仏教豆知識

その5
では、マインドフルネスの日本での状況はどうでしょうか。藤井氏は、このように語っています。
 日本においても米国と同様、ベトナムやスリランカの仏教の紹介から医療との結びつき、大衆化という道のりをたどっていると考えられるが…独自の反応も見られる。それは既成の宗教実践とマインドフルネスの「合流」である。…これを主導しているのは1980年代から90年代にかけてのニューサイエンスの興隆の際に宗教と科学の接点を探求してきた人物である。…〔例えば〕日蓮宗(にちれんしゅう)の遠壽院(えんじゅいん)で荒行(あらぎょう)を行うとともに玉光(たまひかり)神社(じんじゃ)の本山博に学んだ景山教授は、『天台(てんだい)小止観(しょうしかん)』に基づく身体技法を考案しており、「近代注目を集めている心理療法のマインドフルネスも、『天台小止観』の記述そのもの」と述べている。…〔一方〕、伝統仏教の間では…曹洞宗(そうとうしゅう)、〔臨済宗(りんざいしゅう)の〕白隠(はくいん)禅(ぜん)、真言(しんごん)密教(みっきょう)などとマインドフルネスとの比較が行われているが、そこではこれらの伝統とマインドフルネスの差異が強調される傾向にある。(藤井修平「マインドフルネスの由来と展開―現代における仏教と心理学の結びつきの例として」『中央学術研究所紀要』46,2017,p.71、ルビ・〔 〕私)
日本では、宗教によって、マインドフルネスに対する反応が異なるようです。上の文は、仏教に詳しくない人には、少々、わかりにくい言葉が出てきますので、解説を加えておきましょう。まず、『天台小止観』というのは、天台宗という宗派で重んじられる仏教書です。もともとは、中国の智顗(ちぎ)(538-597)という学僧に帰せられる書物です。「止観」とは、瞑想の1種と理解して下さい。要は、天台宗の瞑想マニュアル本のことです。曹洞宗は、道元(どうげん)(1200-1253)に始まる禅の1派です。次の臨済宗というのは、別の禅の1派です。その中興(ちゅうこう)の祖(そ)といわれているのが、白隠(1686-1769)です。真言密教とは、一般的に、高野山(こうやさん)にある弘法大師(こうぼうだいし)、空海(くうかい)(774-835)の真言宗のことと理解して下さい。

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