日記 2023.3.21

真鶴2日目。フラグを回収することはなく、6時に起きて原稿を書く。8時までに書き終えた自分はえらいと思う。日中は暑いくらいだったが、明け方は少し寒かった。
朝食は近くのベーカリー「秋日和」さんのパンと、コーヒー焙煎所「Watermark」さんのコーヒー。とてもおいしかった。ミルを挽いてコーヒーを淹れる時間の穏やかさがよかった。真鶴出版の方ともいろいろとお話をした。共通の知り合いなどもいて、いろいろと嬉しい時間だった。

真鶴出版に宿泊するときの特徴に2時間ほどのレクチャーとまちあるきの実施があり、10時からそれが始まった。真鶴といえば90年代に制定された「美の基準」で、大学院でまちづくりを勉強するなかで耳にしたり、そのモデルとされたアレグザンダーの「パタン・ランゲージ」は作品制作の元ネタにしたこともあったが、詳しくは知らなかったのでとても勉強になった。旅行というより半分仕事や研究モードだったが、旅行客らしくあることを求められないかんじが終始心地よかった。背戸道を中心としたこのまちなみの形成過程も気になるし、こうしたまちなみのなかでどういう生活やコミュニケーションが育まれているのかも気になる。
道中のお話が、知識と生活実感にまたがっていることも面白かった。仕事と生活を分離させない(できない)環境だということは、大変な面もあると思うけれど、健康的なかんじもする。

まちあるきの途中で出会った地元の方のお家に招かれる。なんとなく「くらしチャレンジ」をつくっているときのことを思い出す。まちで出会った誘いには全部乗っていくかんじ。いろいろなひとの視点を乗り移りながらまちを見ていくようでもある。
お昼は駅前の福寿司。とてもおいしかった。

午後は、昨日自転車で周囲を回ったお林のなかを歩くことにする。歩いて向かうと日が暮れてしまうので、バスに乗っていった。こうしておおみち通りを何度も繰り返し歩く。GPSのロガーを起動させていたらそのあたりが濃く描かれるだろう。
バスで中川一政美術館までいき、そこからお林に入る。まちなかにあったら御神木と呼ばれるような巨木ばかりが生えている。日は届かないが背が高いので、圧迫感はそこまで感じない。手つかずの森ではなく、発端は人為的に植林された森ということもあり、木の種類は限られている。都市公園の木ではなく、いわゆる原生林でもない。人間と自然の共同作業でできたものという印象があった。

お林を抜け、歩いて港のほうに帰る。昨日は磯が輝いていた琴ヶ浜も今日は曇りで、満潮で、知っている相模湾の顔をしていた。釣りをしているひとたちも何組かいた。
その足で港のすこし上にある草柳商店という酒屋に立ち寄る。角打ちができることで一種のサロンのようになっている、地域のコミュニティ拠点のような酒屋だった。お店の主人に、お店が紹介された雑誌記事などたくさん見せてもらう。「初めて来たようなかんじがしない」と言われるが、こちらもそう思っていた。真鶴の土地柄なのか、自分たちの状態によるものなのか、相性か。

しばらくいろいろなお話を聞かせていただき、駅前の富士食堂で夕食。こういう血の通った大衆酒場が好きだ。大きすぎなくて、うるさすぎないところもいい。うるさい場所はそれだけで体力を持ってかれるようで、徐々に苦手になってきた。
天ぷらも、刺し身も、おにぎりもおいしかった。「真鶴出版に泊まっているひと?だと思った」といわれる。雰囲気でわかるとのこと。自分たちの風体がそんなかんじなのか、このまちにいるとそう見えるのか。それほどに真鶴出版が地域に日常の風景として溶け込んでいることも感じた。

宿に帰って、しばらく一階の蔵書を物色する。いわゆるローカルやリノベーション関係の本やZINEがたくさんある。真鶴関係も。こうやって揃っている様子を見ると一種の共通の文体のようなものもあるように感じて、かえってここにないものが気になる。例えば、この場所の本棚にひろゆきの本が入っていたら浮いて見えるはずだ。本棚にはその人の向いている方向性が浮かび上がる。だからそこがハマると心地良い。でも一方で、世の中の文体はそれだけじゃないということを、心地よい分やたら考えてしまう。森に囲まれた場所で生まれて暮らしているとこれが世界だと思ってしまうが、世界のある場所は海辺で、ある場所は砂漠で、そうしてそれぞれの場所で所与の世界観はかたちづくられる。本の場合はある点で所与ではなく選択で、能動性をともなうから、いっそうそのラインナップとのあいだに強い結びつきが生まれるような気もする。だけど、本棚は基本的に仲間を呼び集めて増殖していく。その数が増えたからといってより世界を理解していけるわけではない。10冊の本棚も500冊の本棚も、たとえば10億のなかでは大差がないように。なんとなくそういうことを考えつつ、東京での暮らしのことを思った。

1時頃就寝。

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