『生きていくうえで、かけがえのないこと』

2017年の日記

『生きていくうえで、かけがえのないこと』吉村萬壱著 読了

彼の初のエッセイ集。
といっても僕にはトーンとして小説と同じだと感じられた。
仮に、底に流れるいくつかの原則をあげるなら、
解決することよりも見ること。
人智をこえたものにおいそれと言及しないこと。
予定調和を拒否すること。
もういくつかある気もするが、この三つだけでもたぶん十分だ。
これは文学の姿勢としてきわめて、まっとうだ。
そしてこのまっとうな態度を堅持するとき、そこにあるのは基本的には「絶望」だ。(まあ、この言葉もまた、おいそれと結論のように言ってしまう筋合いのものではないが・・・。(^_^;
浄土教的にいえば、これは機の深信に立ち尽くし、法の深信がその底を破って立ち上がる前のその一瞬の、あるかなきかの間隙だ。
ここに彼は立ち続ける。
これを読むのは、マニアか、真の探求者か、個人的な知己か。
たぶん「大衆」というものは、このようなものを好んで読もうとはしない。
彼が自分で、自分にはミリオンセラーはムリであると言っているのはゆえんのあることだ。
言ってみれば、私の嫌いなニューエイジ思想とは
「人智を超えたものによって、予定調和的に、よく見ないうちに解決すること」だ。
つまり彼の文学の正反対をいくものだ。
そしてそれこそが「大衆」の心をつかむだろう。
これまでもこれからも。
そして宗教というものは、そのように「ニューエイジ風に」堕落することによってだけ、広がりを持つものだろう。
これまでもこれからも。
だが、もちろん、私は人智を超えたものなどないと言っているのではない。
むしろ、すべては人智を超えていると言っているという方が近い。

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