魂の螺旋ダンス 改訂増補版(10) 死と再生の三態 日本神話は存在するか

・ 「死と再生」の三態

文化人類学の隆盛と共に、世界各地の精神文化の「象徴的な構造」を比較する研究は、大変盛んになった。しかし、各種の精神文化の構造的類似性だけに着目することは、またある種の危険性もともなう。

たとえば「死と再生」という非常に基本的なタームを持ってきてみよう。

先住民文化に見られる通過儀礼(前章で見たスゥェット・ロッジ、ヴィジョン・クエストなど)に、「死と再生」の構造が見られることは明らかである。
心身の限界に近い極限的な状態の中で、個々の参加者は、古い自分を脱ぎ捨て、何らかのヴィジョンを得て、新しい自分に生まれかわる。

一方、大嘗祭における天皇霊の継承にも、「死と再生」の構造は見られる。
大嘗祭の秘儀の詳細は不明であるが、新天皇は、真床覆衾(『日本書紀』にニニギが天高原よりこれにくるまって降臨したとある)にくるまって模擬的に死に、天皇霊を付着させて再生すると考えられている。

また他方、十字架上のイエスの死と三日後の復活にも「死と再生」の構造は見られることは誰の目にも明らかである。
その類似性だけを見ると、古いシャーマニズム的な構造が、一貫していると見ることも可能であるのがわかるだろう。

歴史的な発展モデルを用いない構造主義的な観点からは、この三つは相対的な文化の違いとして、等価値に並べることもできる。

だが、背後の社会的文脈を見る時、この三つの「死と再生」は明らかに異なる思想性を有している。

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