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神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (103) アントンの事情 その2

「若くて独身の享楽的な皇子と、同じく独身生活を謳歌している外国からの若者(貴族)が二人集まったら、一番自然なことは高級娼館で遊ぶことです!」

という力強いエレナの言葉にアントンは渋々と頷いた。

「・・・でも、俺さ、娼館とか行ったことないし・・・。どうやって遊ぶのかな?」

オドオドと男として情けないことを言うと、エレナがブホッと噴き出した。

なんだ失礼な!

エレナがクスクス笑いながら

「し、失礼しました。あまりにピュアでいらっしゃるから」

と言う。

自分の顔が赤くなるのが分かった。悪いか。チキショー。

「失礼ですが、今まで恋愛経験は?」

「ないよ。知っているだろう?」

「好きになったことも?」

「・・・・ない・・のかも」

「色んなご令嬢と遊んでいるイメージがありますけどね。女好きの殿下なんて言われてますよ。チャラいから」

「・・イメージだけだ」

「リオ様のことは『可愛い』って大騒ぎしてたじゃないですか?」

「いや、リオちゃんは可愛かったよね?」

「まあ、確かに。アンドレ様の妹君でしたら愛らしくて当然ですが」

「ん?」

エレナを見ると、赤くなって何度も咳払いをしている。

「でも、リオちゃんはさぁ、可愛いけど、なんか違うんだよな~」

「突然、強気ですね?」

「俺はもっとこうさぁ、庇護欲をそそられるというか。守ってあげたくなるようなか弱い女の子が好きなんだよねぇ。リオちゃんは何だかんだ言って逞しそうじゃん?」

その台詞にエレナが「げ、キモ」って言うのがバッチリ聞こえた。

「エレナはどうなんだよ?」

分かっててわざと聞いてやる。

エレナは顔を真っ赤にして

「わ、私のことはいいんです」

と焦っている。

「エレナはさぁ、アンドレみたいにちょっと頼りないってゆーか、残念な感じの男を支えてあげるのが好きなんだよね」

と言うと、エレナは悲しそうにしゅんと俯いた。

(やべ・・まずいこと言ったか?)

「私は単なる侍女です・・・。アンドレ様と身分が違うのは分かっていますし、アンドレ様を支えるなんて恐れ多いことできません。・・・でも、でも、アンドレ様は残念な感じではありません!」

最後は大声で言い放った。顔が泣きそうに歪んでいる。しまったな・・・。

「わ、分かった。ごめん。俺が悪かったよ。冗談だから・・」

と必死で謝った。

「まぁ、でも、ちょっと頼りない残念な男性を支えたいという気持ちは分かる気がします。出来が悪い子ほど可愛いというか。ですから殿下にお仕えしているんですよ」

とエレナがニヤリと笑う。

「言うね~~」

と笑いながら『俺たちはこんな関係が一番居心地いいんだ』と自分に言い聞かせた。

***

その後、エレナは本当に高級娼館の予約を取ってきた。夜にそこでアンドレと落ち合う約束だ。

アントンはその娼館の一室でアンドレの到着を待っていた。エレナは静かにアントンの隣に控えている。

「この娼館は私の知り合いが経営していて、良心的で信用できるところです。密談をするには最適の場所ですよ」

とエレナがコソコソ教えてくれたので少し安堵した。

(まあ、その、遊び慣れてる風を装わないといけないよな・・)

しかし、召使の少女がお茶を淹れて去っていく時も、何か心づけが必要なんじゃないかとか、色々と気になって落ち着かない。

エレナは「大丈夫です。何もしなくていいです。私が全部上手くやりますから」と、相変わらず頼もしい。

『それにしてもどうしてエレナがこんなところに詳しいんだ?』と考えているうちにアンドレが到着したらしい。

廊下がざわついてノックの音がした。返事をすると真っ赤な顔をしたアンドレがよろめきながら入ってくる。

「・・・あ、あ、ああアントン・・・やあ、元気かい?」

顔を真っ赤にして照れるアンドレ。照れがアントンにもうつった。

「や、やあ、アンドレ。きょ、今日はよく来てくれた」

二人でぎこちなく握手を交わす。

「す、すまない。実はこういうところは初めてで、慣れていないんだ。き、緊張してしまって・・・」

とアンドレは真っ赤になって言い訳する。

なんだこのピュアは、と呆れた視線を送るとアンドレは恥ずかしそうに俯いた。

(乙女か!?)

アントンは自分のことを棚に上げて心の中で突っ込んだ。

ふと見るとアンドレは一人ではない。苦笑いする小柄な美青年がアンドレの隣に立っている。

今日は極秘事項を扱うんだが、と思ったが、こちらにもエレナがいる。アントンがエレナを信頼しているように、アンドレも彼を信頼しているのかもしれない。

でも、一応聞いてみる。

「アンドレ、今日は極秘の話があるんだが・・」

アンドレの隣にいる青年をちらっと見ながら言うと、アンドレは力強く頷いた。

「エディは信頼できる。大丈夫だ」

エディ青年は何も言わずにアントンと握手を交わし、早速密談を始める。

アントンはまずポレモスのことを伝えた。シュヴァルツ大公の治療、フォンテーヌがシュヴァルツで何をしているのかを訊かれたことをアンドレに説明する。

「分かった。ありがとう。ポレモスの注意がシュヴァルツに向いているということだね」

アンドレは満足そうに頷く。

(いいのか?・・・・ま、いっか。アンドレも全てを打ち明ける訳にはいかないのだろう)

その後、皇帝がキーヴァという純血種のセイレーンの少女を娶ろうとしている話をすると、アンドレの顔が怒りに燃えた。エディの表情も強張り、嫌悪感が浮かんでいる。少女はまだ十六歳だというと、二人とも苦虫を嚙み潰したような顔になった。

まあ、これが普通の反応だよな。

「イヴァン皇帝は相変わらずだな」

とアンドレは溜息をつく。

「それで君が使者として村長に会いに行くんだな?」

アントンは頷いた。

「村長はどうするだろうな?」

アンドレに尋ねると、彼はエディの方を見た。

エディはふっと力を抜いたような動作を示す。すると彼の目の色が変わった。

茶色だった瞳が赤く輝いている。これはまさか・・・?

「騙していてごめんなさい。実は私もセイレーンなんです」

「え、その声は・・・?」

「はい、しかも女です」

エディが恥ずかしそうに言う。

アンドレはエディを愛おしそうな瞳で見つめながら

「エディは村長を子供の頃から知っているから、エディの意見を聞いた方がいい」

と口添えした。蕩けそうに甘い表情だ。

(んん???アンドレはもしかして・・・?)

つい気になって、エレナを見てしまう。彼女は切なげな顔で俯いている。何故かアントンの胸も痛んだ。

エディは軽く咳払いをして話し始める。

エレナも気になるが、アントンはエディの話に集中するために頭を切り替えた。

「村長はこれまでは皇帝の要求をそのまま村人に伝えていました。それに抗えないと思っていた村人が要求に応えていたに過ぎません。キーヴァの両親は、昔キーヴァを皇帝に渡すことを嫌がって、禁忌の術で別な少女を作り出し皇帝に差し出したくらいです。村長も分かっていますし、今回はさすがに嫌だと村長に伝えるでしょう。そうしたら村長が皇帝に対し否(いな)と返答する可能性があります」

「村長が断った場合、皇帝は怒って軍を送るだろうね」

「村長はクリエイターです。この世界に村長の力に敵うものはありません。軍は返り討ちだと思います」

「まぁ、そりゃそうだな。神様に喧嘩を売って勝てるはずがない」

エディがふっと微笑んだ。

「そうですね」

「ただねぇ、俺の父親だけど、この国の皇帝はバカなんだよな。ブライドが異常に高いし。セイレーンの村に全軍総攻撃でも加えそうじゃないか?支援を打ち切ると脅すとか・・」

「それでも村長は指一つで簡単に勝つでしょうね。それに支援といいましたが、本来村長に支援など必要ありません。貢物を持ってくるなら受け取ってやるか、くらいの感覚だと思います」

さすがにアントンとエレナは驚いて顔を見合わせた。

「じゃ、じゃあ、そもそも村長がフォンテーヌに味方すれば、戦争なんて簡単に防げるんじゃないの?」

というとエディとアンドレは難しい顔で首を振る。

「村長は人間の活動には極力関与しないのよ。不干渉、無反応、非介入が原則だから・・・ただ・・」

エディは少し心配そうに付け加えた。

「今回は今までとは違う気がする。いつもより大きく干渉しているの。だから、今回のキーヴァの件ももしかしたら、私の予想とは違う反応をするかもしれないわ」

(うーむ・・・使者としての俺の役割は大きいということか・・)

アントンは考え込む。

その時エディが

「村長に伝えに行く時に私も連れて行ってくれない?」

とアントンに頼んだ。

アンドレが「危ないよ」と言うがエディはガン無視だ。

アントンはエディと一緒の方が村長との話し合いが上手くいくかもしれないと考えた。

「いいよ。ただ、村への行き方はこの国では極秘なんだ。だから、使者も俺だけじゃないと皇帝が許さないと思うんだよね。だから、物資の箱の中に入ってもらうことになるけどいいかな?」

エディは全く構わないと言う。アンドレだけがアワアワと抗議をしていたが、エディに「過保護過ぎる絨毯のシミなんて最低」と罵られていた。

なんだこの二人は?

ま、いっか。取りあえず、村に行く手筈とエディを物資に紛れ込ませる方法を話し合い、その日の話し合いは終わった。

娼館から出る前に、すれ違った美女にウィンクされたり手を触られたりする度にビクっとして赤面するアンドレに「初心(うぶ)だなこいつ」と独り言ちたら、「殿下も同じですよ」と小声でエレナに囁かれた。

悔しいがアントンは言い返せない。

だから帰り際、アンドレに「エレナ、今夜はありがとう」と話しかけられ、熟れたトマトみたいな顔をして「は、はい!と、とんでもないです!」と裏返った声で返事をしていたエレナの耳元で「お前もな」と囁いてやった。

面白くない。


続きはこちらからどうぞ(*^-^*)
神の力を貰ったので遠慮なく世界を癒します (104) エディの気持ち|北里のえ (note.com)

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