日本人の宗教観ーある観点ー

その6
最後に、現代芸術と本覚思想との関わりを示す話を紹介しておきましょう。川端(かわばた)康(やす)成(なり)(1899-1972)は、ノーベル文学賞を受賞した昭和の作家です。その記念講演で、川端は、日本文化の根底には、本覚思想があることをうかがわせる話をしました。田村芳郎博士は、その様子を以下のように伝えます。
 川端康成がスウェーデンで「美しい日本の私」という題のもとにノーベル文学賞受賞の記念講演を行ったとき、冒頭に道元(1200-1253)の次のような歌を取りあげた。すなわち、
  春は花、夏ほととぎす、秋は月、冬雪さえて冷(すず)しかりけり
 という歌である。川端は、この道元の歌を最初にかかげながら、美しい自然の日本に生まれた自己の喜びを語った。ところで、道元のこの歌は、「本来(ほんらい)面目(のめんもく)」ということについてよまれたものである。本来の面目とは絶対的な悟りの境地を問うたもので、それにたいし、道元は春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)の自然の風光(ふうこう)であると答えたのである。ここに、日本的な趣(おもむき)が感ぜられるという。…その道元の『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』に…たとえば「仏性(ぶっしょう)」の巻には、「山河(さんが)大地(だいち)、みな仏性(ぶっしょう)海(かい)なり」「山河をみるは仏性をみるなり」という句が存する。(田村芳郎仏教学論集 第1巻『本覚思想論』,pp.475-476、ルビ私、1部標記変更)
もう解説の必要もないでしょう。最後にあえて付け加えておきます。ここでは、本覚思想のプラス面を、主に述べてきました。しかし、現実肯定主義のあまり、差別さえも肯定してしまうマイナス面もあります。その点は忘れないで下さい。

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