小説『鰓呼吸。』 #1(いずみ)
ーーいったいどういう気持ちでこの絵を描いたのか?
いずみはポール・ゴーギャンの絵の前で立ち止まり、かれこれ10分ほど作品を凝視していた。
タイトルは「花束」。1897年の静物画で、背の低い籠なのか、花瓶なのか、焦げ茶色の入れ物から鮮やかな花があふれている。手前に描かれた赤い花が印象的で、画面左下には洋ナシのような果実が4つ転がっていた。
絵画の横にある説明書きをもう一度見る。ゴーギャンは、愛娘を亡くし、病気に苦しんで自殺を図ったが失敗・・・その直後にこの絵を描いたという。