Green Haze

  ※初出/『群像』2020年1月号

 きみはジャイル・ボルソナロという男のことをご存じだろうか。
 彼はきみたちの時代の大統領だ。もとい、きみたちの時代の大統領のひとりだ。
 ジャイル・ボルソナロはブラジル連邦共和国の第三八代大統領だ。もしもそんな名前は初耳だというのなら、きみたちの時代に生まれたよちよち歩きのAIアシスタントにでも訊ねてみるといい。こんな説明が見つかりました、などと、たどたどしい物言いでひとことことわり、今わたしが話しているのとおなじような内容をきみに伝えるだろう。照会先が一緒なのだからそれは当然の話だ。
 ジャイル・ボルソナロは「ブラジルのトランプ」とか「ブラジルのドゥテルテ」なる異名を持つ男だと照会先では紹介されている。「トランプ」と「ドゥテルテ」は、いずれもひとしくきみたちの時代の大統領だからおそらくどちらも一度は耳にしたことのある名前だろう。とりわけ「トランプ」のほうはもとより著名な実業家であり、その時代、世界にあまたのセンセーショナルな話題を提供している大国アメリカの大統領だから、きみもよくご存じなのではないかと推察する。
 ボルソナロにとってそのふたりは同時代の大統領仲間だ。もっとも、彼らは同職者だからみんなお仲間なんだと言っているわけじゃない。それぞれに攻撃的かつ扇情的であり、殊に差別的で極右的だったりもする発言で知られる過激な国家元首、という点でこの三名は似た者どうしと見られ同類のグループに入れられているのだとわたしは認識している。
 きみたちの時代では彼らをポピュリスト政治家と呼んでひとくくりにしていることもわたしは知っている。大衆迎合的な政治姿勢において三者は共通しているという見方のようだが、そうした認識の是非を論ずることじたいはわたしの使命ではない。あるいはポピュリスト政治家の台頭は、きみたちの時代の世界的トレンドを形成したと言われているが、それについてもここではあえて問うまい。
 ただし、そんなきみたち世代の愚劣きわまる選択が、のちの世界にとって多くの問題をもたらすことになる無慈悲な現実だけは思い知るべきだ。きみたち世代の滑稽なまでのふしだらが招いた度しがたい不始末のおかげで、わたしはこの過酷な任務に長らく従事させられ一日たりともやすまず働いており、もう何年ものあいだ愛する家族とも会えず子どもたちの声を聞くことすらかなわない。そういう人間がやがて何人もあらわれることになるのだと、今のうちから頭にたたきこんでおくといい。
 いずれにせよ、ここで問題視したいのはジャイル・ボルソナロだ。彼が大統領職をつとめる国はブラジルだが、ブラジルといえばサンバミュージックなのだと、きみなんかは主張したいところかもしれない。記録上、きみはしょっちゅうサンバミュージックをかけていることがわたしにはわかっている。おおかたそれは同居人かだれかの趣味なんだろうが、何度もその曲調に触れているうちにいつしかきみ自身も好むようになったんじゃないかとわたしは推しはかっているよ。
 しかしわたし自身は、ブラジルといえばアマゾンだと言いたい。そういう種類の話をわたしはするつもりでいることをどうかきみにはただちに理解してほしい。そして誤解しないでほしいのだが、この場合のアマゾンというのはきみたちの時代の代表的なeコマースサイトのほうではない。あらかじめ釘を刺しておかないと、きみなどは特に勘ちがいしかねないから念のため断言しておくが、当のアマゾンはブラジル、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、ガイアナといった南米大陸の国々を流れる世界最長最大級の河川とその流域一帯のほうを指している。
 二〇一九年八月、そのアマゾン川流域にひろがる世界最大の熱帯雨林がこの年「記録的ペースで焼失」しているというおそるべき事態を世界中の報道機関がたてつづけに報じていたことは、きみたちの時代の重大トピックのひとつだったのだからよくご存じと思われる。まんがいちそれをご存じないのであれば、恥をしのんで今すぐサーチエンジンに頼ることを強くお勧めする。
 またそれらのニュースにおいて、ブラジル大統領たるジャイル・ボルソナロは主要な登場人物のひとりとなっていたわけだが、一連の報道を善悪のドラマに見たてて配役を考えてみれば、彼に割りあてられるべき役柄が悪玉のほかにないのは明らかだ。本人の腹づもりがどうであれ、ジャイル・ボルソナロが悪党視されるのはなんの意外性もないどころか至極当然の話であると、わたしのような任務についている立場の人間は明言できる。たとえそうでなくとも、「あなたをレイプしないのは、その価値がないからだ」などと平気で口走るような男が善玉であるはずがないのはきみも即同意することだろう。
 二〇一九年八月の時点で指摘されていた、アマゾン炎上という事態の深刻度を振りかえっておくために、きみたちの時代のネットワークに流れた民衆の悲鳴をここで引用してみよう。

 ツイッター(Twitter)上では、世界最大の熱帯雨林であるアマゾンの一部に広がる火災を写したとされる写真が拡散。ハッシュタグ「#PrayforAmazonas(アマゾナスに祈りを)」は24万9000回ツイートされ、21日の世界トレンド1位となっている。あるツイッターユーザーは「私たちがどれほど成功しようと、地球が死ねば、私たちも皆死ぬ」と投稿した。

 これはAFPという報道機関が二〇一九年八月二二日木曜日に配信した記事からの抜粋だ。「私たちがどれほど成功しようと」というのはおそらく経済成長の追求による世界の繁栄を指している。生活がどんなにゆたかになっても住環境を失えばそれでなにもかもおしまい、この世の終わりというわけだ。ちなみに、「世界最大の熱帯雨林であるアマゾンの一部に広がる火災を写したとされる写真」のなかには、別の場所や過去に撮られたニセモノがいくつもまぎれこんでいた事実も当時すでに報じられているが、かような虚実の混沌を意図的に生みだす行為はのちの世界できびしく罰せられることになるので心しておくようにとわたしはきみにも伝えておきたい。
 さらに別の悲鳴も紹介しておこう。きみたちの時代の大統領を、ここにもうひとり呼びださなければならない。ジャイル・ボルソナロが悪玉だとすれば彼は善玉だ――この割りふりに異論がある向きもあろうが、二〇一九年のアマゾン熱帯雨林大規模火災をめぐる報道においてはそういう配役にならざるをえないので不満を持つ連中は耐えるしかないだろう。

 マクロン氏は「まさに、私たちの家が燃えている。地球上の酸素の20%を放出する肺であるアマゾンの熱帯雨林が、燃えている。これは国際的な危機だ。G7サミットの参加国へ、2日後にまずはこの緊急事態について議論しよう」とつづっていた。

 これまたAFPという報道機関が二〇一九年八月二三日金曜日に配信した記事からの抜粋である。「マクロン氏」というのは、第二五代フランス共和国大統領エマニュエル・マクロンを指している。フランス史上最年少の三九歳で大統領職についた彼は、どうやらなかなかのやり手ではあるらしく、宣言どおりにG7サミットで当の問題をとりあげ、消火活動への緊急支援として二〇〇〇万ドルを拠出することの合意を即座にとりつけている。
 若いやり手の善玉からの申し出に対し、口ぎたない悪玉がどう応答したのかをきみはご存じだろうか。ジャイル・ボルソナロのリアクションはおなじ記事のなかに書いてある。それはこういうものだ。

 ボルソナロ氏はツイッター(Twitter)で、「当事者諸国の参加なしにG7がアマゾンの問題を議論するというフランス大統領の提案は、21世紀にはそぐわない植民地主義者の思考を想起させる」と非難。

 さらにボルソナロ氏は、マクロン氏がブラジルや他の中南米地域諸国の国内問題を個人的な政治的利益のために利用していると述べ、同氏の論調は「扇情主義的」だと批判した。

 これに加え、ジャイル・ボルソナロはG7からの支援金の受けとりじたいを拒否しているのだが、彼はその際、いやみなフレンチくそ野郎のほどこしなど受けてたまるかとでもいうかのごとく、善玉の神経を逆なでする挑発を言いそえることも忘れていない。またもやAFPという報道機関が二〇一九年八月二八日水曜日に配信した記事によれば、エマニュエル・マクロンが「侮辱を撤回」しなければG7からの「支援を協議」することはないなどと、逆に受諾の「条件」を提示してきたのだ。

 ボルソナロ氏は首都ブラジリアで記者団に対し、「マクロン氏は私に対する侮辱を撤回しなければならない」と明言。「フランスからのものを協議したり受け入れたりするには、彼は可能な限りの善意を持ってこれらの言葉を撤回しなければならない。そこからわれわれは話し合える」と述べた。

 しかし「侮辱」をまきちらしているのはむしろボルソナロのほうである事実も、おなじ記事のなかでしっかりと報じられているわけだから、この差別主義者のたわごとを真に受ける者は国内の支持者をのぞけばきわめてかぎられているはずである。

 またマクロン氏は26日、自身の妻ブリジット(Brigitte Macron)夫人がボルソナロ氏の妻ミシェル(Michelle Bolsonaro)夫人ほど魅力的でないことをほのめかすフェイスブック(Facebook)投稿に対し、ボルソナロ氏が個人的な賛同の意を示したことを受け、「極めて無礼」と非難していた。

 同日に配信された時事ドットコムニュースの記事には、「その後会見した大統領報道官は『政府は国際機関や外国からの支援金を受け入れる。ただし、われわれが管理する』と強調。ブラジル側が使い道を決めることを受け入れ条件とした」とあり、さらに五日後に配信された産経ニュースの記事には「一方でボルソナロ氏は、自身に友好的な国からの支援の受け入れには前向きだ。ロイターなどによると、英国から1000万ポンド(約13億円)の支援を受けたほか、消火活動のため航空機を提供するというチリ、イスラエルの申し出を受け入れた」とあるので、善玉のほどこしもありがたくちょうだいしたのかと思いきや、実際はそうはなっていない。
 アマゾン熱帯雨林大規模火災じたいがその後どうなったのかは、二〇一九年一一月一九日火曜日に配信されたCNNの記事を見てみるといい。そこにはまず、「南米ブラジルでアマゾン熱帯雨林の破壊が加速し、11年ぶりのペースになっていることが19日までにわかった」と書かれている。具体的には、「『法定アマゾン地域』の9州で今年7月までの1年間に失われた森林の面積は約9762平方キロと、前年同期を29.5%も上回り、2008年以降で最も高い率となった」というのである。
 当のデータは「ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)が、人工衛星による森林破壊監視プロジェクトの観測結果として発表した」とあるから、それは「当事者諸国」のうちの一国が調べた結果にほかならず、「植民地主義者」が「個人的な政治的利益のために利用」するためにでっちあげた情報ではありえない。加えて同記事では、善玉のほどこしをめぐる顚末もさりげなく紹介されている。

ブラジルで今年1月に就任したボルソナーロ大統領は森林保護に消極的な姿勢で知られ、8月には主要7カ国(G7)が申し出た森林火災対策への支援を拒否した。

 ブラジルの環境保護団体「オブセルバトリオ・ド・クリマ(気候監視団)」は、「アマゾン熱帯雨林の破壊が加速し、11年ぶりのペースになっている」とされるデータについて、「ボルソナーロ氏の政策が直接もたらした結果だと述べた」という。同団体がそう主張するのは、ジャイル・ボルソナロが「森林保護に消極的な姿勢で知られ」ている大統領だからであり、「選挙戦ではアマゾンの経済的潜在力を生かして景気を回復させると公約していた」(二〇一九年八月二二日木曜日CNN配信)ためだ。
 ついでにあらためて、八月二二日配信のAFP記事に目を向けてみれば、世界自然保護基金が「森林火災が今年急増した原因がアマゾンでの森林伐採の加速にあると批判」した際、ボルソナロは「『こういったNGOが私とブラジル政府に対して人目を引き付けるために行った犯罪行為』が森林火災の原因かもしれないと指摘した」というのだから、盗人たけだけしいにもほどがある。さすがにここまできてしまえばもう、この男につける薬はないと言わざるをえないときみにも理解できるだろう。
 ともあれ、ここらでひとつ公平を期しておくのもまあ悪くはない。そのほうがこちらの言い分の信憑性も増すであろうとわたしは見とおしているのだが、しかしジャイル・ボルソナロのアマゾン森林火災対策について肯定的に語りうる事実なんてものが果たしてあるのだろうか。もちろん、一貫して悪玉たるふるまいを変えていないからといって、大統領ボルソナロが消火に必要な措置をなんら講じなかったわけではない。それはきみにも伝えておかなければならない。八月二四日土曜日配信のAFPの記事を見てみよう。

 ブラジルのジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領は23日、アマゾン(Amazon)の熱帯雨林で拡大している火災の消火活動のために軍を派遣することを承認した。アマゾンの火災に対しては世界中で非難の声が高まっており、抗議活動が起きている他、欧州と南米諸国との大規模な貿易協定を脅かしている。

 とはいえだ、この記事でも示唆されているとおり当の措置は、アマゾン熱帯雨林の保護が目的であるよりもむしろ、「世界中で非難の声が高まっており、抗議活動が起きている他、欧州と南米諸国との大規模な貿易協定を脅かしている」という政治的炎上《﹅﹅﹅﹅﹅》の鎮火のほうをこそ重視した対応だろう。そのように見る向きは少なくなく、おなじく八月二四日配信の朝日新聞デジタルの記事にはこんな指摘がある。

 ボルソナーロ氏が今回打ち出した軍による消火活動や違法伐採の監視は、国際社会との対立や緊張を和らげるのが目的だ。だが、ボルソナーロ氏の考えが変わったわけではなく、アマゾンの環境保護に本気で取り組むとは思えない。

 むろんのことわたしは、きみたちの時代の国際社会がジャイル・ボルソナロという男がとってきた一連のなめくさった態度にいきどおり、批判の集中砲火を浴びせたりブラジル産品の不買運動をおこなったりしていた事実も承知してはいる。
 だが、そうした国際社会の正論も、ブラジルの国内に入ればおおきな反発の火種にしかならないというのがまたこの問題をなおさらに厄介なものにしている。たとえば、二〇一九年八月三一日土曜日に配信されたロイターの記事は、当時のブラジルの国内状況についてこんなふうに報じている。

ロビイストでブラジル政府の元通商担当高官だったウェルバー・バラル氏は、「アマゾンの支配権を外国人に奪われかねないとのボルソナロ氏のナショナリズム的思考のために、皮肉にも、森林火災は同氏の支持率を上げたかもしれない」と述べた。

ブラジル国民の多くは、アマゾンには金からニオブに至る膨大な鉱物資源が眠っており、それらが諸外国から狙われていると信じている。

この考え方はブラジル軍部でも根強く、アマゾンでの外国人のいかなる役割に対しても、たとえ環境や先住民族を保護しようとする非政府組織の活動であっても、疑心を生む結果になっている。

 ほんまかいなと、きみは疑問に思うかもしれない。ほんまやで、とわたしはそれに応ずるだろう。別の記事でとりあげられた「ブラジル国民」の声を次に紹介しておこう。二〇一九年九月一六日月曜日に配信された「先住民の土地に侵入し森林破壊、アマゾンのカウボーイ ブラジル」というAFPの記事だ。そこでは、ブラジルのロンドニア州モンテネグロという町での話として、こんな住民模様がレポートされている。

 この地域は保守的な田舎町で、ボルソナロ氏の地盤となっている。住民は「牛肉、聖書、銃弾」の頭文字を示す「BBB」と呼ばれる層に属している。農業関連産業、キリスト教福音派、銃支持ロビー団体というこれら三つの強力な利益団体が、ボルソナロ氏を権力の座に押し上げるのに一役買ってきた。

 環境保護団体らは、よそ者に対し横柄で用心深い土地所有者が公有地や先住民居住区に損害を与えており、アマゾンで進む破壊の責任の一端を担っていると非難している。

 だが、土地所有者らは、先住民の土地との境界線は守っており、自分たちには土地を開発する権利があり、農業の発展がブラジル経済にとって重要だと主張している。

■「アマゾンはわれわれのもの」

 自分が育てた牛を売り込むためにロデオに来ていたある農場主は、個人的な意見だとしながら、森の木を伐採し、木や土地を売っているのは先住民自身だと語った。

 また、メディアは森林火災の拡大を大げさに伝えていると主張する土地所有者もいる。彼らはエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)仏大統領が先月、アマゾン熱帯雨林の保護を「国際化しよう」と呼び掛けたことをあざ笑っている。

 ある土地所有者はこう言った。「アマゾンはわれわれのものだ。マクロンにそう伝えろ!」

 気候変動問題におびえる国際社会などくそくらえというわけだ。既得権なるものはどうしようもなく人類を意固地で利己的にしてしまうという典型例にほかなるまいが、とはいえ彼ら地域住民もまあ生活がかかっているのでみずからの意思では簡単に土地開発や金もうけをあきらめる気にはなるまいと、一〇〇〇〇歩ゆずっておもんぱかることもできなくはない。が、ガイアシンフォニーの破局的フィナーレにつながるであろう森林火災をほったらかしにするのもいとわない行政府の長たる者の暴挙やら愚挙やらを黙って見のがすわけにゆかないことは、きみもただちに同意してくれるにちがいないとわたしは確信している。
 むろん最も望ましい展開は、ジャイル・ボルソナロを翻意させ、アマゾンの環境保護に全力かつ持続的にとりくむための国際的な体制づくりを推進させることだろう。気候変動問題の解決に積極的な役割を果たす国際協調主義者に生まれ変わったボルソナロ2.0を、わたしもひと目くらいは見てみたかったと思う。
 しかしそれはどだい無理な話なのだ。あの男の意志をひるがえさせられる見こみはほとんどない。アマゾン熱帯雨林の火災や破壊に対するブラジル国内の風むきが変わらぬかぎり、その可能性は実質ゼロなのである。
 二〇一九年九月二四日火曜日の国連総会での演説において、ジャイル・ボルソナロがどんなことを語ったのかきみはご存じだろうか。もちろんその戦慄的内容も当時いっせいに報道機関各社が報じている。ここではロイターが配信した記事を引用しよう。

ブラジルのボルソナロ大統領は24日、国連で演説し、アマゾンの火災を巡ってメディアは「うそをついている」と糾弾するとともに、アマゾンに対する国際社会の懸念については、生物多様性や鉱物資源への関心にあおられているなどとして非難した。

前日の気候行動サミットを欠席した大統領は、国連総会演説を活用し、アマゾンの60%以上を占める同国の主権を再度強調した。

大統領は、「アマゾンは世界遺産の一部と言うことも、科学者たちが断言しているように、わが国の熱帯雨林が地球の肺だと言うことも誤りだ」と主張。年間のこの時期には乾燥した天候で自然発火や違法な放火による火災が発生しやすく、熱帯雨林は「うそつきメディアが言うように」焼失してはいないと述べた。

大統領は、道路建設や、先住民居留地への農業・工業拡大など、アマゾン開発を計画している。

 これらの発言を耳にすれば、まだ崩壊がはじまったばかりのきみたちの時代においても、みずから直接に手をくだしてくず野郎の暴挙やら愚挙やらを終わらせようとするのは決してあやまりじゃないし至極まっとうな行為ですらあると考える人間が大勢あらわれることだろう。きみたちの時代にも見どころのある人材が少なからず潜在し遍在していることは、このわたしはだれよりもよく知っているつもりだ。各国の公権力に察知されてはならぬ以上、その動きは決して見えやすいものであってはならないが、きみたちの時代においても元凶排除措置への連帯を表明するサインはまちがいなく世界的に増加傾向にあると断言できる。
 だからこそわたしは今回きみに声をかけたのだし、あるいはまた、わたしたちの先駆者たるアデリオ・ビスポ・デ・オリベイラと二〇一八年八月ついにタイムトラベル型のコンタクトをとることに成功し、同年九月六日木曜日、ブラジル南東部ミナスジェライス州での遊説中に実施された、ボルソナロ襲撃計画を全面的にサポートするにいたったわけだ。結果は失敗に終わってしまったが、襲撃じたいはつつがなく実行されて本懐完遂まであと一歩というところには到達しえたから、次なるチャンスを確実なものとするための手ごたえはじゅうぶんすぎるくらいにつかんでいる。
 すべては先駆者アデリオ・ビスポ・デ・オリベイラの能力発現によりはじまったのだ。一九七九年にアメリカのスティーブン・キング博士により発見された「デッド・ゾーン」なる脳領域――これの活性化にともない先駆者は接触型の透視・予知能力を身につけ、大統領就任後のボルソナロの悪党ぶりとその失政の影響による世界崩壊の過程を幻視した。
 襲撃計画の失敗を見こして先駆者が周到な保管方法をもちいて後世のために残してくれていた予言の書の指示により、はるかのちの破滅した時代を生きるわたしたちにも世界復活のロードマップを作成することができた。そのロードマップをもとに、破局の元凶たるジャイル・ボルソナロが大統領選に向けた選挙活動をおこなうまっただなかの二〇一八年へとさかのぼり、そこを起点としてこのアマゾン・リバイブ作戦を進めてゆくことを決定するにいたったのだ。
 先駆者とのタイムトラベル型コンタクトが無事になし遂げられたのは、DARPAの下部組織たるサイバーダイン研究所の所長ジェームズ・キャメロン博士が開発したばかりの転送型タイムマシン装置の使用を許可してもらえたことがやはり最大の要因だ。当の装置なくしては、わたしたちは歴史に対してまったく無力なまま、終末がぽかんと開ける口のなかへとただのみこまれてゆくだけだったろう。
 かくしてわたしたちは今、ボルソナロ排除の次なるチャンスを確実なものとするべく新たな計画を進めている段階だが、アマゾン・リバイブ作戦の一環としてもうひとつの極秘プロジェクトを同時に進行させているところでもある。そのとっておきの秘密をきみには特別に伝えておこうじゃないか。
 きみはグレタ・トゥーンベリという少女のことをご存じだろうか。
 彼女はきみたちの時代の環境活動家だ。もとい、彼女はきみたちの時代の環境活動家のひとりだ。だがその実態は人間ではなく、わたしたちが転送型タイムマシン装置をもちいてきみたちの時代に送りこんだヒューマノイドロボットというのが彼女の正体だ。たいへんすぐれたAIを搭載し、単身で一国の軍隊を難なく全滅させられる万能最強のソルジャーでもある。彼女の家族を演じているのはわたしの仲間たちだ。
 ジャイル・ボルソナロの排除をなし遂げたあとは本格的な彼女の出番だ。グレタ・トゥーンベリはアマゾンの門番として二四時間やすまず働くことになる。むろんきみたちの時代の代表的なeコマースサイトのほうではなく、南米大陸の国々を流れる世界最長最大級の河川とその流域一帯のほうのアマゾンだ。とてもきびしい門番になるだろう。とてもとてもきびしい門番に彼女はなる。
 ここでようやくわたしはきみに対しひとつめの用件を伝えることができる。
 今回きみがわたしたちの仲間に選ばれた理由はきわめて明白であり、驚くべき事実が根拠になっている。すさみきったこの時代においてはなおさら驚嘆させられてしまうが、たぐいないほどのpurenessをきみは保ちつづけている。きみはpurenessをいっときたりとも失っていない。これは二一世紀によみがえった魔法であり、有史以来ほんの数回しか人類が経験しえなかった奇跡のひとつとさえ言えるくらいに画期的な達成だとわたしは心より痛感している。いったいなぜきみに、きみひとりだけに、それが可能だったのか、いくら考えてもその答えにはたどり着けそうにはないと、未来にいるわたしたちのあいだでは一時期さかんに議論されたものだ。
 きみのpurenessをどのようにしてわたしたちが見てとったのか。それはここよりはるかのちの時代に稼働中の超高性能テクノロジーをもってすれば造作もないことであり、主にはきみが愛用しているPCにそなえつけられたウェブカメラを通じて確認させてもらっている。
 二四時間のうち日々たいてい一四時間は愛用PCの前にきみは座りつづけているから記録は膨大な量にのぼっている。したがってわたしたちのえているデータに認められる誤差はひじょうに少ないと断言できるし、それに基づく分析結果にも確固たる自信を持っている。わたしたちの作戦にとってきみが高度な適性を有していることは分析上あきらかであり、統括官に提出する資料用にウェブカメラで撮られた模様はすべて保存されているから、いつでもどこでも再検証できる。かく言うこのわたしもすでに三度ほどその記録に目を通しているのだ。じつに興味ぶかいきみの姿が映しだされていたよ。
 記録内容を自分自身でチェックしておきたいということであれば、その要望には応えられるので安心してほしい。こちらは四八時間内に当該データをきみに送りとどけることが可能だ。
 ただしその場合、時代を超える電子的な手つづきにかかる費用がたいへん高額になるため、任務中のわたしが肩がわりできる額には限度があるのでまずはきみのほうから代金を振りこむ必要がある。入金の確認がとれ次第、きみのPCに当該データが送られることになるだろう。
 支はらいはビットコインを利用できる。今から二四時間内に、一〇〇〇〇USドル分を以下のアドレスに送金してほしい。

  1AmazoncoxAnViwUYX9k6KupmmsEfWrGnr

 ちなみにここだけの話、手つづきにかかる費用の総額は一〇万USドルになる。差額はこちらが負担しておくが、これはきみだけに向けたサービスなのでくれぐれも内密にするようお願いしたい。

 追伸
 極秘プロジェクトの真相にせまるこんな記事が出てしまった。わたしたちの作戦がこの時代の公権力に察知されるのも時間の問題かもしれない。これからわたしは仲間たちと決行時期変更の話しあいをおこなう。いずれにしてもスケジュールが早まる公算がおおきい。きみが早急にわたしたちの作戦に参加してくれることを強くもとめている。

環境活動家トゥンベリさん、「時を駆ける少女」だった? 19世紀にそっくり写真
2019.11.22 Fri posted at 13:55 JST

(CNN) 世界のリーダーを相手に地球温暖化対策を訴え、若者を動員してストを展開する16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさん。ところが同一人物としか思えないような少女が写っている19世紀の写真が発見され、トゥンベリさんが時を駆けるタイムトラベラーだったという説がSNSで飛び交っている。

「120年前の写真をきっかけとして、環境活動家&環境ヒロインのグレタ・トゥンベリさんが本当は『時間旅行』をしていて、私たちの惑星を救うために時を越えてやって来たという説に火が付いた」。あるユーザーはツイッターにそう書き込んだ。

「グレタ・トゥンベリさんは太陽光発電のタイムマシンを使って時間旅行をしているに違いない」という投稿もあった。

一方で、これは暗黒の未来を写した写真だという説を唱えるユーザーも。

トゥンベリさんのドッペルゲンガーが写っているのは、1898年に撮影された白黒写真。3人の子どものうち1人が、トゥンベリさんにそっくりだった。米ワシントン大学図書館によると、カナダのユーコン準州で金を探す子どもたちをとらえた写真だという。

現代のトゥンベリさんは温暖化ガスを排出しないヨットでポルトガルへ向かう途上にあり、今回の騒ぎについてはコメントしていない。ただ、タイムトラベラー説が浮上する前に、自らの白黒写真を共有していた。もしかすると、こうなることを予知していたのかもしれない。

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