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北村英哉・唐沢穣編 『偏見や差別はなぜ起こる?』

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社会心理学者が偏見や差別が生まれる心理メカニズムを解説し、現実の諸問題に適用した最新の成果とアプローチを紹介する一冊

普段は小説やノンフィクションしか読まないのだけれど、最近自分が思っていることが、知らず知らずのうちに差別的な考えになっているんじゃないかと不安に感じることがあって、それならば、何が差別で何がそうででないのか専門家に聞いてみよう、と思いたって図書館から借りてきた

「ステレオタイプ」=集団によく見られる性質を、集団に属する個々のメンバーにも当てはめること
「偏見」=「ステレオタイプ」によって、好き、嫌い、不安、恐怖などの感情を持つこと
「差別」=「偏見」をもとに行動し、相手に不利益をもたらすこと
きちんとした定義に基づくと、自分が感じている不安や避けたいと思う感情が偏見なのか、正当なものなのか見分けがつく

ステレオタイプな認識による行動は、必ずしもマイナス面ばかりではない。
「子どもは無鉄砲」というステレオタイプによって、路上で子どもが遊んでいるのを見ると、飛び出すんじゃないかという危険予知が働き、咄嗟に子どもの飛び出しを防ぐことができる場合もある。
人が動物として備えている生存本能は「得体の知れない」未知のものには恐怖と不安を感じるようにできている。

分かり易い解説に、なるほど、と思いながらも、こういう偏見や差別にいかに人がたやすく陥ってしまって、しかも、本人がそれに気づいてすらいない、というのが怖い

ステレオタイプを元にした発言は色んな場面で目にするけど、問題となるようなケースでも、本人は、そういうつもりはなかった、という無自覚なものが目につく

そういうつもりで言ったのだったら完全にクレイジーだし、つもりがあろうがなかろうが、それを言っちゃあダメだろう、とは思うものの、この無自覚な偏見や認知バイアスは、あたかも、その人がそれをずっと前から求めていたかのように、驚くほどするっと人の心に滑り込んでくる

コンパクトな中に、基本的なメカニズムから最新の成果まで幅広く取り扱っていて、偏見や差別の問題を概観するのにぴったり

在日コリアンへのヘイトクライム、外国人労働者受け入れを巡る議論、ロシア人へのSNS上の「帰れ」発言、LGBTQ+に対する偏見、など何かと話題になる中、きちんとした自分なりの線引きができる物差しを持つことはとても大事なこと

ステレオタイプや偏見は(ある意味で)人に必要なバリアには違いない。
だから、道義的な「偏見や差別はなくしましょう」というスローガンだけで解決できる問題ではない。

自分の心の働きを知ることは、同時に他人の心の働きを想像することに繋がる。そこに解決の手懸りがあるように思える

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