因明(インド論理学)

Tattvasamgraha(タットヴァ・サングラハ)・Tattvasamgrahapanjika(タットヴァ・サングラハ・パンジカー)についてー仏教論理学の一断面―
その1
 一般に『摂真実論』『摂真実論難語釈』あるいは『真理綱要』『真理綱要難語釈』と和訳される書物は、8世紀頃のインドで著されたとされる。著者は、Santaraksita(シャーンタラクシタ、寂護)、Kamalasila(カマラシーラ、蓮華戒)という名の当時のインド仏教を代表する学僧2人である。シャーンタラクシタが、詩句を書き、それを『摂真実論』または『真理綱要』という。それに直弟子のカマラシーラが注を付けたものを『摂真実論難語釈』もしくは『真理綱要難語釈』と呼ぶ。この両人は、インド仏教の総本山ともいうべきナーランダー寺院で、学頭を勤めていたといわれる。また、チベットにインド仏教を導入する際に、尽力をつくしたことでも知られる。本書は、8世紀頃のインド思想界を知る上で、極めて重要なものである。論は多岐に渡り、あたかも『インド思想百科全書』の観を呈する。論述形式は、始めに批判相手の思想を提示し(purva-paksa,前主張)、後にそれを逐一批判していく(uttara-paksa,後主張)というものである。この書物を紹介することで、インド思想に親しむきっかけとして欲しい。
この書が、現学界で、有名になったのは、原典出版があったからである。先ずは、その様子から話を始めよう。『真理綱要』の出版の最初は、1926年、Baroda(バローダ)にて、Gaekward’s Oriental Series(ゲイクワーズ オリエンタル シリーズ)No.30としての2巻本である。出版者は、E.Krishnamacharya(クリシュナムアチャルヤ)である。1984年に再版された。私の所有は再版本である。そこには、B.Bhattachryya(バッタチヤルヤ)による長い序文が付されている。序文には、著者シャーンタラクシタの来歴や『真理綱要』に引用されるインド哲学者の紹介、本論の要約等が示されている。序文の1部を以下に紹介しておこう。まず、冒頭ではこう述べられている。
シャーンタラクシタの『真理綱要』カマラシーラの注付が、今、オリジナルのサンスクリット語で初めて公となった。〔本書は〕間違いなく、ゲークワーズ オリエンタル シリーズで出版された最重要著書の1つである。『真理綱要』は、論理学に関する著書と称してよいだろう。それは、純然たる理性である論理学の助けを借りて、大乗仏教の立場から、インドで当時流行したあらゆる哲学体系や概念を批判しようとしたのである。批判された体系および、引用された人物の多様性は、本出版をサンスクリット文献学史に多大な貢献をなすものとする。

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