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神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (128) 一目惚れ

リオとレオンは無事にフォンテーヌ王国のシモン公爵家に戻ってきた。アンドレやエディも帰邸して屋敷は益々賑やかになった。

ジョルジュが筆頭執事に戻り、代行で筆頭執事をしていたセバスチャンはプレッシャーから解放されたようだ。

「ジョルジュさんの靴は大きすぎて、僕では埋められません」

というセバスチャンの言葉が印象的だった。

***

戦争が終わり多くの変化が起こった。でも、全体的に良い方向に変わったと思う。

一番大きな変化は、コズイレフ帝国がスラヴィア共和国になったことだろう。

スラヴィア共和国のキーヴァ・オライリー大統領は素晴らしい統治能力を発揮し、あんなに広大な国が変革したのに特に内乱もなく、新政権は人々に歓喜を持って迎えられたという。

旧皇族や旧貴族の中には外国の貴族の伝手を頼って、亡命を試みた者もいたようだが、キーヴァが神から直接力を賜った地上最強の戦士であるという噂を聞き、彼らの亡命を助けようとする者はいなかった。

彼らは財産を取り上げられ、帝政時代の汚職の罪で裁判にかけられている者もいる。

それ以外の旧皇族・貴族は「お前らを養う国家予算はねえ!」(サン談)と言われ、男性は新兵として軍隊で一から鍛えられている。女性は厳しい侍女教育を受け、自分の食い扶持は自分で稼がないといけないという厳しい現実を教えられているらしい。

なんか良い国になりそうじゃない?『頑張れ!』とキーヴァを応援したくなる。

国王を始め、リュシアン、アンドレ、レオンは後片づけでずっと忙しそうだったけど、ようやくフォンテーヌ王国も落ち着きを取り戻しつつある。リオは他の人たちほど忙しくないので、相変わらず療法所で診療をしている。

アニーは初めて行われる看護師認定試験を受験する予定で、仕事の合間に一生懸命勉強している。パスカルから「試験に合格したらアニーにプロポーズするつもりなのよ~」と相談され、ついニヤニヤが止まらなくなった。アニーなら絶対合格するから、プロポーズ頑張ってね!と応援している。

アンドレとエディは「絨毯のシミ」発言が信じられないくらいのアツアツぶりを見せつけてくれるし、最近周囲にはおめでたい話が多い。

おめでたと言えば、リオの赤ちゃんも順調だ。ものすごい波動と魔力をお腹から感じる。ちょっと怖いくらいに元気である。

「あの修羅場を無事にくぐり抜けた赤ん坊は、もう何でも大丈夫な気がする」とレオンは諦めたようで、リオは比較的自由な生活を送っている。勿論護衛は付いているけど、エミリーやアメリともお茶したり買い物に行ったり、毎日楽しい。へへ。

そんなこんなで平穏な日々を送っていたリオたちだったが、次に発生したイベントは『三国同盟祝賀会』だった。

この戦争はフォンテーヌ王国、シュヴァルツ大公国、スミス共和国の三国同盟の完全勝利であるため、戦勝に貢献した人達を褒章し、「ついでに盛り上がっちゃおうぜ」(サン談)というイベントらしい。

フォンテーヌ主催で行われる祝賀会には、スミス共和国とシュヴァルツ大公国からの代表団が参加する。実戦に貢献した人だけでなく、兵站で活躍した人、戦略・情報戦で活躍した人など、多くの人に勲章が与えられるという。

リオも褒章授与を打診されたが丁重に辞退した。

(目立ちたくないしね~、それにレオン様はともかく私は大したことしてないし)

リオに打診したリュシアンは苦笑しながら「リオならそう言うと思ってた」と簡単に引き下がってくれたので助かった。でも「レオン様の褒章は?」って尋ねたら「いや、アレックスを知っている人が多すぎて無理だよ」と笑われた。

(ああ、そうか。いつも忘れちゃうのよね)

レオンは、褒章式も舞踏会にも出席できないと言われて落ち込んでいた。そういう式に出席したいというより、リオが出席するのに自分が出席できないのが辛いらしい。

レオンが変装して目立たぬようにリオの周囲をうろついていると提案しだしたので、リオは自分も欠席することに決めた。公爵家養女だけど、病弱設定が入っているし大丈夫じゃないかな?コミュ障で社交は苦手だし。

リュシアンとセリーヌは苦笑いしながらも理解してくれた。

自分には療法所があるし、レオンと一緒に仕事をしていた方が楽しいと言ったら、レオンに感極まったように抱きしめられた。

***

祝賀会が終わったらカール、ルイーズとアベルはシュヴァルツ大公国に帰国する予定だ。

エディとカールの関係は改善し、二人で仲良く散歩する姿をよく見かける。ただ、カールは「やっぱりお祖母さまとは呼べないけどな・・」と苦笑していた。ルイーズとエディも祖母と義理の孫というよりは仲の良い友達という雰囲気だ。まあ、無理もない。

エディはアベルも可愛がっているし悩んだみたいだけど、結局フォンテーヌ王国に残ってアンドレと一緒に暮らすことを選んだ。

(兄さま、感激で泣いてたよ。良かったね。兄さま)

そういう事情もあり最近リオはルイーズやエディとお茶をしながら、おしゃべりに花を咲かせることが多い。

「ルイーズがシュヴァルツ大公国に行ってしまったら寂しくなっちゃうな。せっかく仲良くなれたのに・・・」
「リオ、私も寂しいわ。でも、是非いつか遊びに来て、シュヴァルツにも観光名所が沢山あるのよ」

うん、少ししか居られなかったけど、シュヴァルツ大公国は素敵な国だった。馬車の中から見た景色だけでも本当に美しかったもん。

「新婚旅行にいいんじゃない?ロマンチックな古城ツアーとかあるわよ」

とエディにも言われて、リオは俄然乗り気になった。

勿論、赤ちゃんの都合が優先なので新婚旅行は無理かもしれないけど、いつか家族で旅行できたらいいな。

しばらく談笑した後、ルイーズが少し表情を曇らせながらシュヴァルツ大公国に行った後の不安を語った。

「エレオノーラのことがね・・・」

リオとエディは「ああ」と頷いた。

エレオノーラは意識を取り戻し、エラの陰謀、つまりエラがエレオノーラを殺して体を乗っ取ろうとしていたことを聞いたらしい。彼女が受けたに違いない衝撃は想像に余りある。

現在はアンゲラ大公妃がエレオノーラの面倒を見てくれているそうだが、シュヴァルツ大公国に戻ったら、カール達と一緒に暮らすことになるかもしれない。エレオノーラとはこれまで全くと言っていいほど交流がなかったので、カールもどうしていいか分からないそうだ。

ルイーズは実の母親に殺されそうになったエレオノーラに同情的で、出来たら仲良くなりたいけど、ルイーズはエラにとっては敵だったという微妙な立ち位置だ。どのように接していいか分からないと悩んでいる。

祝賀会にはエレオノーラも出席予定で、その時にルイーズとアベルはエレオノーラと初めて対面することになる。

「カールは女性の感情の機微を察して、気を回せるほど器用ではないのよね・・・」と溜息をつくルイーズ。

(うーん、難しい問題だね・・・)

リオとエディはどう答えて良いか分からない。

「ごめんね。案ずるより産むが易しと言うし、頑張ってみるわ!」

前向きなルイーズの発言に、リオは「何かあったらいつでも相談してね」というありきたりな言葉しか掛けられなかった。

*****

そして祝賀会が終わった。大変盛況だったという。

リオは祝賀会から戻ってきたエディとルイーズを出迎えた。エディとルイーズは目を爛々と輝かせて興奮している。

「な、なに?何かあったの?」
「あのね!凄いことがあったのよ!」

開口一番エディが叫ぶ。

ルイーズのキラキラした瞳も尋常ではない。

「あのね、エレオノーラがベルトランドに一目惚れして、押し掛け女房になったのよ!」

えええええええええ!?

ベルトランド率いるブーニン地方の獣人たちも戦功で勲章を賜ったらしい。

「確かにね。ベルトランドはカッコ良かった!もうあの筋肉がすごいの・・・逞しくて」

とエディが叫ぶ。

(うん、兄さまには内緒ね)

「そうね。物怖じすることなく国王陛下の前に堂々と立つ姿は素敵だったわ。騎士服のような礼装が良く似合っていて、精悍な顔立ちが更に際立って・・・」

ルイーズもうっとりしながら語る。

(うん、カール様にも内緒にするわ)

「でも、それがエレオノーラのハートを打ち抜いちゃったらしいのよね」

エディとルイーズは腕を組んでうんうんと頷いた。

エディが話を続ける。

「それでお祝いの舞踏会で、エレオノーラがベルトランドにダンスを申し込んだのよ」

(さすがエレオノーラ、積極的だ)

「それで公衆の面前でお嫁にして欲しいとお願いしたの、ね、エディ?」

ルイーズが話を引き取る。

(うぉ!それは勇気がある)

レオンやアンドレは嫌がっていたけど、きっとエレオノーラは自分の感情に素直なのだと思う。

ベルトランドは紳士だから、人前で女性に恥をかかせるようなことはしないと思うけど、何て返事したんだろう?

エディが話を続けた。

「ベルトランドはね。自分たちは農民だって言ったの。だから、農業ができる嫁じゃないとやっていけないって」

(なるほど。エレオノーラのような貴族のお嬢さまじゃ無理だって遠回しに断ったの、かな?)

「そしたらね、エレオノーラは農業でも何でも勉強して頑張るから、傍において欲しいってお願いしたのよ。その姿はいじらしくてね。つい抱きしめたくなるくらい可愛らしかったわ」

というルイーズの言葉に、確かにそれは健気だと感銘を受けた。正直、どこまで本気なんだろう?とは思うけど。

「ベルトランドは一ヶ月間どれだけ農業が出来るか様子を見てから判断するって言ったの。エレオノーラはそれで構わないって言ってね。今朝ベルトランドがブーニン地方に帰る時に一緒についていったわ」

ルイーズは少し心配そうな面持ちになる。

「あの子、大丈夫かしら・・・?辛かったらいつでも帰ってらっしゃいね、とは言ったんだけど・・・」

ルイーズの言葉には愛情がこもっていて、ちょっと安心した。

「ルイーズ、エレオノーラとの関係を心配していたけど、上手く行ってるみたいじゃない?」

と言うと、ルイーズは少し恥ずかしそうに頷いた。

「初めて会った時は、私もエレオノーラも緊張していてね。なかなか話せなかった。でも、アベルを通じて少しずつ話せるようになったの。アベルにとっては異母姉だからね。『お姉さんよ』って紹介したら、アベルが話をつないでくれて・・・まあ、何とか」

エディも「噂で聞いていたよりも悪い子じゃなかったわよ」と言うので、リオはなんだか嬉しくなった。

「それにしても、フォンテーヌ国王家の王女の血筋って怖いわね・・・」

とルイーズがしみじみ嘆息する。

「そうよね・・。スタニスラフに一目惚れして無理やり嫁入りした先々代の王女といい、カール様に一目惚れして無理やり嫁入りしたエラといい・・・」

リオが呟くと、エディが「現国王陛下に王女がいなくて本当に良かったわね」と付け足した。

三人で顔を見合わせて溜息をついた後、クスッと笑ってしまった。

***

エレオノーラのことをリュシアンに尋ねると、彼も心配しているようだった。

「エレオノーラはどうでもいいが、ベルトランドに迷惑を掛けたくない。ベルトランドには『手に負えなくなったら遠慮なく追い出していい』と伝えたんだがな・・」

リュシアンは腕を組んで肩を落とした。

「まあ、近いうちに様子を見に行くつもりだ。一応姪だしな。ベルトランドに迷惑を掛けているようなら、すぐに引き取るから・・・」

とリュシアンは困ったように頭を掻いた。


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神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (129) セイレーンの未来|北里のえ (note.com)

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