仏教余話

その197
さて、ここで、ついでに、原始仏教に対する幅広い視点も紹介しておこう。よく、沙門空海とか沙門道元というように僧侶を沙門と呼ぶことがある。沙門とはsramana(シュラマナ)の音写語で、動詞sram「努力する」「刻苦する」にちなんだ言葉で、宗教修行者を意味する。仏教の開祖ブッダも沙門ゴータマなどと呼ばれたりする。では、原始仏教にも存在するこの沙門という言葉は、一体、どのような意味合いのある言葉なのであろうか?高木訷元博士は、この言葉について、こう述べている。
 バラモンの宗教が祭祀を行う在家主義の立場であったのに対して、沙門も宗教は祭祀とのかかわりを有しない出家至上主義の立場にあったこと。バラモンの祭祀にとって、最も重要な要素は神々を讃えるマントラ(mantra)および神々への供物であるということ。しかもバラモンの祭祀から沙門は追放されたということ等々である。それは、沙門と呼ばれる宗教者がバラモンの伝統的宗教とはまったく領域を異にし、ヴェーダの伝統には属していないことを示している。(高木訷元「沙門の宗教」『初期仏教の研究 高木訷元著作集3』平成3年所収、p.8)
伝統的・正統的な宗教グーループであるバラモンと対立する、別の宗教グーループが、沙門なのである。


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