システムです。コロナ以降急増した、おやつクラブに直接届く「助けて」の声。それとともに受けざるを得ないのが個人情報です。受け取った個人情報は外に出せないので、奈良の事務局からしか「おすそわけ」を送ることができない状況がありました。松島さんは色々と可能性を探った末に、匿名配送システムを作りました。このシステムを使うと、お寺はどこに送っているかわからないけれど「おすそわけ」を送ることができ、受け取る家庭は、おやつクラブ事務局から届いた荷物としてそれを受け取ることができます。事務局の負担が少なくなることはもちろんですが、匿名であることの効用を、松島さんはこのように語ります。
「どうしても支援する側は、何かしたことに対して反応を知らず知らずのうちに期待しがちになってしまいますが、匿名で送るということは、自分が何かをした、というのをわからなくする。まさにお布施をする、執着を手放すことの実践です。」
協力いただくお寺さんに対しては、これも修行の一環と捉えて参加していただければ、という気持ちがそこにあるようです。
また、受け取る親御さんは貧困を抱えていることを周りの誰かに知られたくない。だから匿名性が確保されていることで「助けて」を言いやすくなるということがあります。
その考え方は、おてらおやつクラブのロゴに集約されています。「真ん中の子どもには手を差し伸べる誰かがいるけれども顔がない。誰かわからないけれど支えてもらっている、と子どもは感じている。しかし、いつ私たちが真ん中の顔になるかもわからない。助ける側の顔を描かないことで誰もが誰かを支える『共に助け合う』社会をつくっていくことにつなげていけたら。」と活動を通じてその解釈を深められたようです。

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▲おてらおやつクラブのロゴ
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「せっかくお坊さんになったのだから、何かいいことをしたい」それくらいの気持ちで始めた活動だと松島さんは言いますが、子どもの貧困の解消のために今できることを常に模索し、ネットワークをつないで動きを広げていく。その結果、「おすそわけ」が宗教や地域、世代といった属性をも超えて、人と人がつながるきっかけにもなっているような印象を受けます。お話を伺い、地域住民の生活文化をつなぐものとして存在するお寺の、現代の形がそこにあるような気がしました。

写真:衣笠 名津美

《団体情報》認定NPO法人おてらおやつクラブ
代表:松島 靖朗(まつしま・せいろう)
所在地:奈良県磯城郡
https://otera-oyatsu.club/
子どもへの貧困問題の解決を目指して、全国のお寺や支援団体と連携し、お寺の「おそなえ」を経済的に困難な家庭へ「おすそわけ」する活動を展開している。2017年8月に特定非営利活動法人として法人化。活動趣旨に賛同する全国のお寺や支援団体、行政と連携し、地域の見守りの環境をつくっており、その仕組みが評価され、2018年グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を受賞。「おすそわけ」事業のほか、貧困問題の啓発、学習支援や居場所作りなど経済的に困窮する家庭の子どもたちに対して文化的な機会を提供する活動も行う。


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