僕たちの酒vol.2

さてさて、前回では僕たちの酒の生まれた背景とvol.1の説明をしていました。

今回はvol.2の説明です。
vol.2もvol.1同様H29BYのメンバーで造ったお酒です。
ラベルはこんな感じ。

僕たちの酒vol.2ラベル

もう今見直すと恥ずかしいですね(笑)


vol.1の記事でも書いた通り、このH29BYのチャレンジが生酛造りでした。vol.2ではそんエッジをより聞かせたのコンセプトである為、蔵人たちも全員変顔でラベルに登場しました。
また、想いやこだわり、阿部酒造として伝えたい事もvol.2はより強いものとなっています。


エッジのかかり具合 

このvol.2のお酒のスペックは

●コイン精米機で磨いたお米を使用したこと
●原料に食べる用のお米(いわゆる飯米、以下飯米と記載)を使っていること
●生酛(キモト)造りであること

この3点が当時の当社にとっては本当に造りが大変なスペックでした。何が造りにおいて大変なのか、書いていきます。(一部HPの情報から抜粋してきています)

コイン精米というとんでもない磨きに関して

一番初めのコイン精米機でえ精米をしたという点がこの酒造りの一番の難しさです。皆さんコイン精米機ってご存知ですか?

田舎がある方であれば、わかるかと思います。スーパーの駐車場の端っこなどに鎮座しているこういうものです。

画像2

名前の通り硬貨(コイン)を入れて玄米を精米する機械です。通常酒蔵で使用するお米は精米を行い、米の外側を磨き落として何%か残した状態で酒造りを行います。30%磨き落として70%残っている状態で酒を仕込めば、精米歩合70%という表記です。

磨かないお米は発酵の管理や味わいへの影響も大きく、いい酒を造るのであればお米をたくさん磨いて使用する、ということが一般的な酒造りではセオリーです。磨き落として酒造りをするわけなので、同じ量の酒を造るにしても大量のお米を使用することとなり、磨いたお米は原材料コストがかかります。

つまり、磨けば磨くだけ高価な価格帯になってくるお酒が多いです。

ですが、お米が磨かないお酒は原材料コストの関係上必ずしも安い価格帯という考えになるかというとそんなことはない、と当社は考えます。

磨かないお米を使ったお酒(低精白と以下記載します)は磨いたお米の酒とは別の部分で苦労が出てきます。

どんな点かと言えば、
○液体 ( 酒 ) になる量が極端に少ない 
 →精米歩合が80%を超えてくると、お米が溶けなくなってきます。つまりは酒にならず酒粕になってしまうのです。

○味ノリが悪い
  →お米が溶けないということは、酒に味が乗らず薄っぺらい印象な酒になります。なので、工夫をした酒造りが必要です。

○油分があること
  →お米には外側に油分があります。低精白ではこの油分が残っている為、低精白で造った麹室、布は、タンク、搾り機まで油分まみれになります。そのため、前後は手間をかけて徹底的に機械の洗浄を行います。

○超低温で仕込みを行わなければいけないこと
 →通常当社で酒を仕込む場合は吟醸造りで10-12 度。低精白のお米を使用して仕込んだお酒は米の外側にある米の栄養分が残ったままとなります。( 食べる場合は旨味に、酒の場合は雑味の原因 ) この栄養分は清酒酵母の大好物であり、超低温に仕込みを行い、酵母の活性にブレーキをかけながら酒造りを行わないと短期間で酒になってしまいます。( 短期間で酒になった場合、薄っぺらい酒になります)


こんな苦労だらけの酒をなぜ僕たちの酒のvol.2に選んだかというと、答えは蔵人のそれぞれ抱える想いがあります。

ここまでして大変な酒造りを行った理由

○お酒の高付加価値の基準を増やしたい / 変えたい / 問いたいから
 酒に対しての高付加価値の定義が” お米を磨く” というイメージが強い中で、 超低精白も造り手の手間の結晶です。それを伝えることで、高付加価値の価値感の幅が増えたらと思い造りました。

○米どころ新潟が抱える問題
 一般的に米の価格は
食用米 < 酒造好適米(酒造り用のお米)構図が

新潟県では食べるお米のブランド力が強くあり
食用米 > 酒造好適米という状態です。

このような構図だと酒米の確保を新規で増やすことがなかなか難しい分です。また、県内の酒造好適米のダブつき、契約酒米を収めていた農家が軒並み作る数量を落とし、酒米育成意欲低が低下し、酒米の新規作付けがあまり上手くいかない、という新潟ならではの環境要因もあります。

そういった背景から酒米が足らなくなる時代が新潟はいつ来てもおかしくないと考えています。( これを当社は将来的に酒米を自社で造ることで補う事も検討中です。その話はまた別で ) そんな時代が来るとなれば、食用米での酒造りの腕を酒蔵として高めておくことはこのエリアでは必要と考え” 食用米” で挑戦をしました。

○蔵人穴見峻平のやりたいこと
 蔵人の穴見峻平は将来イタリアで酒造りをするチャレンジングな人間です。 イタリアにはリゾット用米などはあれど、高度に磨く精米機はイタリアには存在せず、90%精米しか行うことができないんだそう。

さらに90%精米の酒はレシピもさることながら、すべての工程で通常の酒造りと違ったことを行います。絶対に日本でその経験を積むべきだと考え、90%精米のチェレンジを当社として考えチャレンジしました。

○精米も自分達でという蔵人達の声
 このお酒は H29BY の最後の仕込であり、1年限定の蔵人熊谷今井の両名と話をし精米もやってみたいと言う声がありました。阿部酒造には精米機が無いため、自分達で精米をする場合は、コイン精米機(90%-92%精米)のみしか選択肢はなく、届いた玄米をピストンで 3-4 袋 ずつ、地元の人たちに混ざってコイン精米機に入れ精米を行いました。

蔵人矢島の想い

蔵人矢島は柏崎の限界集落” 小清水” 地域でカフェを経営しています。 今彼は、小清水地域を盛り上げようと様々な取り組みを行っており、地域をより活気づけるためにも今年から地域で米作りをはじめました。同時に彼の娘さんにも自分たちで住む地域のお米を食べてもらいたかったそうです。食べるには食用米が適し、酒造りでは酒造好適米が最適です。二人で話合い、” こしいぶき” は食用米でありながら酒造適性は悪くないという中で、このお酒は” こしいぶき” (食用米)で仕込むこととしました。
さらに彼の住む地域の” 小清水” 名前からして水の質が悪いわけがない。集落の人が使う山からの湧き水を使って酒造りのスターターである酒母を造っています。


と、お米を磨かないお酒の製造がいかに難しいか伝わったこと思います。
このお酒を機に阿部酒造では低精白もたくさん仕込みを行うようになりました。次回も僕たちの酒に関して記事を書こうと思います。

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