コラム:3バックとカルチョの関連性
ツイッターID:【@Ryu87249996】さんに『イタリアに3バックを採用してるクラブが多い理由や考察をしてくれ』と依頼があったので私なりの意見を述べたいと思う。RyuさんはAS ローマに関するブログを執筆しているので興味がある方は下のリンクへどうぞ。
日頃からセリエAを見ている人なら、3バックを採用するチームの多さに薄々感じていたであろう。しかしあくまで直感であって、データとして確実なモノがある訳ではないので、リーガとプレミア、ブンデスに3バック採用チームがどのくらいあるのか調べてみた。
まずはリーガ。エルチェ、ヘタフェは3バックを主流にして戦っているようだ。私が見た試合ではアトレティコ・マドリーも3バックを採用していたが、あくまでオプションのひとつだと認識している。
続いてプレミア。スパーズ、チェルシーはここ数年3-5-2あるいは3-4-2-1がメイン。メガクラブキラーと名高いブレントフォードも3バックでプレー。ダムスゴー、ヒッキー、ストラコシャなどカルチョファン馴染みの名前も。
そしてブンデス。ユニオン、フライブルグ、ブレーメン、フランクフルト、ホッフェンハイム、マインツ、アウクスブルクの7チームが3バックを採用。ブンデスも意外と3バックのチームが多いことがわかったが、今回の趣旨とは外れるのであまり深く考えないようにする。
セリエAは逆に4バックをメインに戦うチームを挙げる方が早い。今シーズンここまで一貫して4バックを採用してきたのがナポリ、ミラン、ラツィオ、フィオレンティーナ、エンポリ、サッスオーロ、レッチェの7チームのみ。その他の13チームが3バックを主体として戦っているのだ。(アタランタやボローニャは最近は4バックでキックオフを迎える試合もあるが)
4バックを採用するチームの特徴を見ていくと、自らが能動的にボールを動かして崩していくスタイルのチームが多い。昇格組のレッチェはアンカーであるヒュルマンドがいるorいないで戦い方が全く変わってしまうチームだが、ヒュルマンドがピッチに立っている時は、比較的ボールを持とうとする意識はあると思う。(それでも保持率はリーグ最下位だが)
4バックのCB間にアンカーの選手が入って、ボール保持時のみ3バックでビルドアップするチームはさほど珍しくない。そういうチームも守備時には、アンカーの選手は最終ラインの前に構えてフィルター役を務めることがほとんどだと思う。
それの派生系。アンカー+2CBの形をボール保持時ではなく非保持時にも形成しているのがイタリアでのトレンドなのでは…というのが私の考えだ。例を出すとスペツィアのヤクブ・キヴィオル。スペツィアは昨季4-3-3をメインに戦っており、キヴィオルはアンカーを主に務めた。それが今季はゴッティ監督就任に伴い、3-5-2へシステムチェンジ。キヴィオルはアンカーではなく3バックの中央にコンバートされた。もともと散らし役をしていただけあって、プレス耐性は非常に高く、パス出し出来る左利きのCBとして評価を上げた。ローマのブライアン・クリスタンテ、ボローニャのガリー・メデル、ジェノア時代のイヴァン・ラドヴァノヴィッチも本職はボランチの選手ながら3バックを採用するチームにおいてはリベロというタスクを任されている。(クリスタンテはボランチと3バックの中央どちらでもプレー)
では、3バックの中央に純粋なディフェンダーではなく、本職がアンカーの選手を置くメリットはなんだろうか?上記に記載したメデル以外の共通点は、190cm級の身長とCBが務まるだけの強靭なフィジカルを兼ね備え、ある程度パスを散らせる能力があること。そして“静的”なアンカーであることだ。だからロカテッリやロヴェッラ、アムラバトが3バックの中央でプレーすることは、保持時は可能でも、非保持時は不可能。彼らはキヴィオル、クリスタンテらと比べても高いボールスキルと、広大なスペースを動き回る“動的”なアンカーだ。中盤でプレーしている時もどっしり構えて守るタイプの静的アンカーとはプレースタイルが異なる。ロカテッリに度々メッザーラ適性論が提唱されるのも、トランジョン能力に優れているからだろう。このような選手は最終ラインに吸収されるよりは一列前でプレーするのが理に適っている。身体能力的にCBでプレー出来ないのは当然として。
話を戻して3バックの中央にアンカーを配置するメリットについて話そう。基本的にはパス出し性能を買われてリベロを任されているので、相手のプレスに動じずにビルドアップすることを容易にするためだ。レオナルド・ボヌッチが3バックの中央の選手として世界トップクラスの評価を得ているのも、この能力がズバ抜けて高いからだろう。
プレス耐性が高く、相手の1stディフェンダーを引き付けながらパスのタイミングを窺える選手が最終ラインにいるといないでは、ハーフウェーラインを超える成功率に差が出る。全てのチームのCBにプレス耐性がある訳ではなく、CBのパス出し性能に不安があるチームは、技術の高い選手を最終ラインに吸収させてビルドアップを行う方が合理的だ。
プレス耐性の高いCBが多いであろうリーガやプレミアでは、わざわざアンカーが降りてこなくてもビルドアップが成立するので3バックを形成せずに済んでいるのではないか。セリエAのチームでもパス出し性能の高い本職のCBが在籍しているナポリやフィオレンティーナ、サッスオーロなんかは4バックでスムーズにビルドアップが出来る。セリエAで4バック主体で戦うチームにポジション志向のチームが多いのはそのためだろう。
しかし、3バックのチーム全てが本職アンカーに3バックの中央をやらせているのかという訳ではない。ボール保持に重きを置かないエラス・ヴェローナやサレルニターナは、純粋なディフェンダーを3枚並べているし、ユヴェントスは3バックの左右に対角線にパスを出せて、ボールを運べるダニーロとアレックス・サンドロを配置することで、パス出し性能がそこまで高くないブレーメルの弱点を補っている。
ユーヴェのように本職SBの選手が3バックの左右でプレイすることは世界的にも珍しくはなく、インテルのダンブロージオやトリノのリカルド・ロドリゲスはその代表例とも言えるだろう。特にイタリアではCBとSBどちらでもプレー出来る能力が他国と比べても必要・重宝される傾向にあると思う。アレッサンドロ・バストーニ(インテル)、ラファエル・トロイ(アタランタ)、ニコロ・カサーレ(ラツィオ)はCBとSB両方の資質を持った選手だ。
キエッリーニ、ボヌッチ、バルザーリで形成されたBBCが近年のセリエA最強の守備ユニットであれたのも、3バックの左右でプレーするキエッリーニとバルザーリがCBとSB両方の資質を持っていたからなのではないかと思う。
セリエAの各チームに独自のビルドアップ方法があり、4バックであろうと3バックであろうと、どのようにボールを動かしてゴールに迫るかは大きなテーマとなっている。ゴールキックの段階から前線に向かってドカ蹴りをするチームはごく僅かだ。各チームの陣容を知り、監督の志向するスタイルを知ることで、セリエAの試合を見ることがより面白くなるに違いない。ひとりでも多く、カルチョの魅力に気付いてくれたら何よりの幸いである。
(了)