『罪悪缶』(BFC3落選作)

 はい! 今回オススメいたしますのが、文武技術省推薦のメンタルヘルスケアグッズ『罪悪缶』でございます。一見、普通の缶詰に見えますが、ただの缶詰ではありません。

 今では新聞記事にもならないほど身近になってしまった「いじめ」、いやですねぇ。いじめを苦にして自殺、なんてこともごく日常的に起きていますが、この自殺者、実はいじめの被害者だけではないってご存知でしたか?

 こちらのグラフをご覧ください。いじめが原因とされる自殺者のうち、文武技術省の統計によると、なんと23.3%はいじめの被害者本人ではなく、被害者の友人なんです。

 なぜ、彼ら自身がいじめにあっていないのに、自殺という悲しい選択をしてしまったのか。それは罪悪感からなんですね。

 彼らは、親友がいじめられている様子を見ながら「もし助けに入れば、次は自分が標的に」「あいつのあの顔は助けに来るなといっているに違いない」そんな考えから、ついつい見て見ぬ振りをしてしまいます。その結果、自分もいじめに加担したと思い込み、親友を救えなかった罪悪感に苛まされて、自ら命を絶ってしまうのです。

 そこで、この『罪悪缶』の登場です!

「見捨ててしまった」「助けられなかった」そう思った瞬間、口からこぼれるため息をこの缶の中へ吹き込んでください。すると、突然あら不思議。気分はすっきり、心晴れ晴れ。胸に重くのしかかっていた罪悪感がすっかりさっぱり消え去ってしまいます。『罪悪缶』はあなたの罪悪感を引き受けます。閉じ込めた罪悪感は二度と『罪悪缶』の中から出てきません。あとは不燃ごみと一緒に捨てるだけ。

 これであなたもあなたの友達も、日々苛まされる罪悪感に背中を押され、ビルの谷間にダイビング、なんてことはなくなります!

 さあ、楽しく愉快な青春時代を、みんなで一緒に過ごしましょう!

 そしてなんと! 今すぐお申込みいただけますと、お値段変わらず『罪悪缶』がもう一つ! 文武技術省のお墨付きです。是非、今すぐのお電話お待ちしております!

「オッケーでーす! さすがね。あんな訳分かんない商品、よく売り込めるわ」
「ま、それが仕事だからな。でも、ありゃ売れないぜ、自殺予防って重すぎるよ、内容が」
「元々はもっと重いわよ。当初は死刑執行官とか政府軍に配給されるために開発されたシロモノらしいわ」
「そのあたりだったら、まあ分かるか。絞首台のボタンを押すにも、銃の引き金を引くにも、罪悪感は相当だろうしな。それがなんでこんな場末の通販番組で投げ売りされることになっちゃったんだい?」
「必要なかったんだって。罪悪感のため息なんて全然出てこなかったらしいわ、その方々。そのかわり『罪悪缶』の姉妹品が配給されてるって噂よ」
「なんだい、その姉妹品ってのは?」
「なんでも『優越缶』っていうらしいんだけど……」「それアウトだろ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?