以前、仕事帰りにバスの後部座席で居眠りしてしまい、終点の先の車庫まで行った事がある。車庫とはつまりその日役目を終えたバスが集まる場所。目を覚ますとバスはエンジンを止めていて、辺りはすっかり暗くなっている。もちろん乗客も運転手もいない。バスの中には僕一人きりであった。

うまいこと運転手さんの死角に入ってしまったのだろう。僕はバスの中に閉じ込められた形であった。

バスの中に取り残された事がある方はわかると思うが、ちょっと焦るのである。

普通自動車ならば内側からロック解除すれば外に出られるが、バスの中に閉じ込められた状態から抜け出すにはどうしたらいいか知識がないので、焦るのである。

しかし。

必ず脱出方法はあるはずだと信じ、考えを巡らせ、観察し、どれくらいだろうか、5分くらいで、緊急時のロック解除レバー(ボタンだったかな)を発見し、それを起動させて扉を開けて、無事に脱出したのであった。

幸いにもバスの車庫の敷地内に詰め所みたいな掘立小屋があって、人の気配がしたので入ってみると運転手さん達が歓談していた。

「バスに乗っていたのですが、出られなかったので緊急レバーで扉を開けて出て参りました。そういうわけで後はよろしくお願いします」

僕はバスを勝手に弄ってしまった事をお詫びしてその場を後にした。

運転手さん達は皆きょとんとしていたのを覚えている。


こんな経験をしましたが僕はバスが好きです。

「TOKYO EYES」という内容をすっかり忘れてしまった映画においてバスのシーンは鮮明に記憶に残っているし、昔の仲間がカラオケで歌った「バスストップ」という曲がたまに頭の中でリフレインする事があるし、ストレスが溜まったなあと思った時には「あてもなくバスの終点まで行く」という方法で発散していた時期もありました。


そして。

新たに引っ越した家の近くには循環バスのバス停があって気になっておりました。そしてついに本日、そのバスに乗って、税務署やら区役所で用事を済ませ、東京スカイツリーで買い物をして帰ってきました。

その循環バスには3つのルートがあります。赤色の車体の北西部ルート、黄緑色の車体の北東部ルート、そして一番バス停の数が多い、紫の車体の南部ルート。僕は南部ルートに乗り込みました。

落語にもなっている杉山検校ゆかりの江島杉山神社入口を通り、勝海舟生誕地、吉良邸跡、時代劇や時代小説の舞台にもなる六間掘跡、横綱が土俵入りを奉納する野見宿祢神社、国技館も通って、すみだ北斎美術館(順不同)。東京スカイツリータウンから押上駅に到着して振り出しに。

自宅近くのバス停まで帰って来ました。

車内は空いていて乗り心地も良く、大通りからちょっと脇に入った車窓を眺めてのんびり戻ってくる道中の幸福感。

バスの窓からさーっと吹いてきた夏の風に包まれた僕は、時空の狭間に迷い込んだようになって、ほんのちょっとの間、正確な自分の位置を見失います。

まさにそれが小旅行の証なのだと思うのです。

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