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本日公開!伝説の怪奇ドラマ『キングダム』完結編のための手引き

パルム・ドール作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』をはじめ『奇跡の海』『ドッグヴィル』『アンチクライスト』『ニンフォマニアック』『ハウス・ジャック・ビルト』など、数々の問題作を手がけてきた鬼才、ラース・フォン・トリアー監督。今や世界的巨匠となったトリアー監督が、1994〜1997年に母国デンマークで手がけた伝説のテレビドラマ、それが『キングダム』です。
主要俳優の急死によって制作続行が不可能となり、未完のまま封印されてしまったシリーズの、25年越し「まさかの」完結編が本日、日本にて世界初の劇場公開となります。

王国と呼ばれる国立病院を舞台に展開する、ホラー、人間ドラマ、ブラックコメディ、オカルト……幾多のジャンルや要素のごった煮のような唯一無二の世界観。全編セピア色調の独特な質感で描かれる、エキセントリックすぎる登場人物、秀逸かつカオスなストーリー展開は、世界中の映画ファンから熱狂的な支持を集め、監督の最高傑作として挙げられることも少なくありません。
デンマーク放映時には視聴率50%超を記録、人気絶頂での制作中止など、数々の伝説を持つ『キングダム』ですが、過去シリーズは国内においてフィジカル/配信ともに視聴困難な状況。今回の完結編シリーズ『エクソダス《脱出》』公開に合わせて、そのデジタル修復版が一部劇場で公開されますが、新シリーズに比べれば劇場も期間もかなり限られた興行になると予想されます。

そこで「とりあえず新シリーズから楽しみたい」という方のために、過去作から新シリーズ鑑賞の手助けになる(であろう)要点を抽出した手引きを作りました。噂によれば新シリーズは「初心者でも楽しめる内容」らしく、加えて以下の情報をひとまず知識として踏まえておけば、きっと『キングダム』ベテラン勢にも負けず劣らず、楽しめるはずです。あるいは、これを読んで『キングダム』の世界に魅了されてしまったら、過去シリーズもぜひ劇場で。このまたとない機会に、王国病院の25年におよぶ「破滅への物語」をスクリーンで満喫しましょう。


あらすじ

とある洗濯池の跡地に建てられたデンマーク国立病院、通称キングダム。近代医学を信奉する医師たちの王国は、あらゆる霊的存在をこの地から排斥した。しかし彼らの知らぬところで、静かに沼地の湿気がよみがえり、死者たちの「扉」が開かれようとしていたのだった……。

キングダムⅠ (1994)

母国スウェーデンから「王国」に左遷されたヘルマー医師。デンマーク人の医師たちを蔑みながら、ある手術中に犯した医療ミスの証拠をもみ消そうと奔走する彼をはじめ、悪霊の子供を妊娠してしまった女医、研究のサンプル欲しさに自分に腫瘍を移植しようとする外科医など、どこか尋常でない医師たちの思惑が交錯する。そんなある日、降霊術が趣味の老夫人・ドルッセが、仮病を使った25回目の入院で遂に少女の霊と遭遇。そしてこの事件が、王国全体を大きく揺るがすことになる。

キングダムⅡ (1997)

医師たちの協力を得て、ドルッセ夫人は少女・マリーを昇天させることに成功。しかし、王国に取り憑いていたのはマリーの怨念だけではなかった。その時、ドルッセ夫人を悲運の出来事が襲う。手術患者の家族から裁判の可能性まで示され、いよいよ追い詰められていくヘルマー医師。堕胎処置も空しく悪霊の子=フレデリックが誕生してしまい、母となった女医ユディットは苦悩する。やがて王国の近辺に謎の悪魔崇拝組織の存在が判明、悪霊を呼び寄せたのは彼らであり、王国内にも組織の一員が潜んでいることが発覚する……。

キングダム エクソダス《脱出》 (2022)

前シリーズから25年。自宅で『キングダムⅡ』のDVDを観終えた夢遊病者の老婦人カレンは「結末が無いじゃない」とため息をつき、眠りにつく。そしてその夜「リトル・ブラザー(=フレデリック)が溺れている」という啓示を受けた彼女は、そのまま家の外へ。停まっていたタクシーはカレンを乗せると一路、現実のデンマーク国立病院へと向かった……。
一方、スウェーデンから王国に派遣されたヘルマー・ジュニア医師は、デンマーク人の医師たちを蔑みながら、謎の死を遂げた父の秘密を探るべく奔走する。


主要キャラクター(新シリーズ続投)

過去作に登場した主要キャラクターから、新シリーズにも続投出演する登場人物たちをピックアップしました。彼らのストーリーについては、今回のシリーズでも触れられること間違いなしと思われます。また新シリーズでは彼らに加え、多くの新たな登場人物が登場、王国の物語を紡いでいくことになります。

ユディット・ピーターセン

医師。悪霊・オーエと恋人関係になり、彼の子供であるフレデリックを出産してしまう。異形のフレデリックを一度は拒絶したものの、彼の純真な心に母性を呼び起こされた彼女は、母として彼を育てることを決意。しかし、自身が悪しき存在であることを悟った彼自身の「自分を殺してほしい」という言葉に動揺する。苦悩の末に彼女が出した答えは……。

ヨルゲン・クロウスホイ

医師。王国地下に自らの秘密部屋を設けており、王国内での備品の流通を牛耳っている。ユディットとは恋仲で『キングダムⅠ』ではフレデリックの妊娠に悩む彼女を献身的に支えた。ヘルマーの医療ミスの証拠を掴んだために彼から毒殺されかけたが、火葬中に蘇生。だがそのショックで人格が豹変、冷酷かつ残虐な性格となってしまう。ある夜、王国内に電源を供給する基盤室を訪れた彼は……。

リーモア・モーテンセン

医師。勝ち気な性格で、王国内で唯一のヘルマーの理解者。しかし、海外旅行の約束を反故にされ、彼女を置き去りにデンマークを発った彼に激怒。自分を捨てたヘルマーに対して復讐の鬼と化した『キングダムⅡ』では、卓越した拳銃の腕前とともににヘルマーを追い詰め、さらに医療ミスの証拠文書まで手に入れてしまった。

モーテン・モッゲ・モースゴー

医学生で、モースゴー医師長の自慢の息子。睡眠研究室に勤めるカミラに想いを寄せ、気を引こうと自分そっくりの解剖用遺体の頭部をプレゼントするという奇行に走り、かえって怒りを買う。その後は研究の被験者となって彼女に接近、そのうち研究室にいた医学生ゲルダと惹かれ合い、口述試験も担当者のヘルマーをスウェーデンでの論文盗作の件で強請り合格、ふたりは結ばれるように思われたが……。

カミラ

女医。治験などを行う睡眠研究室で勤めている。しつこく迫るモッゲを初めは拒絶していたが、被験者となって通うようになった彼を次第に受け入れ始める。悪魔崇拝者を探していたドルッセ夫人が何気なく持ち掛けた連想ゲームで、悪魔の名「ベルゼブブ」に対し、彼女が口にした言葉は……。

ボブ

病院長。厚生大臣の視察に付き添い、王国をアピールしようとするが、彼自身も知り得なかった院内の異様な実態が露呈、大失敗に終わる。それ以降も、病院長としてのプライドも空しく、王国のさまざまな奇々怪々に翻弄されることとなる。

モナ・ジャンセン

ヘルマー医師が施した脳手術によって、重度の意識障害を負ってしまった少女。だが、文字の書かれた積み木で文章を作るなど次第に意識が戻り始め、ついに言葉を発するまでに回復。彼女が「ヘルマー」と口にしたのを目の当たりにして、告発を恐れたヘルマーはモナを病室から誘拐、ある場所に隠そうとしたのだが……。

フレデリック(リトル・ブラザー)

ユディットと悪霊・オーエの間に生まれた子供。オーエの娘・マリーの弟にあたる存在であるため、自分をリトル・ブラザー(=弟)と呼ぶ。妊娠時から異常なスピードでの発育をみせ、出産から数日で2メートル以上の巨体に成長、骨で支えきれない体となってしまう。自らが悪霊の子であり、悪しき存在であることを自覚した彼は、母ユディットに自分を殺すことを懇願する……。

主要キャラクター(過去シリーズ)

主要キャラクター、こちらは演じたキャストが亡くなっている/新シリーズへの登場が確認できない登場人物たちです。登場することはなくても、ストーリーに関わってくるエピソードがあるかもしれません。

スティーグ・ヘルマー

スウェーデン人の医師。傲慢かつ嫌味な性格で、他のデンマーク人の医師や職員たちを事あるごとに揶揄している。王国への左遷のきっかけとなった論文盗作事件の釈明、そしてモナへの手術における医療ミスの証拠隠蔽に追われている。

ペーレ・ボンド

医師。悪性腫瘍の研究に取り組んでおり、どうしてもサンプルを手に入れたい腫瘍を発見するも患者の家族は解剖を拒否、その結果、自分の体に腫瘍を移植してサンプルを取るという常軌を逸した行動に出る。しかし、手術は失敗。腫瘍は体内に残ってしまい、緊急のドナーが必要に。異母兄弟が見つかったと報せを受け、自身のような知的な人物を期待した彼の前に現れたのは、用務員のブルダーだった。

ドルッセ夫人

降霊術が趣味の老婦人。王国での霊との接触に奔走しており、仮病を使い続けてすでに25回の入院をしている。念願叶って少女・マリーの霊と遭遇、彼女を昇天させることに成功したものの、王国の呪いを解くことは出来なかった。やがて、王国の近辺に悪魔を崇拝する謎の組織施設を発見、そして王国内にも悪魔崇拝者が潜んでいることを突き止め……。

ブルダー・ドルッセ

用務員でありドルッセ夫人の息子。王国の内情を知る者として、事あるごとに夫人の探索に付き合わされる。ボンド医師のドナー捜索において、彼と異母兄弟であることが発覚。ドナー提供者としてボンドとともに移植手術を受けるが、まさにその夜、クロウスホイが王国の電源盤を……。

アイナー・モースゴー

医師長。しかし、院内で交錯する医師たちの思惑や怪奇現象などにはまったく関心がなく、院内の空気を明るくするべく自らが考案した「朝の空気運動」の促進ばかりに熱心。厚生大臣の視察が失敗したことから自信を失い『キングダムⅡ』では王国地下で行われている名物カウンセリングに仕事そっちのけで没頭した。

ゲルダ

医学生。外科医志望だが解剖が苦手で、カミラの睡眠研究室へ異動する。研究室では、なんとか耐性をつけようとひたすらスプラッター映画を観ており、そのせいで被験者のモッゲは毎回悪夢を見ている。

クリスチャン

医学生。ゲルダに想いを寄せるが「平凡な男」と相手にしてもらえない。一念発起した彼は、王国で密かに行われている、救急車に乗って病院までの公道を逆走する賭博レースにドライバーとして参戦。ある夜のレース、彼は後部座席に見知らぬ老人の姿を見る。死神、と名乗る老人に気を取られたその時、前方からモッゲとゲルダの乗った車が……。

オーエ・クルーガー

王国の設立者。自身の不倫を隠蔽するため、私生児であるマリーを誘拐して院内に監禁、病死に見せかけて殺害した。死後、彼は悪霊となってユディットに接近、彼女にフレデリック(リトル・ブラザー)を妊娠させた。


今年の夏はラース・フォン・トリアー

今回の『エクソダス《脱出》』公開を記念して、全国の映画館にて『レトロスペクティヴ ラース・フォン・トリアー 2023』と銘打ったトリアー監督の一大回顧上映が開催中です。現在鑑賞困難の初期作『エレメント・オブ・クライム』『エピデミック〜伝染病』から、代表作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグヴィル』の最新レストア版、日本初公開『ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦』『ボス・オブ・イット・オール』など、貴重なフィルモグラフィーが揃い踏み。シリーズ一挙公開の『キングダム』と合わせて、今年の夏はラース・フォン・トリアー作品で盛り上がりましょう。

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